onshitsu さんの感想・評価

4.7
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態：観終わった

少年たちの魂の交流の物語

【キャラクター】
◆アッシュ・リンクス
主人公 17歳（最終話19歳）
金髪翠眼、美形、IQ180以上、卓越した射撃能力を持つストリート・キッズのボスでカリスマ的存在。
生まれ持った才能や美貌ゆえ、周りの大人たちから道具として利用され、搾取されてきた過去を持つ。
幼い頃から受けてきた性的虐待のトラウマや、殺人鬼であることの罪悪感、親から愛情を得られなかった愛着障害などから、心に深い孤独を抱えた少年。

◆奥村 英二
ヒロイン 19歳（最終話21歳）
ストリート・キッズの取材にやってきたカメラマンの助手で、大きな目と童顔がコンプレックスの日本人大学生。全国トップクラスの才能ある棒高跳びの選手だったが、ケガが原因でスランプに陥った。
心優しく正直で素直な性格で、周囲の人間に無自覚に癒しを与え、心を和ませる不思議な力を持つ。人の庇護欲をかきたてる存在。主人公の精神的支柱。

【ストーリー】
主人公アッシュが「バナナフィッシュ」の謎を追い求めつつ、マフィアのボスと闘うハードボイルド・サスペンス。といわれればその通りなのだが、物語の軸となっているのは、やはり少女マンガが原作らしく、主人公とヒロインの関係性だ。その描き方が絶妙で美しい。

誰にも心を開けなかった孤高の存在であるアッシュが、英二にだけは弱さを見せられる。英二のそばではただの17歳の少年に戻れる。アッシュにとって英二は光であり、ずっと追い求めていた自由と、幼い頃失ってしまった無垢なる心の象徴。
そして何もかも知った上でアッシュを恐れず嫌悪せず、すべてを受け入れて傍にいてくれる奇跡のような存在だ。凄惨ともいえる人生を送ってきたアッシュにとって、英二と出会えたことは人生唯一の幸福なのだ。だからこそ危険だと分かってはいても一緒にいたい。英二を守りたい。

一方平和な日本に生まれ育ち、銃など見たことも触ったこともなかった英二は、誰より強いはずのアッシュの脆さや繊細さ、心に抱えた傷や孤独にただひとり気付き、無償の愛と優しさから彼を守りたいと強く願った。
面白いのは、英二はヒロインらしく戦闘力において作中最弱で、子ども（スキップ）より女性（ジェシカ）より弱い。にもかかわらず、その英二だけが唯一アッシュをまったく恐れず、彼を守りたいと思った。それがこの物語のミソだろうか。
「アッシュはユニコーン、英二は聖処女」という原作者の言葉通り、英二という存在はアッシュのアキレス腱であると同時に、放っておけば怒りに飲まれ悪魔と化してしまうアッシュの人間性をギリギリのところで保っている精神的支柱だ。

幾つもの悲惨な出来事を乗り越えて育まれるふたりの絆。彼らの間にあるのは単なる友情や恋愛を越えた、エゴなどまったくない限りなくピュアな愛だ。（いいなぁ本物。誰でも手に入るものじゃない。）
相手を自分より大切に思う彼らの行動が物語を動かし、傷付きながらも闘い続け懸命に生きたひとりの少年の崇高な魂が救済される美しいラストへとつながっていく。

【感想】
アニメを見て気に入って原作も読んだ。最近でこんなにハマったのは「進撃の巨人」とこちらのみ。この作品の良さは色々あるけれど、その一つはリアリティだと思う。「進撃の巨人」はファンタジーだが「BANANA FISH」は違う。闇社会の話だがあくまで現実だ。

アッシュとオーサーの決闘のラストシーン。目の前で人間が喉から血飛沫を上げ鉄橋から落下して死ぬのを見て歓声を上げるストリート・キッズたち。英二視点からすれば異常な光景だ。光の世界の住民にとって殺人はどんな理由があろうと喜ぶべきことでもカッコいいことでもない。そして病院のベッドに並んだ幾つもの少年たちの遺体。主人公の行いを決して善としない。すっかり物語に入り込んでしまっている視聴者が忘れがちな大切な視点を思い出させてくれるリアルな描写だと思った。

そしてアッシュと英二。彼らについて考えると今も胸が苦しい。良質な魂を持ったふたりの少年が他に何も求めず願ったのはただ互いの傍にいることだったのに、それすら叶わなかった世界が悲しい。
それでも彼らが出会えたことは幸運だ。ソウルメイトと呼べる存在とめぐり会える人間が、果してこの世界に何人いるか。誰にも断ち切れない絆で結ばれた「魂の相棒」たるふたりは必ずまたいつか何処かで出会うだろう。その時は住む世界が違うなどと悲しいことを言わずとも一緒にいられる優しい世の中であってほしい。