「ヴィンランド・サガ SEASON2(TVアニメ動画)」

総合得点
73.7
感想・評価
218
棚に入れた
475
ランキング
966
★★★★☆ 3.9 (218)
物語
4.0
作画
4.0
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.9

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ネタバレ

エイ8 さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

この世の地獄か地獄がこの世か

『ヴィンランド・サガ』(VINLAND SAGA)は、幸村誠による日本の漫画。『週刊少年マガジン』(講談社)にて2005年4月から連載が始まったが、週刊連載に幸村の執筆が追いつかず、同年10月に同誌での連載を終了、同年12月より『月刊アフタヌーン』(講談社)にて月刊ペースの連載を再開。
11世紀初頭の北ヨーロッパ及びその周辺を舞台に繰り広げられる、当時世界を席巻していたヴァイキングたちの生き様を描いた時代漫画である。タイトルのヴィンランドは北アメリカ大陸にあったとされるヴァイキングの入植地のひとつで、主人公のトルフィンは11世紀に実在したと言われるアイスランド商人ソルフィン・ソルザルソンをモデルにしている。
2018年3月にツインエンジン企画によるアニメ化が発表され、SEASON1が2019年7月から12月までNHK総合にて2クールで放送された。ナレーションは松田健一郎。初回は75分スペシャルとして第1話から第3話が連続一挙放送された。
SEASON2は2023年1月から6月までTOKYO MXほかにて放送された(wikipedia)

正直困ってしまう作品。こんなホンモノを見せられてしまうと今後なろうファンタジーなんてアホらしくって見れなくなっちゃいそうで。

wikipediaの引用文にもある通り、本作は史実を元にしたフィクションというやつです。トルフィンが実在の人物をモデルにしたキャラとは知りませんでしたが、クヌート1世なんかはガチの実在の人物です。もっともおそらくは名前だけで人となり等は完全オリジナルでしょうが、まあ戦国武将が女体化しがちな昨今を思えば充分史実に準じてると言えるでしょうw
いずれにしろファンタジー要素は希薄(後述するがゼロではない)なので、戦場は100%男の仕事場です。なのでおっぱいぷるぷるパンツちらちらの美少女剣士が活躍することはありません(強い女はフィジカルからして強いです。例・トルフィンの姉ユルヴァ)。戦場と化せば女は99%ただの食い物です。犯されるか売られるか、犯されてから売られるか、殺されるか、犯されてから殺されるのどれかしかありません。もっとも男も事情は大して変わらないかむしろさらに悲惨な目に合います。子供相手であっても容赦ありません。

これもwikipediaにあるように本作の一期は地上波ではNHKで放送されていたようです。正直一期の内容はNHKにあるまじきというか、よくこんなもん放送しようと思ったなと思うぐらいの残虐表現満載で、進撃の巨人が行けたからこれも行けるんじゃね?ぐらいの軽いノリで選んだんじゃないのと邪推してしまうほどでした。案の定というべきか、当2期は放送局が変わりました。さもありなんと思いながら本作を視聴してみると、なるほどNHKが本当にやりたかったのはこの二期以降だったんだろうなと感じます。それぐらい濃厚な人間ドラマが繰り広げられていました。

残虐表現というのは使いどころが分かりやすい面があって、例えばなろう系なんかだと悪い奴は虐殺されるためだけに悪い事をしてる面が非常に強いと感じています。また、少年少女の冒険譚として名高い作品なんかでも年端も行かない彼等が絶望渦巻く世界にもへこたれずに頑張ってますよ~と言わんばかりの舞台装置に見せかけて自身の嗜虐性癖を正当化させてるだけなんじゃねと思わされる作品なんかもあります。

ぶっちゃけ本作に関しても当初はそういう(エロ)グロをやりたいだけと思ってました。自分はエロはともかくグロは苦手なので基本こういうのは観ないようにしてるんですが、本作のグロって何というかとてもカラッカラなんですよね。先述したような性癖的なものがほとんど感じられない、どちらかというと合理的に淡々と人間の本性に基づいた悲劇や絶望を描いているようなそういう印象を受けました。なのでグロいのに二期もちゃんと観たわけなんですが、今期も概ね同じ感想です。

例外的にはケティルの息子オルマルぐらいでしょうか。彼は完全にピエロを演じさせられてましたが、それもラストへの綺麗な伏線でした。もっとも彼の境地は当時の価値観には即さない現代的なものなのでしょうが、逆に言えば現代にもよくいるワルぶりたい男に対する現代的な一つのアンサーにもなっているのかもしれません。

本作は基本的にはケティル農場に新しくやってきた奴隷でノルド系イングランド人のエイナルとの女奴隷のアルネイズの関係性を軸に展開していきます。冒頭のエイナルのエピソードは正直少しわかりづらく、てっきり昔襲われたという回想シーンに入ったと思ったら普通にまた襲われていたという……ほんと絶望しかありません。とはいえまあ、母親に見事なまでに矢があたったりだとか、まだまだ逃げられるチャンスがあったのに呆然としていたせいで妹まで失うという流れ自体は正直ちょっとどうかなと思う面はあったものの、あれはあくまでエイナルの悲劇の演出として捉えるようにしています。地獄は一度では終わらないわけです。

そんなエイナルと一期ラストで呆然自失と化したトルフィンが出会い、ケティル農場で奴隷として暮らす日々の中で人として成長していくのが今期の舞台。おそらく奴隷としては破格に近い待遇を与えられてるところから見て、案外トルフィンはクヌートの恩情で比較的温和なところに売ってもらえたのかもしれません。

本作のハイライトはやはりアルネイズでしょう。声優の佐古真弓さんの泣き演技は本当になんかこう、クるものがありました。ほんと、どうにもならない悲劇の連続です。そして最後には「何故生きなくてはならないの?」の言葉を残し逝去。トルフィンが「生きていて良い事なんて一つもなかった」と言いながらも立ち直ることが出来たのは、彼には支えてくれる者がいたというだけでなく単純に強力な戦闘力を持っていたからという面も大きいでしょう。彼は殴られまくってもピンピンしてますが、女性であるアルネイズは逆上したケティルから折檻を受けたらあっけなく死亡。何というか、ほんと女性に優しくない作品です。とはいえ、人権のない時代なんてこんなもんだったんでしょうね。現代では陰キャであっても彼女をもてる時代ですが、昭和の頃なんてヤンキー以外は彼女持ってたら狩られたみたいですしw腕力か権力がある男以外は女を守れないんですよね。アルネイズは、ケティルの情婦としての側面もあったから優遇されていましたが、元夫であるガルザルを選んだ時点でその庇護を捨ててしまったわけです。結果お腹の中の子も含め全てを失うという絶望、さらにクヌートと一戦交える選択をする遠因となる地獄。ほんと救いがありません。

構成的に見れば、色々突っ込みどころの多い作品なんだろうなと思います。冒頭のエイナルの件もそうですが、アルネイズのすぐ近くにガルザルがいてちゃんと出会うとか、アルネイズのくだりをやるために長年トルフィンを捜索していたレイフの感動の再会シーンが丸々カットとか目を疑いました。
また、終盤でクヌートが「神と戦う」的な趣旨のことを言ってトルフィンを驚かせましたが、この辺も何と言うか現代日本の創作ものでこすられ過ぎた展開で正直食傷気味というのもあります。作者としてはあえてこの時代の人間に言わせることに意味があると考えたのかもしれませんが、その割には先述したようにオルマルの人間的成長も現代的で明らかに現代人(読者)を意識したものとなっており、何というか少しチグハグな印象を受けました。(現代日本人で神に対抗するという宣言に驚く人っている?)

更に言うと、本当に当時の剣で人の体をそう簡単に切断できるのかという疑問もあります。この辺は詳しい方は考察されてるのでしょうが、ぼっきり折れることはあってもあれはちょっと難しいんじゃないかなと正直思います。
最初の方でファンタジー要素は希薄と書きましたが、全く無いわけではなくスピリチュアル的な面はむしろ強いと言えます。クヌートのもとには先王の幽霊が現れますし、トルフィンは地獄でアシェラッドと再会します。またアルネイズに至っては夢で自分のお腹の子が死んだことを知ったりと、ちょっと現実世界とリンクさせすぎのきらいはあると思いますが、それでも素晴らしい作品であることに違いはないと思います。

投稿 : 2024/01/14
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