ナルユキ さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
メガネ忘れすぎぃ!予備くらい用意しときなさい
と書くのは野暮なツッコミです。観るなら封印しておきましょう。
「眼鏡{メガネ}が無いと何も見えない」というマンガチックな要素を見事【ラブコメ】のテーマとした意欲作のアニメ化。怒ってないのにムスッと悪い目付きをする女の子の表情や思春期男子の気持ち悪……独特な着眼点も相まって、その面白さは『かぐや様は告らせたい』シリーズにも匹敵するとかしないとか。とにかく終始、ニヤニヤさせていただきました😏
【この娘が可愛い?:メガネをかけない要介護系ヒロイン】
主人公が惚れる女の子・三重あい{みえ - }は極端に視力が悪く生活において「メガネ」が必須だ。もし忘れてしまえば物をちゃんと見ようと常に眉間に力が入り目つきが悪くなってしまう。そんな彼女の表情に隣の席の主人公・小村くんは新境地を見出だして(三重さんまたメガネ忘れないかな……)なんて星にまで祈ってしまう。うん中々キモいな(笑)
そんな祈り(呪い?)が通じたのかどうかは定かではないが、三重さんは全話を通して日常生活に欠かせない────身体の一部にしなければならないメガネを毎回忘れたり壊したりしてしまうのである。
今までロクに話したことがない隣の席の意中の女の子。そんな女の子がメガネをかけないことで初めて主人公との会話が生まれる。視力が悪い中で教科書を探し、取り出せないからと小村くんが教科書を見せてあげるために机をくっつけ、授業を受ける────字の見えない三重さんが顔を男子の席に近づけて、小村くんは彼女との近すぎる距離感にドギマギしてしまう。
この2人のメインキャラのギャップがコメディになっている。一見クールで理知的だったメガネ女子がメガネを外したからこそ生じ得るシチュエーション、視力が悪すぎるからこそ起こる「ドジ」要素が三重さんというキャラクターの可愛らしさにもなっており、その可愛らしさにドギマギする小村の気持ちにも素直に共感できる。
【ココがすごい:作画と演出】
作画の話になるが、1話冒頭からかなり度肝を抜かれる。GoHandsはクセの強い作画で有名な制作会社だが、そんなクセの強さを1話冒頭から余すところなく見せつけてくる。
無駄ともいえるような高すぎるクオリティで描かれた背景は木々すらも神々しく輝いてもはや違和感すら生まれており、そんな背景の中に映る人物をまるで「魚眼レンズ」で通したかのようになめらかに動かしながら映している。
足元を映したり、上から映したり、斜めから映したり、正面から映したり。様々なアングル、構図で映し出される背景はどことなく「自己満足」すら感じるカメラアングルの数々であり、頻繁にカット割りしてアングルを変えながら映し出されるシーンに思わず笑ってしまう。
さらに煌びやかな演出。小村くんがモノローグで『俺には気になる女の子がいる』と囁くと、桜の花びらがこれでもか!と舞い散る始末だ(笑)
とんでもないエフェクトの数々、ぐりぐりと動かしまくるカメラワークは確かにすごいのだが、強烈すぎるクセが同時に生まれており、人によって強烈に好みが分かれそうな演出だ。通常、日本のアニメは24FPS──1秒あたり24枚──で描かれているが、1話冒頭の登校シーンに限っては恐らくそれ以上だ。
そのシーンが終わるとやや控えめにはなるのだが、それでもあの教室の日当たりの良い窓際で見える「ホコリ」すらも絶えずラメの様に描いている作画は十分以上であり、その上で「ダッシュ」など動的なアニメーションも逃げずに描くので観てて退屈しない。
とくに「目」の描き方は凄まじく、目に反射して映るものから 虹彩までかなり繊細に描いている。アトランダムに「瞬き」も差し込まれており、ここまで目にこだわって描かれている作品も珍しい。
【そしてココが面白い:三重さんの変化(1)】
三重さんは飽くまでもメガネを忘れたり壊したりするおかげで目がよく見えないからこそ、隣の席の小村くんを頼っているだけだ。序盤の彼女に恋心というものはなく、飽くまで小村くんの一方的な片思いである。彼女は困ってる状況だが、そんな状況が彼にとってお近づきになるチャンスとなっており、この両者の感情と立ち位置のズレが漫才のような面白さを生み出している。小村くんの自分に対する心のツッコミは中々アグレッシブだ(笑)
だが、そんな状況も徐々に変わっていく。メガネが無い日常で主人公に頼る中で、自分でも気づかないうちに彼のことを見つめ、彼に笑われる、彼に嫌われることを避けようとしていく。そんなことは露知らず、主人公は片思いをした男子特有のどこか「気持ち悪い」反応を見せてくる。
{netabare}例えば中盤で三重さんのメガネを自宅に持ち帰ることになるのだが、もはやメガネから三重さんが飛び出してくる妄想まで見えており、メガネで悶え苦しんでいる。お前は『うえきの法則』のあいちんに能力でも使われたのか!?とツッコミを入れたくなる位だ(笑){/netabare}
そんな反応がギャグになり、メガネを何度も忘れるという状況がボケにもなっており、そこに見ている側もツッコみつつ楽しめる作品だ。
明確なツッコミ役はいない、あえていえば小村くんがそうなのだが、彼は毎度彼女がメガネを忘れることをツッコむことよりも、メガネを忘れたからこその状況を楽しんでいる。それが彼の気持ち悪さというキャラの魅力にも繋がっている。
そんな小村くんに三重さんが少しずつ恋心を自覚していく。他の女の子と近づいたりして嫉妬したり、徐々に声だけでも彼のことを認識したり。この過程がたまらない。
【そしてココが面白い:三重さんの変化(2)】
終盤になると三重さんは小村くんの自分への思いを自覚し、彼への自分の思いもきちんと自覚する。丁寧に描かれたキャラクター描写と日常ラブコメの積み重ねが終盤に効いてくる。
{netabare}このテのラブコメの場合、自身や相手の恋心を自覚すると、逆にそれまでの距離から離れることも多い。だが三重さんは違う。むしろ恋心を自覚したからこそ相手の反応を楽しみだす。小悪魔だ(笑) 序盤から中盤まで視力が悪いからこそ無自覚に彼へ迫っているシーンが何度もあったが、終盤になると自覚してあえて迫っており、とんだ小悪魔っぷりを見せつけてくる。
自覚したからこそ恋する乙女の本性が────三重さんという女の子の恋心が爆発している。メガネを忘れるというツッコミどころ元いわざとらしさは確かにある。そこを小村くんが楽しんでいるのが序盤から中盤だったが、終盤は三重さんもその状況を楽しんでいる。
思わせぶりな台詞もかなり増えており、彼にあえて自分に触れさせ、将来を思わせるような言葉をどんどんと彼に投げかけてくる。わざとらしさを感じる序盤から中盤を終盤で────ヒロインも自覚したからこそ本当にわざと彼への距離を詰めてくる。
見えないから距離を詰めるのではない、彼のことが好きだからこそ距離を詰めてくる。1クールの中での、この状況の逆転が「メガネを忘れて何も見えない」というシチュエーションをマンネリ化させない。{/netabare}
だが、逆に小村くんは彼女の恋心になかなか気づかない。ラブコメらしい男女の恋愛模様をしっかりと味あわせてくれる。
【そしてココも面白い:小村くんの変化】
主人公である小村くんは序盤から中盤まで独特で気持ち悪い発想をする主人公だ。だがその気持ち悪さは思春期特有の、初めて好きな女子と触れ合う初々しさも秘めたものであり、ショタ的な見た目も相まって不快感は軽微。もちろん本人もその気持ち悪さを自覚し心内に留め、間違っても三重さんにそんな醜態を晒しはしまいと頑張る姿もまた、この作品の面白さへ繋がっている。
{netabare}だが終盤は違う。三重さんが好きだからこそ、彼女のことを思っているからこそ、自分が気持ち悪いと思われることよりも彼女を悲しい気持ちにさせないことを選ぶ。一人の少年が男になる、そんな姿に思わずニヤニヤしてしまう。
好きになった女の子、そんな子のすべてを知りたいと思う。三重さんの視線、彼女が楽しいと思うこと、自分とは違う視線と生き方をしている彼女に小村くんも影響されていく。彼は将来なりたいもの、夢が無い。
{netabare}『俺はつまらない人間で、自分勝手で、たぶんちょっと気持ち悪くて────それでも俺はこれからも三重さんのことを見ていたいよ』{/netabare}
恋する少年が自分自身を見つめ直し、自己確立していく。真っ当な青春模様が終盤はどストレートに描かれている。幼稚園の頃でさえ会社員という夢しかなかった彼が、「三重さん」という夢を見つけていく。{/netabare}
それでも気持ち悪さは変わらない(笑) 三重さんによって小村くんはメガネフェチ、裸眼フェチ、髪フェチ、そして何故か鉄棒フェチにまで目覚めてしまっている。三重さんは中学生にして、とんだ魔性の女であった様だ。
【他キャラ評価】
東蓮{あずま れん}
(アニメだとそこまで差が出ないが)クラス1のイケメン男子。彼も時折、三重さんの世話を焼くので小村くんが一方的にライバル視しているものの、彼自身は2人の関係をそれとなく応援している様子だ。
脇役ではあるものの、この東くんもなんだか気になってくる。イケメンではあるものの嫌なやつではない。色々な女子から告白されているものの、その想いを受け止めつつやんわりと断り続けている。その時に言う『他に好きな女子がいる』という言葉は果たして真実なのだろうか。
{netabare}終盤では彼の恋の相手も判明する。特に彼の恋模様ががっつりと描かれるわけでもなく、断片的な情報が描かれてるに過ぎないが、放っておいてもくっつきそうな主人公とヒロインではなく、わりと困難な道を行っている彼のほうが気になってしまう。{/netabare}
【総評】
第1話の演出や背景のクセは凄まじく、さらにヒロインが「メガネを忘れすぎている」という最大のツッコミどころがあるものの、そこさえ乗り越えて全話を視ることができれば、非常に丁寧に描かれたラブコメだと評せる。
俗に言う【令和ラブコメ】又は【単独ヒロイン】物と呼ばれるタイプのラブコメであり、『からかい上手の高木さん』のヒットあたりから爆発的にそのテの漫画が増え、その多くがアニメ化されている印象だ。そんな中でもこの作品はきちんとヒロインが可愛い。メガネをかけた姿もかけない姿にも各々違った魅力が確かにある。そんな美少女が「メガネが無いから見えない」というシチュエーションを活かして詰めてくる距離感に狼狽える主人公のドギマギした気持ちが痛いほど伝わる。
一方で主人公・小村くんも思春期の男子らしい気持ち悪さがあり、距離感ゼロで接近してくる三重さんのせいで、メガネや髪といった無難なものから裸眼萌え、果ては鉄棒まで様々なフェチズムに目覚めていく。その気持ち悪さが欠点ではなくギャグにきちんとなっており楽しめた。
作画は「クセが強い、クセがすごい」と書いてきたが、よりシンプルに書けば「神作画」で相違無いだろう。言ってしまえば学園ラブコメの一作に過ぎないものをあそこまでこだわって描き、登校シーンをグリグリぬるぬると動かすアニメ制作会社は初めてだ。ただ、あそこまで作り込んでしまうと「制作の自己満」と捉える斜に構えた人も出てしまう様で────まあ、その技術を今度はバトルアニメなどに活かせば尚いいと思う。
逆に第2話以降のシフトダウンした作画くらいが丁度いい。GoHands制作だからこその教室に漂うホコリまで描く繊細な描写は、この作品らしい空気感と雰囲気を作り上げている。GoHandsは『東京BABYLON』のデザイン模倣問題で大きく評判を落としてしまったが、それらを乗り越えた今後の活躍に十分、大きな期待ができる会社だ。