薄雪草 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
久しぶりのフランス映画
リンダが食べたいのはパプリカチキン。
ネットを検索すると、ハンガリー料理として紹介されているので、彼女のお父さんはハンガリー系の出身だったのかな。
お話はリンダとお母さんの小さな誤解から始まる諍(いさか)いと、それを解くための大切な約束が「チキンがたべたい!」につながる流れです。
そのあとは、まるでドタバタなベタ風といえばその通りな展開でした。
そのなかでひとつ思ったのは、フランスのとある下町の集合団地が積み重ねてきた人情というか、風情というか。
その描き方がとても心地良いものでした。
フランスの政治=暮らしは、デモクラシー抜きには語れない側面がありますので、いわゆる民衆の力の底の厚さや、大衆的なベクトルといったファクターみたいなものが、あちらこちらで拾えそうな印象です。
このあたりは日本の作品にはなかなか見られないところです。
例えばジュブナイル系作品を見渡すと、セカイ系や転生ものの趣向が強く顕れているのが、いかにも日本的というのが特徴の一つです。
その点、本作の場合は、子どもの主体性に重きが置かれていて(それはフランスでは当たり前なのかもしれませんが)、無邪気さと同時に、図々しさもふんだんに(しかも極めてリアルに)描かれています。
リンダはもちろん、多くの子どもたちがまるで民衆の一員として位置づけられ、世間への態度がいっぱしの大人ぶりとして描かれているところが、フランス的風味というか、ちょっと面白いところかなと感じました。
いよいよ鶏が調理に供される直前、リンダが鶏にそっと語りかけ、涙をすうっと流すシーンがあります。
そのフレーズは、とても子どもらしいあどけない発想で、大切な家族を思う重要なステップに感じました。
私が鑑賞したのは字幕版でしたので、声優さんの演技はそのまま受け止めましたが、吹き替え版にも興味を持ちました。
日本の声優さんが字幕の台詞をどんな演技をされたのか、リンダの気持ちがどんなふうに表出されたのか、機会があればと思っています。
はっきり言って子ども向けの作品だと思いますが、ほど良いエスプリ(精神性)と、茶目っ気たっぷりのカリカチュア(風刺戯画)が効いていますので、大人の方の視聴にも十分応えられるのではないかと思います。
あとキャラデザですが、キービジュアルそのままです。
けれど、意外なことに、それがアニメーションになれば、一瞬も目が離せない、味のある表情を見せてくれます。
そんなリンダたちに、観終わったあとは、なんとも心地の良い豊かな気分になれたのも不思議と言えば不思議。
少し気分を変えたい時などに、軽い気持ちで視聴なさってみるのもいい作品。
そうお伝えしておきますね。