青龍 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
『純愛の対義語』
『【推しの子】』(作画)などの横槍メンゴによる原作漫画は、「月刊ビッグガンガン」(スクエニ)での連載が終了(全8巻、原作未読)。なお、漫画とアニメが同時完結。
アニメは全12話(2017年)。監督は安藤正臣。制作は『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』、『彼方のアストラ』などのLerche(ラルケ)。フジテレビノイタミナ枠。
(2024.2.27初稿、3.3一部推敲。)
【『純愛の対義語』】
戦争映画などでは、登場人物に「死」を強く意識させることで「生」を実感させる手法がよくとられますが、本作は、端的にいうなら「純愛の対義語」にあたる恋愛を経験することで「純愛」に気づいていく男女を描いたメロドラマ。
(「クズ」(純愛とは程遠い者たち)の「本懐」(本来の願い)は、「純愛」ということなのでしょう。)
さて、「純愛」とは、「その人のためなら自分の命を犠牲にしてもかまわないというような愛」、「肉体関係を伴わない愛(プラトニック・ラブ)」、「見返りを求めない愛(無償の愛)」(wikipedia)をいうらしい。
そうすると、実は純愛に明確な対義語はないのですが「純愛の対義語」は、「他人のためではなく自分のための自己愛」、「肉体関係しかない偽愛」、「相手に見返りを求めることを前提とした打算愛」ということになりそうです。
本作では、こういった「純愛の対義語にあたる恋愛」が多種多様に描かれることもあって、ディープキスなどの比較的濃厚な性描写が多め。
これについては賛否ありそうですが、個人的には、純愛と程遠い恋愛を経て純愛に気づいていく作品だし、心で繋がっていない以上、肉体的な関係を描くことにも理由があると感じました(なお、漫画原作者は女性。)。
というわけで、主人公が高校生ではあるものの大人向けの内容なので、視聴注意。また、あらすじについては、こういった内容なので人間関係が基本的にドロドロ。それを説明するために核心的なネタバレを含まないように配慮したつもりですが、2話までの内容を含みます。
【あらすじ】
{netabare}一見美男美女の理想的な高校生カップルである安楽岡花火(やすらおか はなび:CV.安済知佳)と粟屋麦(あわや むぎ:CV.島崎信長)は、実は互いに他に好きな人がいることを知りながら関係を続ける「歪なカップル」であった。
花火は幼いころからお兄ちゃんと慕っていた鐘井鳴海(かない なるみ:CV.野島健児)を、麦はかつて家庭教師であった皆川茜(みながわ あかね:CV.豊崎愛生)が好き。鳴海と茜は、花火たちの高校の新任教師となり、次第に距離を縮めていく。
高校生の花火と麦は、そのことに気づきながら大人の恋愛に敵わないと感じ、お互いの隙間を埋めるため、お互いを好きにならないこと、どちらかの恋が実ったら別れること、そしてお互いの身体的な欲求にはどんなときでも受け入れることを条件とする「歪なカップル」となるのだった。
加えて、花火に好意を寄せる絵鳩早苗(えばと さなえ:CV.戸松遥)と、麦に好意を寄せる鴎端最可(のり子)(かもめばた もか(ことのりこ):CV.井澤詩織)が物語に絡んできて、さらにカオスな展開に…{/netabare}
【オススメポイント】
『【推しの子】』が好きで、その繋がりで『クズの本懐』にも興味があったのですが、本作の性表現が生々しいらしいということで保留してました。
もっとも、その性表現については、上にも書いた通り、理由のある表現だと思ったし、いわゆる「エロアニメ」のように脈絡なく衣服がはじけ飛ぶようなものではない。ただ、一家団欒で観るものでもないかな…
むしろ、そっちを強調するのではなくて、本筋は、純愛の対義語にあたる恋愛を描くことで、愛というものについて説教臭くない感じで考えさせるところでしょうか。
また、各登場人物がそれぞれ何を考えているのかについて、しっかりとした心理描写があって、その見せ方が『【推しの子】』に似ているなあと。また、そこが後の作品にあたる【推しの子】では、より進化して継承されていると感じました。
原作者は異なりますが、そこが絵柄以外に同じマンガ家の作品だなと思ったところでもあります。
あと、評価が分かれそうなのは、豊崎愛生さんが演じた皆川茜のキャラクターと、花火と麦の最終的な恋の行方でしょうか。これについては、ネタバレなしでは語れないので、下に書きます。
花火のように初恋の純粋さを持ち合わせていた人たちも、いずれ打算的な恋愛観を持つに至ることも多い。また、そうであるからこそ人は純愛に憧れるわけですが、本作は視聴者の「他山の石」となるような作品でしょうか。
【「茜のキャラクター」と「花火と麦との恋の行方」(ネタバレ有りの感想)】
{netabare}茜は、一見同じ豊崎愛生さんが演じた『けいおん』の平沢唯と同じようなおっとり系かと思いきや、その正体は、自己承認欲求の塊、いわゆる男性受けを意識した「ぶりっ子」で貞操観念もゆるい悪女。
それなのに、主人公である花火の想い人で本作唯一のまともな恋愛観を持つ鳴海と結婚しちゃう。
(ただ、茜は、話数を重ねるほどに、もう一人の主人公といってもいいくらいの存在感が出てきて、個人的には、好き嫌いは別として、キャラクターとして面白いなと感じました。)
まして、花火と麦は、最終的に「歪な関係」を一旦解消した様子。だから、「なんで、あんな糞ビッチの茜が幸せになって、花火が幸せになれないの!」という感じの賛否はありそう。
花火は、自分のためではなく他人のための無償の愛に気づき始めた。彼女の本当の恋愛は、これから始まるということなのでしょう。
【鳴海について】
さて、お互い片親で愛情に飢えていたという設定がありながら、対照的な恋愛をした花火と鳴海。
本作で唯一まともそうに見える鳴海ですが、ビッチ茜と結婚して幸せになれるのでしょうか…
男性も女性も私がこの人を変えるんだ!というある種の使命感をもって結婚することも多いようですが、人間の本質ってそんなに変わるものでもない…
茜が貞淑な妻にならなくても、見返りを求めない純粋な愛情をもつ鳴海ならビッチ茜ともうまくやっていける、のかも…(まあ、鳴海が茜をゆるしても、そんな両親を見た子どもがグレそう…){/netabare}