芝生まじりの丘 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
虚淵らしい皮肉に溢れた作品
虚淵の作品の特徴はその理論性とノワール趣味だ。
虚淵は物語創作をかなり技術的にやっている人間でその作品の面白さはかなり理論に裏打ちされているものだ。
ある種文学的には古典主義に該当すると言えるところがある。
彼はもともと物書きの家柄な上、家系的にも結構名門の出のようで、学問として物語をやるということをやっていたのかもしれないというのはまあ勝手にな想像だが。
彼が多用していると感じる技術の一つが皮肉である。
この作品など露骨に皮肉に溢れている。
ここで言う皮肉とは次の2つのことを指す。
・人物の期待と反対の結果が起きること
→例えばギャンブルでお金を増やそうとしてむしろ減らしてしまう
・客観的な期待と反対の状況/結果
→例えば歯医者が虫歯になる。
「期待と違うこと」ではなく「期待の反対のこと」というのがミソである。
皮肉は特別な印象深い感覚を与えることができる。
物語において皮肉というのは常套手段だが、虚淵作品は皮肉に満ちているものが多い。
この作品もそうだ。
この作品における皮肉のリスト
{netabare}
・雷蔵は阿片密売人を殺すつもりで阿片密売を止めようとしていた人を殺してしまった
・藩に忠実な殺害者として行動した雷蔵が藩に殺害されかけた
・雷蔵殺害を頼まれた幽烟が雷蔵を救おうとする
・唯の願いでリベンジされるはずだった雷蔵自身がリベンジ屋になる
・永遠に絵を描き続けるほどに唯を雷蔵は愛し、唯に笑ってもらうことを願ったが、唯は雷蔵に非常な怨念を抱き怨みに顔を歪めて死んだ
・リベンジ屋である雷蔵が旋棍の捨にリベンジされて死ぬ。
・阿片密売の黒幕と目された劉は阿片取り締まりを目的としていた
・貞は僧侶の殺し屋である
・坂田は阿片取締をする奉行だが阿片の密売をしている
・修道女が賭博や女郎の仕事を行う
{/netabare}
脚本家でも情動的な書き方をする中に魅力がある物もいるが、彼の場合はこの皮肉のように技術的に物語の妙味を散りばめ精緻に物語を作り出すことができることが大きな強みである。
第二に彼の作品は常に悪や醜さへの愛がある。
彼は作品で悪や醜さを丹念に描く。
汚いものを汚く描く作品も世の中には存在するが虚淵作品はその系統ではない。
虚淵は汚いものに美しさを感じさせるために用いる。
【作品の感想】
並外れて新しい表現やキャラクタを作り出すことはしてないが、作品に一定の職人的な美学を感じさせるものがあり良かった。
細かい部分でも好みな部分が多かった。
作中で絵画描きを描き、その作中作を見せるようなことは書くのが難しいものだが、雷蔵の描く絵に対する演出は結構良くできていたと思う。
ニオのエピソードは本質と関係ないものの好みだった。
貞の仕事を殺しだと喝破するのも結構面白いと思った。