蒼い✨️ さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
総集編どころか本編以上です。
【概要】
アニメーション制作:京都アニメーション
2017年9月30日に公開された105分間の劇場版アニメ。
原作は、宝島社文庫から刊行されている武田綾乃による小説。
監督は、小川太一。総監督は、石原立也。
【あらすじ】
北宇治高校吹奏楽部は今年から顧問が滝昇に変わり、
本気で全国を目指すか、ただの思い出づくりの部活動にするかを部員全員の挙手で決めて、
全国を目標にした、部員を甘やかさないスパルタ主義の指導で実力をつけた吹奏楽部は、
府大会で金賞を獲得し、そしてベストを尽くした次の関西大会では、
関西三強のひとつの秀塔大附属高校のミスがあり、吹奏楽コンクール全国大会出場を決めた。
全国大会ゴールド金賞を目指しての夏の強化合宿を終えての二学期に入るが、
副部長で吹奏楽部の支柱である三年生の田中あすか先輩を将来の邪魔であると退部させようと、
彼女の母親が学校に乗り込んできて噂になり、吹奏楽部全体に動揺が広がる。
主人公でユーフォ奏者の一年生・黄前久美子は同じ低音パートで接触が多いこともあって、
あすか先輩が部を辞めてしまわないかと気が気でない。
部員の心配をよそに飄々とした態度で笑っているあすか先輩ではあるが、
時折寂しげな表情を見せる。
久美子のあすか先輩への思いはやや複雑なのだが、
モヤモヤした気持ちを形にして何を伝えたいのか?久美子の思いはあすか先輩に届くのか?
これもまた、高校のたった三年間の濃密な青春の日々の物語なのだった。
【感想】
総集編映画を作るにあたり、本編の素材を厳選して再構成されたわけですが、
京アニでも随一の完璧主義者な理論派である小川太一氏が初監督を務めるにあたり、
選り抜きの名シーン集のダイジェストムービーにしたくなくて、
方針を決めるヒントを得ようと石原立也総監督と山田尚子氏と相談していたわけですが、
予備知識がない人でも映画単体で楽しめるようにと、映画の物語の芯の部分を何にしようかと、
当時のシリーズ演出の山田尚子氏との会話でヒントを見つけて、
くみれい(久美子と麗奈)と、のぞみぞ(希美とみぞれ)と、
ユーフォの人気要素の描写を間引いて作られたのが、
あすか先輩をより深堀りしての久美子との先輩後輩の物語になったのですね。
(公式のインタビューより)
特に2期での傘木希美と鎧塚みぞれのクライマックス話で、
ユーフォファンからは大人気の南中カルテットの至高であるとも言える名エピソードの、
第4話「めざめるオーボエ」は、小川監督が自ら絵コンテ・演出をしたものですが、
それすら映画の主題からの脇道であり、第4話を入れるなら前提の積み重ねを外せないですし、
それで尺を大量に使うならばと関西大会以前の話の大部分をカットしてしまう決断力、
そして、早朝のあすか先輩の独奏シーンを、彼女を表現するには欠かせないとして、
合宿開催の時系列を関西大会前後で入れ替えてしまう徹底さに、
小川監督にも渾身の演出をした当事者として第4話を蔑ろにしたくない葛藤がありましたが、
自分の手柄とエゴよりも作品全体を優先する姿にプロフェッショナルの魂を見てしまうわけです。
(のぞみぞ成分は「リズと青い鳥」があとに控えていますので、
そっちで補給してくださいとのこと)
そして、小学生時代のあすか先輩とユーフォニアムの出会いの回想シーンを導入部にして、
あすか先輩の新規カットを数多く挿入することで、
主に黄前久美子を中心とした群像劇であるTV版から、
より心が鮮烈に表現された、あすか先輩が主人公の物語にリフォームされたわけですね。
それがいかなる効果をもたらしたかというと、美人で何でも出来て皆から頼られていて、
創作の世界から抜け出してきたかのような飄々とした立ち振舞で人に接する、あすか先輩。
その彼女の言葉や態度の裏に隠れている傷つきやすい普通の女の子の姿を、追加カットから、
視聴者である我々が繰り返し繰り返し想像してしまって、感極まってしまうわけです。
強いふり、傷ついてないふりの精神的な武装をして、誰にも弱音を見せずに、
周りから見た「田中あすか」を完璧に演じてきた彼女の仮面を外してみせた久美子。
久美子にも家族の話があって、そこから得た理屈ではない直感で、
全てを理解してるわけではないですが、あすか先輩の心の真実の一端に触れて、
心が折れかけていた、あすか先輩の本当の願いを背中から後押ししていったことで、
誰にも見せない、あすか先輩の素顔を久美子に曝け出してしまうことに感動があるわけですね。
人の心を動かすのは理屈で屈服させるディベートゲームの勝敗ではなくて、
素の感情をまっすぐぶつけて、相手の素の感情を引き出すこと。
この人ならば信じていいと人に思わせるのに、いちばん大事なことの話であって、
そこには意地も虚勢も詭弁も必要ないわけです。
TV版からアレンジを加えてパワーアップした数々の演奏シーンの素晴らしさも勿論ですが、
整理されたシナリオのドラマ性など全てにおいて最高のアニメ映画であると思いました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。