青龍 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
ただの萌えアニメじゃないよ!
『ピーチボーイリバーサイド』(原作)、『平穏世代の韋駄天達』(作画)などのクール教信者による原作漫画は、現在、『漫画アクション』(双葉社)で連載中(既刊15巻、原作未読)。
アニメは、全13話(+1話OVA)(2017年)。監督は、『涼宮ハルヒの憂鬱』、『氷菓』などの武本康弘(※かの事件の被害者。ご冥福をお祈りします。)。制作は、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、『響け!ユーフォニアム』シリーズなどの京都アニメーション。
(2024.6.17投稿)
私が今さら本作を観ている理由は、今まで「ただの萌えアニメ」だと思っていたから(今回は、たまたま目について、あーこれも知ってる人(クール教信者)の作品だったんだと気づいて、ちょっと観てみるかと。今までレビューを書いてきて良かったと思える瞬間(笑))。
というわけで、本作に対して私と同じような印象をもっている人がいるなら、確かにキャラがかわいいのだけれど、本作は「ただの萌えアニメじゃないよ!」といいたい。私のように、そう思って避けているなら、もったいないですよ!(知っている人にとっては何を今更かもしれませんが…)
【あらすじ】
「地獄巡システムエンジニアリング」といういかにもブラックな会社でシステムエンジニアとして日々激務をこなす26歳独身女性の小林さん(CV.田村睦心)は、泥酔して電車を乗り過ごした挙句に山中で瀕死のドラゴン(雌)・トール(CV.桑原由気)を助ける。
とある事情から行き場を失っていたトールは、「鶴の恩返し」よろしく、命の恩人である小林さんの家で、小林さんの趣味である「メイド」として人間の姿になって住み込みながら小林さんの世話を焼き始めるのだった(→「小林さんちのメイドラゴン」)。
その後、小林さんの家には、小林さんやトールを慕って、様々なドラゴンたちが居住んだり寄り付くように…
【「非日常」がいつの間にか当たり前の「日常」に】
本作は、簡単にいうと、メイドのドラゴンとの共同生活という「非日常」がいつのまにか当たり前の「日常」になっていたというお話(そう考えると、最終話の第13話で、{netabare}トールがいなくなってはじめて彼女の存在のかけがえのなさに気づく小林さんの描写が活きてきます。{/netabare})。
したがって、ドラゴンたちは外見の一部にその特徴を残しつつも基本的に人型で、その存在以外は、極めて普通の日常の話として描かれています。
ただ、この「普通の日常」というのが、日々の仕事に疲れた日常ではなく、今やちょっとノスタルジーすら感じてしまう『ちびまる子ちゃん』や『サザエさん』で描かれているような一昔前の「一家団欒的な日常」なのです。
例えば、トールはコンビニやショッピングモールではなく商店街で買い物をし、住んでいるマンションの隣近所としっかり「ご近所付き合い」もする。また、幼龍で後に小林家に居候し小学校に通うようになるカンナ(CV.長縄まりあ)を通じて、小林さんが運動会に参加するイベントもあります。他にも普段は書かなくなっていた年賀状を書く描写もある。
本作は、ドラゴンというフィクションの存在が入った「擬似家族」が、こういった一家団欒的な日常という、もはや都会に住んで直接コミュニケーションする機会の少ない現代人にとっては、憧れに近い生活を過ごしていくという「ほのぼの」感が癒しになる作品です。
人とコミュニケーションすることを煩わしいと思う反面で、人とのコミュニケーション(つながり)をどこかで求めてしまうのが人間なのでしょうね。
【「異種族コミュニケーション」】
また、本作では、このように日常を描きながら、しっかり人間とドラゴンとの価値観の違い「異種族コミュニケーション」もコミカルに描かれています。
例えば、トールたちドラゴンは、外見は人型ですが中身はドラゴンなので基本的に何でも人より優秀で人を劣等種とはじめは見下していた。ただ、日々触れ合っていくうちに、互いの理解が進み互いの存在を尊重していくようになります。
特に、ネトゲ廃人で引きこもりのファフニール(CV.小野大輔)と、小林さんの同僚で隠れオタクの滝谷(CV.中村悠一)との関係性がそれをよく表していると思いました。
滝谷は、人間から恐れられる龍であったファフニールに対して、気遣いこそすれ物怖じすることもなく、あくまで一人の友人として接し、気難しいファフニールからも一目置かれる存在になります。
あと、個人的なオススメは、カンナと才川リコ(CV.加藤英美里)との小学3年生同士の友情(一方的な愛情?(笑))も見処です。
【ナチュラル・ポリコレ作品】
主人公の小林さんは、中性的で男性とよく間違われ、巨乳なドラゴンたちと自分の胸を比べて落ち込んだり、「死んだ魚の目」と言われるなど美形キャラではありません。
また、トールはメスのはずなんですが、小林さんが好きすぎて襲おうとするなど百合表現もあります(あと、自分のしっぽを料理して嫌がる小林さんに食べさせようとする変態的なところも…)。
小林さんとドラゴンたちとの擬似家族も、小林さんが会社勤めの「夫」役で、家事一般をするトールが「妻」役、カンナがその子供役という風にも受け取れるので、同性カップルと血縁関係がない養子という新しい家族の姿のひとつともみれます。
本作は、こういった新しい家族の形態をとりながら、今やノスタルジーすら感じる一昔前の一家団欒の生活を違和感なく描いた作品でもあります(褒めすぎか(笑))。
無理やりポリコレ要素をぶちこんで設定が破綻した作品には、真似の出来ない芸当だと思いました(そういう意味で、ナチュラル・ポリコレ作品(笑))。
【まとめ】
というわけで、本作は、確かにキャラがかわいいのだけれど、「ただの萌えアニメじゃないよ!」といいたくなったのでレビューを書いてみました。
萌えアニメ好きじゃなくても十分に見ごたえのある作品だと思います。