てとてと さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
水島務監督の奇想天外だけど地に足の着いたロードムービー
水島務監督・横手美智子シリーズ構成のオリジナルアニメ全12話。
7G回線という謎システム稼働後に異変で変容した終末世界で、少女たちが、仲違いして消息絶った友達を探しに、電車で旅をする。
【良い点】
世界観が奇想天外、展開もカオスで飽きさせない。
西武池袋線の各駅や沿線が異世界状態のワンターランド。
この変容もたらしたのが一人の少女の心象風景?ぽく、ある意味セカイ系の様相も。
そこを旅するロードムービーで、何となくアベノ橋魔法商店街を彷彿。
セカイの変容が登場人物の意識によるもの、ロードムービー、最終的なテーマなど、結構共通していると思う。
幼稚な想いから友達傷つけてしまった主人公静留のわだかまりと和解、立ちふさがる異変維持派とのバトルなどのシリアスと、
カオス世界観でのドタバタ劇のコミカルさのバランスも絶妙。
ゴーヤ推しや線路使ったモールスなど、随所にコミカルな遊び心あり、こういうのもアニメの良さ。
6話のギスギスこそあれど、概ね全編通してコミカル寄りに進行するので楽しく見られた。
4人組が頭脳派の晶ちゃん除いて身体能力高く、活劇方面も面白かった。吾野柔術や吾野弓術なワードも面白い。
特に最終話の撫子ちゃんの吾野弓術での路線切り替えはスゴイ。
キャラクターは静留ちゃんが幼稚なタイプだけど、良い意味で萌えアニメから外れた可愛さある。
思春期の未熟さを微笑ましく見ていける。
展開のカオスさとキャラが軒並み勢い重視なためか、6話除けばギスギス感が少ないのも良い。
その6話も必要な回。
テーマとして「変化を恐れず前向きに進んでいこう」的なメッセージを、一見カオスな作風に丁寧に込めている。
かなり名曲なOPとEDの歌詞や、各駅で静留たちに敵対する者たちが共通して現状にしがみついている異様さ、ラスボスの幼稚な現状維持思考などから、かなり分かり易い。
渡りゾンビが一か所に留まっていては維持できない設定も、現状維持へのアンチかも?
7G回線による物理的な距離、電車にアポジー号と名付けた静留と葉香の心理的距離をロードムービーで紡ぎつつ、ふたりの和解と、世界は変わり続けるけれど大丈夫!的なラストから、そう感じた。
このテーマは過去の同監督の「迷家」でも共通していて、ナナキ村から出る者と留まる者に分かれるラストと、本作の完全に元の世界には戻さないラストも相通じる。
一見無軌道に見えて、その実かなり計算して風刺やメッセージ込められていて完成度高い。
nyaro氏が相変わらず完璧な考察されていてもうあまり書くことが無い…
自分なりに考えると、変化を恐れて現状にしがみついた末に衰退した世相風刺なのかなと。
ポンタローの幼稚な責任回避思考を見るに。
あと、エロに弱いゾンビ(たぶんアニメ視聴者風刺)が終盤大活躍するのは、水島監督からのファンサ―ビス。
風刺されていても観客(視聴者)に華を持たせてくれたと解釈。
いずれにせよ、後年再視聴すれば、色々な再発見の余地がありそうな良作。
こういう独創的で魅力的な世界観やテーマを存分に表現しているアニメーションが素晴らしい。
単純に綺麗ではなく、独創性が高い。これぞアニメの醍醐味。
キャラデザも単純に可愛いだけでなく、一目でこのアニメだと分かる個性ある。
瞳と唇の描き方が魅力的で、凡百の量産美少女と一線を画す。
晶ちゃんだけ比較的普通の萌え美少女でそれはそれで可愛い。
楽曲も素晴らしい。OPEDいずれも独特で耳に残る上に主題が完璧。
2024春では楽曲面で一番良かった。(音楽アニメのユーフォは別格として)
【悪い点】
世界観とテーマはほぼ完璧だった一方、静留と葉香の友情ドラマという点ではやや不満。
物語的に葉香の出番後半からで、大半が意識稀薄な囚われの姫状態なのもあり、交流の接点が乏しい。
静留の成長という視点が分かり辛い、6話以降なし崩しで進行、最終話後半パートで会話だけで落着するのは、流れとしては分かるけれど物足りない。
6話の静留糾弾回も必要性は分かるが唐突な感じ、これで撫子ちゃんの印象やや悪くなった。
撫子ちゃんについては「田舎の狭い子供たちのコミュニティーの長女ポジションとしての責任感」的な解釈もあり、彼女なりに必死だったのかな?と推察できるけれど。
主要キャラ掘り下げが晶ちゃん玲実ちゃんが一番ちゃんとしてて、他が手薄だった感。
全話通して十二分に面白かったものの、後半駆け足気味で、キャラドラマの面で余韻が足りなかった。
もう少し尺があれば他の駅にも降りて主要キャラ掘り下げが出来たのかもしれない。
死亡したままのアリスとか、茶わん蒸しにされた人々とか、何気に悲しい要素残っているのも引っ掛かる。
【総合評価】8点
これぞアニメの醍醐味!な怪作。
賛否割れるタイプだけど自分は大好き。
惜しい面もあるけれど概ね楽しく視聴出来、また後年見返す価値が大いにありそう。
評価は「とても良い」
ちなみに不評な迷家も自分は大好きだった。
総合的な完成度は終末トレインだけど、キャラドラマとしては迷家の方がしっかり描けていた。