「数分間のエールを(アニメ映画)」

総合得点
74.2
感想・評価
10
棚に入れた
43
ランキング
936
★★★★☆ 4.0 (10)
物語
4.1
作画
4.1
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
3.8

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ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

制作青春物の中でも生々しく辛口な味付け

【物語 3.5点】
自分たちもアニメMVで実績を重ねて来た少数精鋭の制作集団・Hurray!(フレイ)が、
MV作りに没頭し始め、「モノづくり」の世界にのめり込んでいく男子高校生を主人公に、
モノづくりの現実を思い知った女性音楽アーティストとの交流を通じて、
制作活動の苦しさ、それでもやめられない素晴らしさ等を描いた青春アニメ映画(68分)

この頃、やたら目が付く、制作の裏側の葛藤と青春を描く系の企画。
というより、ちょっと乱立気味ではw

それでも私が今回劇場鑑賞したのは、脚本に今年、原作物、オリジナルにと大暴れな花田 十輝氏が参加したから。
もっとも、今回、花田氏はHurray!がやりたいことをやれるようにアドバイスしたり、
引き出した要望を元にプロットを調整したりするサポートポジションですが。

夢を追い始めた子供と、夢を諦めかけた大人。
1時間余りの尺では、絡めることが難しかったのか、
シナリオ作りに難航したというHurray!。
そこを、脚本が詰まる窮地を大体走って解決する花田氏が、
いつもより余計に主人公を走らせて解決した感じ。

ちょっと強引かなと思う部分もありましたが、
それでも花田節で強行突破することで、
制作活動アルアルな生々しい熱源が、
エンタメ化のために棘を抜く配慮もなく、直に投げつけられるような、
ある意味、若々しいエネルギーに満ちた一品に仕上がっています。

世に何かを発信して壁にぶつかったりした人には刺さるのでしょうが、
本作のモノづくりの厳しさを目撃して、制作の世界に踏み出すのは相当勇気が要るでしょうし。
夢を追う途上の、ある段階、捉え方次第では、傷口に塩を塗る猛毒にもなりかねないリスクも孕む。

制作青春物の中でも鑑賞者の心身の状態に大きく左右される劇薬だと感じました。


【作画 4.0点】
制作集団Hurray!(フレイ)がCGソフトウェア・Blenderで構築。

背景美術はフォトリアルではなく、イラストルックなキャラデザと地続きなタッチ。
Hurray!の3人が同じ金沢美術工芸大学のご出身ということで、
舞台の金沢市などもイラスト風に再現。
石川県生まれの私としては、あ!あれ、金沢駅の鼓門(つづみもん)だ♪などと、
はしゃぐポイントも多いご当地アニメでしたので、
評点4.0には手心が加わっているかもしれませんw

MV制作シーンの描写では、大胆にモニターを廃して、
主人公少年が出したアイデアを360°広がる“創作空間”の中で、
イメージをスライドさせながら組み立てていく表現が特徴的。

端末に通知された情報を、直に映像の中で流したりと、
一つのカットに多くの情報を凝縮することで、
短尺と、制作と青春の疾走感を両立させています。


【キャラ 4.0点】
MV作りに没頭する高校生の主人公・朝屋彼方。
自分の作る映像で、アーティストを応援できると無邪気に思っている少年。

彼方が出逢う歌手・織重夕。
{netabare} 自分の歌で誰かの心を動かすと100曲もの歌を発信するも鳴かず飛ばず。
そろそろ夢を諦めて定職に落ち着こうとする彼方の高校に赴任してくる英語教師。{/netabare}

制作の現実に関して経験値の格差が大きい二人の視点の違いがシナリオの軸。

2人の橋渡し役として重宝したのが彼方の同級生の美術絵画少年・外崎大輔こと“トノ”。
{netabare} 100曲目に夢を諦める歌を作った織重夕の気持ちを、
夢を追い始めたばかりの彼方は理解できなかった。
が、51冊スケッチブックで自分の絵を探求した末、絵画はここまでにしようかと諦観したトノには、
夕の気持ちが痛いほど分かる。{/netabare}

トノは夢追い人が有無を気にかけがちな才能についても示唆を与える良キャラ。
{netabare} 中学時代、トノが県知事賞を獲ったことに対し、彼方は才能のあるやつには敵わないと劣等感を抱いていたが、
トノはトノでなまじ賞を獲ったばかりに、自分にあるかもしれない才能を探して迷子になっている。{/netabare}


【声優 4.0点】
主演・朝屋彼方役の花江 夏樹さん。
最近も激しい“柱稽古”で雄叫びを上げている花江さん。
本作では金沢市街の中心・香林坊辺りを経由して千里浜なぎさドライブウェイまで、
チャリで諸々叫びながら軽四を猛追する演技でパワーを発揮。

因みに、金沢から千里浜へは、ちょっと町外れの海岸に黄昏(たそがれ)に行くのとはわけが違います。
隣町・羽咋(はくい)まで30キロ以上距離があります。
こんな爆走劇、バカみたいに若くないとできませんw
そこも含めて、花江さんが、自身も人気YouTuberとして動画制作者の心情も共有しつつ、突破力を発揮して作品を牽引。


歌手・織重夕役の伊瀬 茉莉也(まりや)さん。
中堅の域に差し掛かり、壁にぶつかった年上お姉さん役も味わい深くなって来た伊瀬さん。
押し殺したような声から、まだ夢を諦めたくないとの悲鳴が聞こえてくるような好演でした。
尚、歌い手役にはシンガーソングライター・菅原 圭さんを起用。
歌が上手過ぎるので、やっぱり演技・歌唱分担制だったかとは感じましたが、
伊瀬さんに合うボーカルをと探し出したとあって、演者ボイスと歌い手ボーカルへのつなぎはまずまず。


【音楽 4.0点】
劇伴担当は狐野(この)智之氏。
疾走感のあるピアノなどを軸に、1時間走り抜ける作品エンジンを好アシスト。
今後も青春アニメ等での燃料源として期待したい作曲家です。

歌手・織重夕の楽曲群は、ギター弾き語りバラード。
刺さる人には刺さるだろうけど、売れ筋ではない微妙で絶妙なラインを突いてきます。

彼方と夕にとって重要曲となった「未明」
クライマックスのAMVもまた、制作の苦しさとそれでも立ち続ける決意を示した、
気軽にエモいとか言えない、需要がある範囲が極めて限定的な作風。
私も、MVに織り込まれていたトノの心情のスパイスが無ければ消化し切れなかったかもしれません。
{netabare}伸びないPVに、否定的なコメントが数件ついて、たまに好評コメントが入る{/netabare} という反響描写がまたリアルです(苦笑)


【付記】
今回も夕焼けが綺麗だった千里浜なぎさドライブウェイ。
車でそのまま乗り入れドライブして憂さを晴らせる絶景スポットとして貴重な海岸。
ですが、最近は、砂浜の侵食が激しく、徐々にルートの寸断が進行していまして……。
金沢の中心部では見えない星も観測できる千里浜も、やがて消え去る運命なのでしょうか……。

多くの星が発見されないまま、消えて行くエンタメ界隈。
玉石混交の情報過多社会の中で、落ち着いて自分が好きな物を発信してくれる星を見出す機会にも難儀する今日この頃。
末端の視聴者に過ぎない私としては、せめて虫眼鏡程度の解像度は確保して、
星を見逃さないようにしたいものです。

投稿 : 2024/06/19
閲覧 : 378
サンキュー:

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