「無職転生 ~異世界行ったら本気だす(TVアニメ動画)」

総合得点
90.3
感想・評価
1083
棚に入れた
4509
ランキング
56
★★★★☆ 4.0 (1083)
物語
4.0
作画
4.2
声優
4.0
音楽
3.9
キャラ
4.0

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

【悲報?朗報?】ワイニート34歳、親の葬式にも出ず自室で姪をオカズにシ□ってた結果

アッニらに家から追い出されてトラックに轢かれてグエー死んだンゴ────ということで、コテコテの【なろう系】作品である。てかほぼ原初だね
なろう系といえば「俺TUEEE」の限りを尽くし、美少女を侍らせ異世界でのし上がっていく。そんな金、女、権力に憧れる男の夢を叶えてくれるような内容であることが多い。何らかの理由で異世界へ転生し、神にチートをもらって世界を理ごと蹂躙していく────多くの人の頭には未だそんなイメージが強く根付いている筈だ。
質の悪い作品も数多く出回り、すっかり悪いイメージを持たれてしまった「なろう系」や「異世界転生」。その元締めとも思われている古の『小説家になろう』発作品が21年に満を持してアニメ化。他の有象無象との「格の違い」を見せつけることでなろう系へのイメージを払拭しにかかっている。

【ココがすごい!:テンプレを豪華に魅せる作画と声優(1)】
1話冒頭は主人公が轢かれたシーンから始まるという、やはりなろう作品のテンプレート的な始まりだ。しかしそんなシーンから早速、この作品は度肝を抜くようなクオリティを見せてくれる。
「降りしきる雨」というのが先ずポイントが高い。悲しみを暗喩することの多い雨が夜の路面をさらに黒く濡らし、間もなく死ぬ主人公の「終幕」を飾る。作画的には無い方が楽なものを間もなく離れてしまう前世という舞台で確りと描いているのは素晴らしい。
前世の男の身体は長年の引きこもり生活のせいでぶくぶくと太っており醜悪だ。その醜悪さも如実に描き表し、雨でテカテカとしている様は妙な生々しさが感じられる。現世での「ニート」の姿は大概、あのようなものだ。そんな身体が学生を襲った暴走トラックの肉盾となり、彼は将来の明るい学生たちの身代わりとなって来世へと旅立つ。
死と同時に感じられるのが「転生」だ。事故で瀕死となり、朦朧とする意識の中で聞こえてくる救急隊員や医者の声。自らの死を実感する中で同時に異世界の言葉も聞こえてくる。この作品に私の嫌う「神との対話」や「椅子だけの空間」といった冷めた御約束は挟まない。古来から伝わる輪廻転生の流れに沿って死と転生を直で繋いでおり、その唐突さもスパイスとしながら主人公は無垢な赤ん坊へと生まれ変わる。そして生まれ落ちた世界も俗に言う「ナーロッパ」の片田舎でありながら草木の揺らめき、木漏れ日、川のせせらぎなどの風景をハイクオリティで表すことでより牧歌的、或いは幻想的にさえ感じさせる。主人公はパソコンが触れないことを憂鬱に感じるが、それを他所に窓から覗ける風景に解る視聴者は圧倒される筈だ。
主人公が異世界転生してしまったことを実感するまでのシーンを丁寧に描き、そこに「杉田智和」さん演じる前世の主人公の声によるモノローグが入ることで一気に作品の世界に呑み込まれる。自身へのツッコミ、心の中のモノローグが時折、面白いギャグにもなっている。

【ココがすごい!:テンプレを豪華に魅せる作画と声優(2)】
ルーデウスという赤ん坊に生まれ変わった主人公だが、彼は前世の記憶を保ち頭は34歳引きこもりニートそのままである。そのため現世では縁の無かった本物の女体や下着を赤子という立場を悪用して楽しんでしまう。こういった「下ネタ」が本作を「気持ち悪い」と評する人も多い主な要因だ。
しかし間もなく、そんな物より彼を夢中にさせる要素が出てくる。それは「魔法」だ。不慮の事故で頭を打った赤ん坊を心配する母親。そんな彼女が取った行動は中二的な呪文の羅列にかざされた光る掌────その締めに『ヒーリング』と括られる治癒魔法であった。これを切欠に元現世生まれの男は早くから新世界に魔法があることを知覚し、それを自在に扱えることこそ新しい自分の「生きがい」なのだと確信する。
ルーデウスは1歳になってすぐに魔導書を手に取り、異世界の文字を覚えながら水を作り出す魔法を反復して習得していく。「夢中」になることで誰でもその道を極められる。この作品はそういうメッセージも我々に伝えてくるようだ。
身体に走る魔術回路、掌から生まれる水球は青や水色で着色しておらず無色透明で透き通った背景を巧みに歪ませている。魔法のエフェクトも素晴らしい注力具合だ。
「異世界」という未知の世界。ファンタジーで魔法のある世界というのを本当に丁寧に描写している。魔法への驚き、異世界の文化への驚き、転生したことに対する驚き。剣と魔法の世界に転生したことを自覚する流れを1話の冒頭から10分ほど丁寧に描写したからこそ、主人公への感情移入が生まれる。

【そしてココが面白い:現世も異世界も同じ“人生”】
この作品に俺TUEEEや成り上がりといった、なろう系にありがちなストーリーは一切描かれない。生々しいキャラクター同士のドラマ
──「人生」と言い換えてもいい。人が生きる上での渇望と欲求、人生を生きる上での人間の欲望が一人ひとりにきちんとあり、それが生々しく描かれている。
両親も単にルーデウスを健やかに育てる道具ではない。立派に血の通った人間であり、時に間違いを犯すこともある。とくに子供や同居人に配慮せず夜になれば大声で営むのはどうなんだ(笑)というツッコミどころがあるのだが、それもまた全ての人間が「性欲」に忠実な証なのだろう。確かにこの牧歌的な世界では食事と性交くらいしか楽しみが無さそうだ。
ルーデウスは決して裕福な家庭に転生したわけではない。だが貧困家庭でもない。魔法の才能は有るものの、チートというわけでもない。その才能を腐らせるのも活かすのも彼次第だ。
前世の自分だったら違う選択をしたのかもしれない。だが1度失敗したからこそもう間違えたくない。もう後悔したくない。
そんな思いがあるからこそ、異世界でもう1度人生をやり直したいと思っているからこそ、彼は正しくあろうとする。
それでもミスをすることがある。人だからこそ完璧ではなく間違えない人間などいない。だが、同じ間違いをしなければいい。多くの人と関わる中で彼は「生」を、今の人生を謳歌しようとしている。前世ではできなかったことを、前世では果たせなかったことを。
家族と、幼馴染と、師と、生徒と、他人と関わり「働く」ことの大変さや有意義さを学び、後悔した人生を振り返る。当たり前の人生だ。異世界ではあるが、人として当たり前の人生の楽しさや、苦労を1話1話丁寧に描いている。
転生したからこそ、転生前の記憶があるからこその物語が描かれている。「異世界転生」という作品の根幹の設定を芯に捉え、そこにきちんと意味を持たせたストーリーが心に染みる。

【でもココがひどい?:場面転換は粗雑】
2クール作品である本作の前半クールでは、大きく分けて──{netabare}
1. ブエナ村 ルーデウスはパウロ家長男として生まれ、魔術と剣術の英才教育を受ける
2. 城塞都市ロア ルーデウスは従姉にあたるエリスとその護衛・ギレーヌの家庭教師を勤め、後者からさらなる剣術指南を受ける
3. 魔大陸 転移で飛ばされたルーデウスとエリスは助けてくれたルイジェルドと共に冒険者パーティを結成する
{/netabare}──の3つで構成されているのだが、各々1.から2.、2.から3.へ物語の舞台が移り変わる場面のみ、それまでの丁寧さとはかけ離れた唐突な展開を描いており、やや強引な印象を受けてしまう。これは非常に惜しい部分である。
{netabare}前者はルーデウスを父親・パウロが木剣で殴り倒してからドナドナする{迎えの馬車に乗せる}という家族関係あるまじきパワープレイだ。理由は後から手紙で説明されるものの腑に落ちない点も多く、同話でパウロが不貞によって招いた一家離散の危機もきちんと家族会議で乗り越えただけに、どうして同じような落とし所を見つけてルーデウスを快く旅立たせてあげなかったのかが疑問である。{/netabare}
{netabare}まあ前者は理由があるだけまだいいが、後者が完全にデウス・エクス・マキナなので擁護も難しい。『フィットア領転移事件』は現実でも何の予兆もなく訪れる「災害」として描かれてはいるが、創作においては災害も作者の好きなタイミングで起こされ登場人物の状況やその場の環境を激変させて新たな物語を綴る「力業」に過ぎない。ルーデウスが本気で生きると決意した2度目の人生本来の「不条理さ」を表したと言えば聞こえはいいが、まだ主人公が元服{げんぷく}にも満たない段階でその厳しさが向けられてしまうのは時期尚早に感じる。
おまけに3.以降は『ヒトガミ』と名乗る上位存在──所謂「神様」と椅子すら無い霞漂う「精神世界」で今後の人生のアドバイスを受けるシーンも挟まれるようになり、本作がなろう系作品であることを再確認してしまう。せっかく主人公の転生を死と直で繋げて始めた物語であるのに、後からそんななろう系が嫌われる代表的な要素を入れてしまうと途中離脱────所謂“切る”人も出てしまうのではないだろうか。それを防ぐためか、ヒトガミのキャラクターはCV:くじらで胡散臭くどこか裏がある様に描かれてもいる。{/netabare}

【キャラクター評価】
ルーデウス・グレイラット
見た目は子供、頭脳は大人────と言い切れないのがこの主人公。頭は30~40代に差し掛かるのだけど、元ニートはその年齢に見合った精神性を持ち合わせていない。
人によっては本気で合わないキャラクターだろう。表向きは礼儀正しく振る舞うのだけどその思考回路は基本的に下劣。性欲も強く隙あらば周りの女性を食い物にしかねない危うさも秘めている。周りにやたらとそういった「据え膳」があることも問題と言えば問題だが、それらへの反応もとても子供らしいとは言えない、どこか気持ち悪さの感じる笑みを浮かべており、この描写に関しては好みが分かれるところだ。
{netabare}ちなみに私は第3話の父親への逆説教で観るのを辞めようかと本気で思った。あそこだけ元ニート≒論破厨の悪いところや異世界転生の悪いところが出過ぎているんだよね。もしかしたら親に怒られ盛りな中高生が観るとスカッとする描写かも知れないが、ちょっと邪推すれば「作者は親を言い負かす子供の描写を入れて嘗ての親への不満を解消したかったのかな?」とくだらなく思ってしまう。{/netabare}
しかしそれらは人がそう簡単には変われない証でもあり、そんな難しいことに挑戦するからこそルーデウス(前世の男)は主人公として在り続ける。彼にとっては恐怖そのものであった「外の世界」に師・ロキシーの助けを借りて一歩を踏み出すところ。前世では誰にも認められなかった彼が師に認められたことで独り立ちの勇気を手にするところは、私も少なからずその気があるので大きく共感できたシーンだ。

エリス・ボレアス・グレイラット
{netabare}上記のルーデウスとは非常に相性が良いヒロインではないだろうか。
最初こそ容赦ない暴力シーンに「うわ時代遅れの暴力系ヒロインだ……(怖」と面食らう様に見せるのだけど、照れ隠しや嫉妬なんて複雑な理由では振るわないので信頼関係さえ築ければしっかり鳴りを潜めて可愛さが押し出されていくのである。
『ルーデウスはすごいのよ!』
『ルーデウスはすごいんだから!』
字面だけみたら只の「さすが主人公」なんだけども、ここまでに至る道のりがある上、誰にも認められない前世を過ごした主人公の救いになっているからこそ、彼女の代表的な聴き心地の良い台詞になっている。
成長した2人が無事に魔大陸を攻略できるのかが2クール目の注目点だ。{/netabare}

【総評】
やや強引な場面転換が気になったものの、全体的にみて素晴らしい作品だと評する。なろう系の中にも良い作品がある、その根拠の1つに成り得ている。
圧倒的な世界観の描写、細かい背景美術やキャラ描写は語りだしたらキリがない。「ファンタジー」の世界の描写を徹底した背景は細かい部分まで思わず目が行き、訪れる街の文化を反映したような美術が随所に散りばめられている。戦闘シーンもスローなどでは決して誤魔化さずハイピードでキビキビとキャラクターを動かし演出で盛り上げる。カメラワークはUfotableなどのような激しいものではなく、飽くまで固定カメラで絵と動きを魅せている。グダグダと引き伸ばさず短い戦闘シーンで勝負にケリがつく。
ストーリー的にはいわゆる「なろう」な異世界転生ものだ。しかしながら、そんな今やベタとも言える要素──主人公の前世、異世界での生き方、異世界での強さetc.──を丁寧に丁寧に、これでもかと掘り下げている。
容赦のない展開も多い。せっかく愛する家族や仲間や友人ができたのに終盤では{netabare}災害のせいでバラバラとなり、その状況はあっさりと覆りはしない{/netabare}。主人公は確かに才能はある、だがチートではない。負けることも多く、だからこそ強くあろうと、もっと強くなろうとする。前世での後悔が彼の原動力にもなっており、この世界での出会いや絆が1歩を踏み出す勇気に繋がっている。
シリアスな展開はあまり引き伸ばさずにギャグやコメディタッチなキャラ描写をも交えることで、重くなりすぎず引っ張りすぎない。可愛らしく魅力的なヒロインの愛らしい姿も愛まり、見れば見るほどこの作品にハマっていってしまう。杉田智和さんのモノローグもいい味を出しており、怒涛のセリフ量を感情を交えながら、どこか斜に構えた態度で読み上げるからこそそれがギャグにもなっている。
セクハラなど性的表現も多いが艶めかしいシーンの数々はヒロインの魅力にも繋がり、前世の記憶があるからこその主人公のいやらしい顔や行動の数々もこの作品ならではの主人公の魅力にも繋がっている。彼の変態的な行動に「うげっ」となってしまえばこの作品を受け入れがたいかもしれない。だが、この作品は34歳無職引きこもりだった男の再生の物語でもある。前世で出さなかった本気を出す、そんな決意と1歩が先ずは1クールどっしりと描かれている作品だ。
【異世界】は90年代の『十二国紀』からジャンルの人気に火が付き、そこから00年代の『ゼロの使い魔』を代表とするラノベアニメブーム、そして今のなろうアニメブームで擦りに擦り倒されたものである。もう新鮮さというものは無い。だが、そんな擦り倒された世界観をしっかりと見せることで王道とも言える面白さをどっしりと感じさせてくれる。
この作品はすでに2期も制作し3期の制作も決定した長編大作だ。だからこそその立ち上げはWHITE FOXとEGG FIRMが共同で出資し、この作品を制作するためだけのアニメ制作会社まで設立している。
本気だ。格が違う。制作側がこの作品を最大限の能力を持って面白いものにしようとしていることを、第1話からこれでもかと感じさせてくれた。ベタな設定、ベタな世界観、ベタな導入だ。手垢まみれの要素しか無いのにそれを面白く仕上げるのは生半可なものではないだろう。

投稿 : 2024/09/11
閲覧 : 67
サンキュー:

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