キャポックちゃん さんの感想・評価
2.7
物語 : 3.0
作画 : 2.0
声優 : 2.5
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
観念的な原作が消化不良
【総合評価☆☆☆】
日向理恵子によるファンタジー小説(第2巻まで既読)を、監督・西村純二、シリーズ構成・押井守、キャラクター原案・山田章博という豪華スタッフによりアニメ化した作品。2期に分けてWOWOWが製作・放送した。第1期前半はかなり期待を持たせる出来だったが、その後失速したので、あまり高い評価は付けられない。
無謀な戦争のせいで火が災厄の元凶となった遠い未来、森に棲む炎魔の襲来を恐れながら細々と暮らす人類の末路が描かれる。物語は、紙漉きの村を出て首都に赴くことを余儀なくされた少女・灯子が、有力者から軍事研究を託された少年・煌四と出会ったことから、大きく動き出す。
本作の特徴は、炎魔や神族などファンタジーの道具立てが使われながら、その背後にSF的な設定が見え隠れする点。遺伝子工学を利用した生物兵器や人体改変と解釈できる特徴が、あちこちにちりばめられており、人類を追い詰めた災厄が、実は科学技術の暴走によってもたらされたことを示唆する。文明水準が大幅に低下したため、人々はもはや、過去に開発された技術の中身を理解できなくなったようだ。原作小説では、第三者的な立場から事態を解説するのではなく、作中人物の視点に立ちつつ、方言を多用した神話的な語りで状況を巧みに曖昧化し、読者を幻惑した(と、私は解釈する。他の解釈も可能だろうが)。
ただし、原作では曖昧な表現が想像力を刺激するのに対して、視覚的な明確さを備えたアニメの映像は、ファンタジーとSFの要素がバッティングして、見る者を混乱させるだけである。例えば、木々人(きぎびと)と呼ばれる部族は、原作では遺伝子操作によって植物的な外見に改変された人間ではないかと感じさせるが、アニメでは、動く樹木とも皮膚を木質化した人間とも思える、どっちつかずの表現になっている。炎魔が体液を改変された生物兵器と推測できるのに対して、途中で(ほとんど無意味に)登場する竜は、水墨画などに描かれたまんまのひねりのない姿で、ちょっと興ざめだった。
こうした表現上の欠点は、物語への共感を妨げる。中盤から重要な役割を演じる神族は、原作によると、木々人や炎魔にも増して「圧倒的な恐怖」をもたらすという。しかるに、アニメ絵には恐怖感が少しも表出されていない。特殊な能力を内に秘めているというファンタジー的な設定も、背後に強大な組織の存在を示唆するSF的な設定も描かれず、みずらや水干をまとった少年の姿そのものである。映像は言語に比べてイメージの喚起力が弱いので、何らかのガジェットで補うべきだったろう。こうしたガジェットは脚本家が考案するのが一般的なやり方だが、押井守は昔から抽象性が高く難解な脚本を書くライターだったので、別に補筆役を加えた方が良かったかもしれない。
全体として、やや観念的に過ぎる原作を充分に咀嚼できないままアニメ化した感が強く、いかにも消化不良である。動画枚数が極端に少なく低予算で無理に制作したようだが、予算が足りないなりに工夫する方法がとあったはずだ。イラスト風の静止画をあまり頻繁に挿入せず、ここぞという場面に限定して用いれば、視聴者に与えるインパクトがもっと増したと思われる。