青龍 さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
少佐、異世界で何やってんすか?
くろかたによる原作小説は、「小説家になろう」から「MFブックス」(フロンティアワークス・KADOKAWA)で刊行中(既刊14巻、原作未読)。
アニメは、全13話(2024年)。監督は、緒方隆秀。制作は、スタジオアドと『ドラえもん』、『八男って、それはないでしょう!』、『僕の心のヤバイやつ』などのシンエイ動画との共同製作。
(2024.7.19投稿)
【少佐、異世界で何やってんすか?】
本作を観ていて、まず思ったことは、「少佐、異世界で何やってんすか?」と(笑)
ここでいう「少佐」は、マスクを被って機体を真っ赤に染めて性能を30%あげたら速度がなぜか3倍になる方ではなく、『攻殻機動隊』の草薙素子少佐の方(※中の人の愛称も少佐)。
本作に登場するローズは、中の人が同じ田中敦子さん、主人公に兵士としての過酷な訓練を課し、その疲労などを治癒魔法で無理やり回復させ、さらに過酷な訓練を繰り返すという偏った脳筋メスゴリラ思考っぷりが「少佐」を彷彿とさせます(ただし、少佐の性格には作品によって若干のゆらぎあり。)。
その存在は、ある意味、ブートキャンプで新兵をしごく鬼軍曹をしのぐ怖さで、ローズ隊長に対して、思わず“イエッサー”と敬礼したくなります(笑)
こんな感じで、本作は、主人公が異世界転移するものの、他の「なろう系」と違ってあらかじめ与えられたチート能力で無双するのではなく、治癒魔法による常軌を逸した肉体強化によって無双するというのが売り。
(※視聴前は治癒魔法で過剰回復させて細胞を破壊する的な使い方(例えば、『ダイの大冒険』の閃華裂光拳)なのかと思っていたら、その斜め上でした(笑))
【あらすじ】
主人公の兎里健(うさとけん:CV.坂田将吾)は、進学校に通うも冴えない高校生であったが、才色兼備で勇者として召喚された生徒会長・犬上鈴音(CV.七瀬彩夏)と副会長・龍泉一樹(CV.高梨謙吾)の異世界召喚に巻き込まれてしまう。
望まれて異世界に召喚されたわけではなかった主人公であったが、治癒魔法の素質を持っていたことがわかり、「救命団」なる謎の部隊に配属されることに。
救命団とは、隊長のローズの下、治癒魔法で鍛え上げた肉体で戦場を逸早く駆け巡って負傷兵を回収し、その治療を施すという脳筋集団であった。
【主人公はローズ隊長!?】
本作では、「主人公はローズ隊長」といっても過言ではない圧倒的な存在感が彼女にはあります。
また、彼女は、ただ厳しいだけではなく、その裏に隠された優しさが垣間見えるところがまたいいんですよね。
特に彼女が「救命団」なる謎の脳筋集団を作るきっかけとなるエピソードが8話(か9話)にあるんですが、結構いい話と演出に仕上がっていると思います。
個人的には、ローズ隊長は話数が進むにつれて主人公と「師匠と一番弟子」という関係になっていくのですが、そのうちローズが「このバカ弟子が」といい、主人公が「流派東方不敗は王者の風よ」とかいいだしそうな雰囲気です(笑)
そんな“脳筋師匠”と“バカ弟子”が織り成す熱い話が、本作の魅力の1つになってます。
【戦争と治癒魔法】
さて、戦場における治癒魔法って、ある意味、戦争に対して、直接的には、すごい無力だと思うんですよ。
なぜなら、救命団は、戦場で傷ついた兵士を回収し癒すわけなので、根本的な戦争の原因を直接排除するわけではない。なので、起こってしまった戦争を直接止めるということに対して、すごい無力だからです。
しかも、主人公は、{netabare}戦場で敵を殺すことを躊躇っていて、拳に治癒魔法をまとわせ、敵を殴りながら同時に相手の傷を癒し、{/netabare}相手に苦痛のみ与えるという「お仕置き」的な攻撃に終始しています。
まして、救命団は、負傷兵を回復させては直ちに戦場に送り返しているわけですから、見方によっては戦争の継続を助長しているともとれる。
言ってみれば、救命団は、戦争に対して、その関わり方が非常に間接的なんです。
だから、彼女たちの活動に対して、生死をかけた戦場でそんな焼け石に水的なことをして生ぬるいんじゃないかとか、なんで戦う能力があるのに自分で直接戦わないのかといった疑問が出てくると思うんです。
これに対する一つの答えなのかもしれませんが、作中でローズが{netabare}「殺してしまっては相手に恨まれる」と言っています。
後に敵であった黒騎士(CV.悠木碧)が救命団に加入することになりますが、それが単なるご都合主義展開ではなく、本作では治癒魔法による博愛主義を掲げていたからこそであった、という説明はできるかもしれません。
また、おそらくこの後は、敵である魔族との和解という話になりそうですが、救命団である主人公がその役を担うのに適任という見方もできるかもしれません。{/netabare}
本作に限らず、なんで戦うのか、なんで殺し合うのか、なんで憎しみの連鎖を断ち切れないのかという、“おもーい”テーマを比較的軽めに取り上げようとしたアニメは他にもあります(例えば、『勇者、辞めます』など)。
本作も、それらのおもーいテーマを真正面からきちんと受け止めているわけではないのですが、治癒魔法と救命団という独自の仕掛けを通じて、説教臭くない範囲でその辺をうまく扱っているところが他の「なろう系」作品との違いだと思いました。