「響け!ユーフォニアム3(TVアニメ動画)」

総合得点
81.4
感想・評価
263
棚に入れた
730
ランキング
406
★★★★★ 4.2 (263)
物語
4.2
作画
4.4
声優
4.2
音楽
4.2
キャラ
4.2

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ネタバレ

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

大抜擢と、大改変

北宇治の全員で全国金賞を獲る。
それが久美子の目標で、麗奈との約束。

本作は、原作とは違う脚本だったけれど、「それぞれに楽しんでほしい」という原作者・武田氏の言葉に耳を傾けてみたい。

黄前久美子のわがまま(あすか先輩談)が貫徹を見せ、燦然と輝きを放ち続けたユーフォシリーズの完結と顛末。
だからこそ、その言葉の意味を深く理解することが、私の納得につながると思いました。

この9年間の感動を、次の作品への期待につなげ、昇華させるものとしてまとめてみたいと思います。



9年前、民放の深夜アニメから始まり、今や毎日曜17時、NHKの全国放送である。
これ以上ない大抜擢、大躍進だと思う。
まずはこの事実を素直に評価したい。

今でも、悔しさと、嬉しさとが、入り混じっている。
志半ばに亡くなられたスタッフを偲び、未だ後遺症に苦しむスタッフを想いたい。
作品を仕上げ、届けてくださったスタッフ、関係諸氏を心から労いたい。

それは、2019年7月18日の事件に起因するものだ。
独りよがりな理屈と、身勝手な振る舞いが引き起こしたそれは、150年を遡っても見つけられない日本史上最大の殺人事件だ。

第一報に驚愕し、悲しみに暮れ、怒りに戦慄(わなな)いた。
数多の才能が生み出す魔法が損なわれ、輝く未来が悪意によって絶たれたのである。

まもなく5年が経とうとしている。
時は流れても私の記憶は少しも薄れることはない。
しかし、それを一里塚としてでも、前に進み、新たな作品を作らなければならない。
私は京アニにそう期待しているし、その期待を超える作品を彼らは生み出してきた。

原作の改変を、武田氏は「両方楽しんで」と言う。
振り返れば、二つのシナリオそれぞれに、青春の悩みと苦しみが凝縮され、ともに全国金賞に結実し、彼らの音が報われる姿がそこに完成している。

けだし、この改変において、久美子の何を、北宇治の何を、京アニのスタッフは表現したかったのだろうか。



原作本、"決意の最終楽章(前編・後編)" と、最新作、"響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話" の読後感は、格別に面白かった。
未読の方にも、ぜひそれを感じていただきたいと思わずにはいられない。

ただ、本音としては "最終楽章の後編" の予定調和的展開には違和感を感じた。
「久美子が真由を退ける」のが原作の展開である。
それこそ武田氏が、滝をしてオーディションの功罪(ブラックボックス化)をなさしめたのである。

個人的に思うに、"最終楽章" では、久美子と真由の作りこみはあったけれど、人格の対比が少し弱かった印象が残った。
しかし "みんなの話" では、真由の人物像が深く広く開示され、そのミステリアスなキャラクターが、北宇治のストレングスとして補完されていることが理解できる。

6月27日に発売された "みんなの話" は、読んだ人への特典である。
本作への理解が格段に進むのは間違いないからだ。
発売日が、12話放送の前日だったのはちゃんとした意味があった。
だから、読まないと本当にもったいない。

原作の "久美子がソリストを獲る展開" と、本作の "真由がソリストを獲る展開" の違いは、ともに高校吹奏楽部の実相に、それぞれの思いを近づけるだろう。

顧問・滝昇のポリシーは、生徒の自主自立への指導に窺える。
部員が目指す道を整え、背中を強く押すのである。
その成果は、部員自らの自覚と自律、成長への保証にフィードバックされる。

最も印象的なシーンは、滝ではなく、麗奈にそれが委ねられたことだ。
ここが原作と本作との決定的な違いだ。
麗奈は、自らの選択を迫られる。

彼女の耳には、どちらの音が "正しい" かが、明確に分かっていたはずだ。
それのみが麗奈の選択肢であり、3年間久美子と共有し、育ててきた価値観である。

だが、その改変と演出は、本作脚本の不足、あるいは改悪との指摘には当てはまらない。
少し考えてみたい。

久美子と真由の技量の差は紙一重。
そのわずかな差を部員全員の耳と選択に委ねるのが、滝の教師としての矜持である。
かつ、その最終判断を、久美子に最も近しい麗奈というキャラクターに委ねる武田氏と京アニのプライドでもある。

武田氏がわざわざ「両方楽しんで」と注釈したのは、実は原作読者サイドへの配慮であり、かつ、アニメファンサイドへの深慮でもある。
つまり、武田氏と京アニからの、麗奈と久美子への9年越しの愛着であり、二人を見守ってきたファン諸氏への最高のプレゼントでもあるのだ。

たとえ、原作と本作とが、全く別物に感じられてもそれはそれで構わない。
なぜなら、その違いにこそ、原作者・武田氏と、創作者・京アニとのあいだに培われた、深い感謝と尊敬の念が内包されていると、私には感じられるからだ。

それほどの期待と信頼性とで結ばれ、成長し続けてきた作品が "響け!ユーフォニアム" の真骨頂である。
だから、それぞれ別のシナリオを持ってしても、両者ともが、いや、全ての関係者が勝利者であっていいと私は思う。

キービジュアルの久美子には「私、北宇治が好き」と添えられている。
そう語る人は、シリーズで久美子ただ一人だけだ。
私もファンの一人として、これからもその気持ちでありたいと思う。



原作では、久美子と真由の音がイメージできないというハンデが何よりも大きかった。
武田氏の筆致は相変わらずの冴えを見せてはいたが、その行間に音符は見つけられず、それが苦痛でもあり、楽しみを倍増させてもいた。

その音は12話に凝縮されていた。
どちらの演奏が久美子の音かは、私にもすぐに分かったし、麗奈が真由の音を選んだのも頷けた。

ならば、この大改変に見せた久美子のその後の宣言こそが、 "響け!ユーフォニアム“ という作品の集大成だったと言えるのではないか。

北宇治を選び、北宇治の音をつなぎ、北宇治を愛してきた久美子。
彼女の原点は、「ただ上手くなりたい。」
それはどんなにわがままを通してもいい絶対領域だ。

宵闇の宇治橋で嗚咽した1年。
雨中に走る奏と邂逅した2年。
真由をソリストと立て、部員全員を鼓舞した3年。
全てがそこに帰結するのだ。

「上手い者が吹くべき」。

大吉山に涙した二人だけの夜。
麗奈は、特別の、もっと特別の道へと進む。
久美子は、特別になりたい夢を叶えさせる道を選ぶ。
お互いに、それぞれの特別を信じあい、認めあうと決めたのだ。

だからこそ、全国金賞が、久美子の特別、部長としての特別になる。
オーディションのプロセスは、そのためのステップに過ぎない。
さらに言えば、金賞という到達も、次の曲を始めるための基礎に過ぎないのだ。

滝は「正しい人」と久美子に語った。
その正しさを、時間をかけて醸成し、開花させ、結実まで背中を押すのが、教師の仕事だとすれば、久美子の選択は、部員全員の夢を推すことに他ならず、それはソリを吹くよりも大切なこと、意味のあることに違いない。

そしてこのシナリオがあればこそ、NHKの枠が取れたのだろうし、全国の視聴者に、京アニが響かせたいストーリーが届けられることになるのだ。
人間・黄前久美子の決意と成長とを見せつけた素晴らしい改変。
私は、そうまとめておきたいと思う。


全ての京アニの皆さん。関係者の皆さん。そして武田綾乃さん。
9年もの間、本当にお疲れさまでした。
ありがとうございました。

投稿 : 2024/07/06
閲覧 : 143
サンキュー:

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