ナルユキ さんの感想・評価
3.3
物語 : 2.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 2.5
状態:途中で断念した
主人公最弱の筈が……コメディとシリアスの調和がとれていない凡作
第11回(2018年)GA文庫大賞優秀賞受賞作のアニメ化。同賞には『這いよれ!ニャル子さん』(第1回、2009年)があり、そちらと同格という扱いができる。しかし『このライトノベルがすごい!2021』では、文庫部門で第28位、新作部門で第17位とやや微妙な順位……いやランクインするだけでもすごいことですけどね
昨今ライトノベル業界でも【異世界なろう系】が蔓延る最中、まるで00年代の様な古き良きライトノベルで本質のある王道ストーリーが展開されるとのことで注目していたが……
【ココが面白い:1億年に1度の美少女によるハッタリ将軍奮闘劇】
色々と小さいので威厳は無し。そこはいいのだが運動音痴で戦闘能力皆無であり、ファンタジー世界なのに魔法が一切使えない「ひ弱」な吸血鬼であるテラコマリ・ガンデスブラッドを軍の大将に祭り上げるというコメディチックな始まりが昨今、流行りのなろう系とは真逆の路線を突いており面白い。なろうでなくとも自分の正体(実力)を周囲に隠しながら活動する主人公というのはかなりの本数があるが、自分の弱さを必死に隠して周囲を騙し、どんどんと引っ込みがつかなくなっていく様はまるで『DRAGON BALL』のミスター・サタンや『ワンパンマン』のキングなどのコミックリリーフ要員を主人公に据えた様で斬新である。
部下は大将が最強の吸血鬼だと信じてやまないがもし隙あらば下克上として命を狙う者もいるという危険極まりない立ち位置を、コマリは自身を変態的に慕うメイド・ヴィルヘイズのサポートを受けながらラッキーとハッタリで絶対死守していく。
{netabare}1~2話はそれらをギャグ風に見せており、特にコマリと下克上狙いのヨハンの決闘では事前にヴィルが落とし穴や地雷をたんまり仕掛け嵌め続けることで彼を完封。コマリ様はその魅惑のおみ足を頭に乗せるだけがお仕事となった。ジェパンニならぬヴィルヘイズが一晩でやってくれました!
部下たちも落とし穴や地雷の爆発を『魔力感知が出来ない程に高度かつ最速な魔法』といい感じに勘違いしており、この陽気なおバカ加減が観ていて不快にならずに笑える。そんなおバカたちをまとめあげるのに始めは乗り気でないものの、大口を叩くうちにどんどん調子に乗っていくコマリがしっかり可愛くて面白く、ヴィルとの百合漫才や美少女キャラとしてのサービスシーンもあって序盤はキービジュアルを見て抱いたイメージ通りに楽しめる作品だ。{/netabare}
【でもココがつまらない:コマリちゃん普通に最強でした】
{netabare}しかし3話からは打って変わってシリアスパートになる。コマリとガンデスブラッド家に恨みを抱くミリセント・ブルーナイトが祝賀パーティに潜入してコマリを襲撃。国民に不死能力を与えている『魔核』を無効化できる『神具』でヴィルを半殺しにした後、人質として拐ってしまうのだ。1~2話はコマリがいかに周囲を騙して虚仮の将軍を演じ続けるのかに注目するコメディ路線だっただけに、その変更は件の第3話とは言え、かなり唐突に感じてしまう。
さらにこのミリセントという新キャラの過去回想がやや長く、現在時間軸ではコマリとミリセントの1vs1の対決とその決着までを描くだけなのに結果的に2話消費と間延びしたパートになってしまった。彼女らの過去も要は学園時代のいじめっ子がいじめられっ子に反撃されたのを根に持っていた、というだけの話であり、いまいち趣に欠ける因縁である。{/netabare}
{netabare}それでも最弱の吸血鬼である筈のテラコマリがなぜミリセントに反撃できたのか?という疑問は投げかけられているが、なんてことはない。そもそもコマリが「血も飲めない雑魚吸血鬼」と紹介されていたのは完全なる嘘っぱちで、逆に血を1滴でも飲むことができれば『烈核解放』という特殊能力を発動して一騎当千の強さを得ることができる。ただしこれは所謂「バーサク」状態であり、発動後は周囲の生物を軒並み殺害(魔核の庇護下にあれば後で蘇生される)し、発動した時の記憶はコマリには残らない。コマリの父はこの烈核解放で起きた事故を徹底的に揉み消しており、その過程で娘をいじめていたミリセントに事故の罪を押し付けて家族ごと国から追放してしまったのである。
この事の真相をなんと殺された本人が覚えていない(笑) 現在軸での対決もみすみすコマリに烈核解放を発動されてしまい、彼女は再度殺され、蘇生した時には檻の中という結末を迎える。
さらにコマリの、部下に自分の強さをどう誤魔化そうかと悩んでいた日々はミリセントとの決着を大々的に見せることでアッサリと解決してしまうのだった。{/netabare}
【総評】
4話で断念、というよりこの作品はある意味4話だけで完結しており、非常に切りの良い所で1つのエピソードが終了している。撤退するのにこれほど良いタイミングは恐らく無いだろう。
勿論、観たい人は5話以降の視聴を続けてもいいのだが、今時珍しいオーソドックスなラノベ作品のこれまたオーソドックスな構成でのアニメ化というわけで、色々なアニメを視聴してきた私たちレビュアーにとっては非常に話の展開が読み易い。
{netabare}簡潔に書けば①主人公が美少女総大将として部下を鼓舞するコメディパート→②主人公らに危険が及ぶ事件が起きるシリアスパート→③主人公が覚醒し障害をなぎ払うクライマックス→再び①~③…という形で進んでいく。とくに③が御約束として逐一、エピソードの〆に入ってしまうのならハッキリ書いてつまらない。
コメディパートは楽しめた分、そちらを主体としてくれた方がモチベーションも保たれていたのだがそれも③で台無し。テラコマリという可愛いだけの主人公が如何に部下を騙し続けて軍の大将を演じるのか。本作の世界観で描く「戦争」が魔核という設定もあってかなりお遊びに近いだけにそこが最大の注目点である筈が、限定的とは言え主人公は結局「最強」であり、その力の誇示にも成功してしまっていることで血に飢えた部下たちがコマリに対して反旗を翻すという展開は限りなく幻に近いものになってしまっている。{/netabare}
美少女キャラは美少女らしいキャラデザで描かれ作画も上々、主題歌はfripSideを起用しアップテンポでパンチの効いた物を用意するなど中々の高クオリティーなのだが、4話1セット構成の内、前半の内容との落差や期待への裏切りにはついてこれない視聴者が出ても致し方ないだろう。コメディとシリアスの調和が上手くとれておらず、コマリの情報はミスリードというより完全に嘘を吐いた形となっている。これらに納得したまま視聴を続けるにはそれこそコマリに騙され妄信的に彼女を信じる『第七部隊』の様な気概を持たなければならなそうだ。