ナルユキ さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
発想と試みは評価したい
1話冒頭から、あの『ハーレイ・クイン』が出てくる。『スーサイド・スクワッド(以下、スースク)』はこれまでに2度ほど実写映画になっており観たことがある人も多いはずだ。DCコミックのヒーローであるバットマンの宿敵はジョーカー、そのジョーカーに恋する乙女がハーレイである。当然、彼女も『スーパーヴィラン(悪役)』だ。
そんなハーレイとジョーカーによる悪事が1話冒頭から描かれる。キャラクターデザインは実写映画のイメージを持ち込みつつも、天野明さんがアニメとして映えるように手を加えつつ手がけており、実写のイメージと大きくかけ離れないようにしながら、アニメという媒体でのキャラクターに落とし込んでいる、てかアニメのハーレイ結構、萌える(笑)
『WIT STUDIO』らしいキビキビとしたアクションも流石だ。アニメーションでしかできないような大胆なカーアクションや格闘シーンを1話冒頭できちんと見せることで、作品への没入感を強めてくれる。
新しい世界に行きたい。別の何処かに行きたい!
そんな冗談のような言葉を言ってしまったせいなのか、ハーレイは他のヴィランとともに捕まり、刑期の短縮を条件に異世界へ送られてしまうところから物語が動き出す。
【ココが面白い:異世界で結成・復活・再始動! スーサイド・スクワッド】
設定的にヴィランたちはこの異世界でのミッションが初対面になるが、本作をDCコミックファンが観るのなら「ああ、最近のメンツか」と合点がいくだろう。
スースクの主人公にして紅一点、言わば看板娘なハーレイ・クイン。
正確無比な射撃能力と観察眼を併せ持つデッドショット。
自称“平和の使者”、だが手段を選ばず結局歩むは悪の道なピースメイカー。
泥の身体を操り様々な形状に変身する技巧派、クレイフェイス。
鮫ベースの巨体と顋{あぎと}で肉弾戦は絶対の自信を持つキング・シャーク。
そして彼女らならず者部隊をおっかなびっくりまとめあげる唯一の常識軍人、リック・フラッグ(後で合流)。
アメコミ世界からやってきたザ☆ヴィランなキャラクターたちが異世界のオークやドラゴンなどを相手取るのは思わずニヤニヤしてしまうシチュエーションだ。
異世界モノといえばメインキャラたちも当たり前のように魔法やチートスキルを使って戦うのが常ではあるものの、彼らにそんな力は無い。クレイフェイスだけが異質ではあるものの、元の世界から持っていた能力や武器を使いつつ戦う姿は爽快感あふれる戦闘シーンになっている。
異世界へ訪れた後の反応も新鮮だ。彼らは送られた世界がどんな世界なのかは知らされてない。剣と魔法、ドラゴンやオークが存在する世界に驚きつつ、異世界人相手には言語すら通じない。
「ご都合主義」な異世界ではなく、丁寧に異世界という舞台を描いている。このあたりは「なろう系」というよりは90年代から00年代前半の異世界系っぽさを感じる部分でもある。
どことなく『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』なども彷彿とさせる部分がある。異世界にはすでに彼女たちよりも先に訪れている兵隊がおり、ゲートによって繋がった世界を侵略し、国益をもたらす。それが彼女たちを捕まえた者の目的だ。
だが、彼女たちはあくまでヴィラン。ヴィランはヴィランらしく、異世界だからと恐れず、彼女たちは自らの流儀──悪を貫いていく。
異世界では帝国と王国が戦争中だ。帝国側にはハーレイたちと同じ世界から来たヴィランが潜り込んでおり、やりたい放題している。そんな戦争にスースクの面々も介入していく。
【でもココがつまらない:悪役らしさの欠如】
ただ序盤こそヴィランらしい彼らの行動や丁寧な異世界への介入ストーリーが悪くなかったのだが、中盤くらいになると問題が出てくる。スースクの悪役らしさが抜けていってしまうのだ。
{netabare}ケチの付き始めはシンカーやエンチャントレスに負けてしまう辺りだろう。彼らは大勢のエルフを洗脳して兵士にしており、スースクの面々と意気投合したオークやオーガたちを皆殺しにするという清々しいほどの悪役ぶりを見せた。そんな奴らに怒りを示して戦えば自ずとスースクの面々は「正義」の立場に置かれる。これでは有象無象の異世界ファンタジーとまるで変わらない。
そして敗北し、首輪型爆弾や王国のお姫様の思惑もあるとはいえリベンジマッチに燃える──こいつらもうヴィランじゃなくてヒーローじゃねえかとツッコみたくなるのが中盤以降の展開だ。{/netabare}
作画に関しても、時折息切れしている部分が中盤を過ぎるとちらほらと目立つ。話のクオリティも作画のクオリティも落ちている印象を抱いてしまう。
【最後にココがひどい:ミスマッチ感とクリフハンガー】
{netabare}最終的にはリッチというアンデッドの王が王国の女王になりすましてわざと戦争を長引かせていたことがわかり、スースクは標的を翻すことになるのだが、どんでん返しとはいえここはかなり徒労感を感じてしまう部分だ。それにそんな異世界側の事情とスーサイド・スクワッドというキャラクターの噛み合っていない感じが凄まじい。
初めての異世界の強敵、それを相手取るラストバトルにてハーレイたちは魔法少女のごとく(変身バンク付で)変身する。アメコミの登場人物が異世界の「魔法」を使うことで今までにない力を得て活躍する姿は新鮮なのだろうが、無理やりアメコミと異世界を絡めました感もあり、手放しには喜べない。{/netabare}
{netabare}さらにラストではジョーカーが黒幕として異世界に出てくるものの、なんだか彼が彼らしくないようにも感じる。
全てがジョーカーの掌の上であり、転がされた者は一人として奴の目的が読めない──というのは恐らく『バットマン』を始めDCコミックでの“お約束”通りなのだろうが、彼は飽くまでも知能犯であって戦闘力は凡人レベルの筈だ。そんな彼がカタナになりすましてハーレイやクレイフェイスと正面から戦うことが出来ており、しかも後者には2戦とも勝ってしまっている。
これも何やら最後に手にしていた異世界の武器が為せる業のようだが、ジョーカーという男はそんな安易に大きな力に頼って事を動かすようなキャラクターであっただろうか。
そんな疑問もまた「自分がジョーカーを理解できないだけ」とも言えてしまうのだが(笑) そのようなツッコミどころを残しつつ、2期を匂わせ海外ドラマでよく見るクリフハンガーという手法で本作は一旦、〆られる。{/netabare}
【総評】
全体的に見てアメコミのヴィランが異世界にやってくるという設定のインパクトはあったものの、出オチで終わってしまった感が否めない。
異世界に来ているのに、結局は元の世界のヴィラン同士の戦いになってしまっている部分が多く、序盤こそオークや聖剣を持つ騎士や魔法などを使う異世界人との戦いという特徴があったものの、中盤からはヴィラン同士の戦いばかりだ。悪VS悪というのは本来オツなものだが、成り行きな部分も大きいとはいえスーサイド・スクワッドの悪役感が段々と抜けていってしまうのが残念である。その部分をハーレイらの癇癪やピースメイカーの残虐外道な作戦で補強してはいるのだけど、全然物足りない。
異世界のキャラクターの掘り下げも薄く、終盤でお姫様が覚醒したりリッチという敵が出てきてもスースクの面々が蚊帳の外に置かれており、肝心な部分でアメコミと異世界が分離してしまっている。{netabare}ハーレイとお姫様・フィオネの顔つきが似ているのも単なる偶然で片付けられてしまっており、最後の入れ替わりトリックにしか活かされなかったのが『MAR メルヘヴン』なども知ってる身からすれば物足りなかった。{/netabare}
アニメーションのクォリティ自体は平均的には高く見どころのあるシーンもあるものの、ストーリーがそれについていっていない。
また音楽はあちら(アメリカ)のセンスに傾倒しているせいか、OPはともかくEDが少し聞き苦しかった(笑)
似ている作品で言えば『GATE』などが思い浮かび、あの作品の自衛隊がヴィランのアメコミに入れ替わっているような感覚になる作品ではあるものの、あちらが自衛隊ならではの異世界との関わりを確り描けていたのに対し、こちらはヴィランがやってきたからこその物語を紡げておらず中々面白くなりそうでなりきらないまま、話の内容も薄いままに全10話1クールが終わってしまった感じだ。