ひろたん さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
とても上手く構成された物語。でも、だけど、なんだか、やっぱり鬱…
この作品の原作は、読んだことがありません。
予告編からは 、夢に向かう青春ものと思っていました。
すっかり気を抜いて無防備な状態のまま観てしまったのだけれども・・・。
これ、原作を知らずに観た人、どれだけいるんですかね?
感動とか、悲しいとか、そんなレベルじゃありません。
とても憂鬱、メンタルやられる、とてもモヤる、そんな感じ。
ここからは、ネタバレです。
■構成がすごく上手い
{netabare}
「ルックバック」とは、「振り返る」とか「回想」の意味です。
まず、この物語が本当に上手いと思うのは、この「振り返る」瞬間からです。
一般的な話として、青春期、特に中学、高校と一緒に努力した友人がいたとします。
しかし、進む道が違うことで次第に会わなくなります。
そのうち自分のことに忙しくなってその友人のことは忘れてしまいます。
では、その友人のことを思い出すきっかとは、どんなことでしょうか?
人づてのうわさや結婚等の近況報告でしょうか?
いろいろありますが、その程度なら、ただの思い出程度に懐かしくなるだけです。
「振り返る」まではしません。
しかし、今の自分が存在するのは、実は、その友人のおかげだったと。
そのことに本当に気づくきっかけとなると話は違ってきます。
なぜなら、それは、その友人を失ってからだからです。
人は、失って初めてそれが尊いことに気付くことができます。
そして、その友人と過ごした日々を「振り返る」ことによってそれを実感します。
この物語では、「懐かしむ」ことと、「振り返る」ことの違いをはっきりと示します。
まず、ここが上手いなと思いました。
この物語では、主人公の昔の友人が事件に巻き込まれ死亡します。
そして、お通夜にその友人の部屋の前に来た時にクライマックスに突入します。
そのきっかけとなったのが、当時、主人公が書いた4コマ漫画を見つけたときです。
その漫画のおかげで引きこもりだった友人が外の世界に出てきました。
しかし、その漫画がなければ、結果的には死なずに済んだのではと思います。
主人公は、その漫画を破り捨てますが、それに呼応するように、
今度は、その当時、友人が書いた4コマ漫画が主人公の前に現れます。
このシーンは、ドア越しに行われますが、このあたりの構成が、
まるで、4コマ漫画を通して、死んでしまった友人と会話をしているようです。
そして、その内容は、主人公がいて良かったと言ったものでした。
それは、主人公の悲観的な気持ちに「ちがうよ」と答えているようでした。
また、それだけではなく、このシーンをきっかけに、もしもの世界と、
主人公と友人が一緒に過ごした過去の回想がどっと押し寄せてきます。
このあたりの話の構成は、本当に鳥肌ものでした。
それは、主人公の気持ちに共感できるとか、そう言うレベルの話ではありません。
まるで、視聴者の心が乗っ取られたかのような感じです。
視聴者の頭の中に、その友人と過ごした日々の回想と主人公の
どこへもぶつけようのない気持ちが渦を巻いてどっと押し寄せてくるからです。
{/netabare}
■憎らしい小細工
{netabare}
「振り返り」シーンの最後の小細工も、また憎らしいです。
それは、「ルックバック」のそのままの意味の演出も入れてきているからです。
主人公が部屋に入って、「後ろを見る」と、そこには、とあるものがありました。
それは、かつて友人にせがまれて背中側にサインをした上着です。
そのサインをみるためには、もちろん「後ろを見る」必要があります。
また、友人が書いた4コマ漫画のオチも「後ろを見ろ」的なものでした。
他にもありますが、仮にこれらに気付かなくてもストーリーには影響はありません。
しかし、こう言った主題を使った仕掛けをいれてくるのはなかなかだと思います。
{/netabare}
■まとめ
なんだろう、この鬱な感じは・・・。
と、考えてみた結果、それは「理不尽さ」なんだろうなと思います。
夢に向かって努力していた最中に全然関係ない第三者にその道を断たれる。
現実世界でもそう言った暗いニュースは良く耳にします。
そのため、珍しいことでは無いのかもしれません。
でも、そう言った出来事を耳にするたびになんとも言えない怒りがこみ上げてきます。
しかし、いくら怒りをぶつけたところで、元に戻ることはありません。
この作品でも、恐らく嘘であってほしいと思いながら観続けた人は多いでしょう。
そして、一瞬、その救いとなるようなストーリー展開にもなります。
あっ、やっぱり、さっきのは嘘だったんだと思いながらも胸騒ぎが止まりません。
そして、その想いは空しくこれは本当のことだったんだなと現実に突き戻されます。
この理不尽さを目の当たりにして嘘であってほしいと言う願いを見事に打ち砕く。
そんな人の心理を巧みに操れるこの原作者さんは、本当に狂っている・・・。
「天才と狂気は紙一重」と言われますが、まさにそんな感じです。
メンタルやられますが、それでも観て良かったなと思える作品でした。