「バジャのスタジオ~バジャのみた海~(TVアニメ動画)」

総合得点
計測不能
感想・評価
8
棚に入れた
28
ランキング
7902
★★★★☆ 3.9 (8)
物語
3.6
作画
4.2
声優
3.7
音楽
3.8
キャラ
3.9

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

アニメへの願い。

【概要】

アニメーション制作:京都アニメーション

2019年10月5日に発売された、京都アニメーションのファンブック『私たちはいま!!全集2019』
に収録されている28分間の新作OVA作品。

監督は、三好一郎(木上益治)。

【あらすじ】

小さなハムスターっぽい生き物のバジャと、黄色いアヒルの生命あるオモチャのガーちゃんは、
夢を与えるアニメを作っている『KOHATAアニメスタジオ』にて夜中になると、
追い駆けっこやかくれんぼ等をして、楽しい毎日を過ごしていました。

夏の昼休みにバジャは、アニメ制作のストレスから『海に行きたい。』と言い出したカナ子監督が、
マネージャーの田島さんと揉み合いのじゃれ合いの喧嘩になっているのを目撃します。

海を知らないバジャは、カナちゃん監督が言ってた情報をもとに海を想像しては、
『ぼくたちも いつか行けるといいね 海』と、ガーちゃんに話しかけます。

その夜、またしても、このアニメ会社のアニメ作品の「ほうき星の魔女ココ」のフィギュアの、
主人公ココが動き出して、魔法の力でスタジオを魚が泳ぐ青く美しい海に変えてしまいます。
感動するバジャですが、そこに同じアニメのキャラクターのフィギュアで、
ココと同じく動いて喋る仮面の魔法使いギーが現れて、
海は恐ろしいもので何事にも物事には表と裏があるという現実を、
薄暗い闇夜の荒海を見せることで、バジャに教えようとするのでした。

【感想】

木上氏は監督としては寡作ですが、前作の「MUNTO」とキャラクターの描き方が変わってきたなと。
海に行きたいカナ子監督とダメと言うマネージャーの田島さんとで女性同士で口論になって、
ワチャワチャと取っ組み合いになるシーンでは、まるで「けいおん!」を彷彿させます。
大ベテランのアニメーターで演出家でもある木上氏が、「ハルヒ」「らきすた」やkey作品といった、
従来の男性向け作品から女性も楽しめるように作風が変化していった京アニの空気に触れ続けて、
また、女性社員が多い京アニでの長年の知見から学んだことが、
アニメの世界にフィードバックされてるのかもです。

このアニメを観て強く思ったことが、前作とキャラデザが変わってないですか?との違和感。
前作ではシンプルなキャラデザでありながらも、「聲の形」に近い緻密な線で描かれていたのが、
今作ではより線がシンプルになって、瞳の描き方が変わっています。

デザイン設計の変更の意図はわからなかったのですが、
昔は劇場版のマクロスみたいな作画オバケアニメだけでなくて、劇画タッチの「キャッツアイ」や、
子供向けの藤子不二雄アニメ・「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」などの、
数多の作品にアニメーターとして参加してきた木上益治氏が、

「響け!ユーフォニアム」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」などの作品で既に、
作画と芝居の緻密さに定評のある京都アニメーションの後進のアニメーターたちに、
シンプルかつデフォルメされたコミカルな表現が多い普段とは違うアニメ作りを経験させることで、
よりスタッフの成長を促す目的があったようでして、
普段の京アニの作風を続けるにしても、他のやり方を知って広い視野を持ってほしい。

それが既に十分すぎるほど賛辞を得られていた京都アニメーションのさらなる飛躍に繋がるとして、
木上氏の願望まじりの習作として、商業的な成功を考えなくて良い機会の企画だったのかも。

前作に続いて、シンプルな子供向けのアニメに見えながらも、メッセージ性を練り込んでいますね。

ココが魔法で作り出した海は、青く透き通ったデフォルメ化された絵本のような世界であり、
それはリアルな風景を投写したものではなくて、頭でイメージされて増幅された夢の世界。

ネガティブの隠喩としての黒で人間の暗部を好むギーは、ココが作る海を嘘っぱちの世界として、
物事には二面性があるとして、世界の残酷な現実を真っ暗な荒海を作り出してバジャに見せます。

ココ(陽)とギー(陰)の思想は一見は相反する関係に見えながらも、
人間の感情の明暗は表裏一体であり、コントラストがあるからこそ、それぞれが際立つ。
リアルじゃなくとも表現したいものがあれば、現実的ではない描写をするし、
敢えて荒々しくもキレイでないものでないと表現できない世界もある。
一方が完全な正解で、もう一方が不正解というわけでもない、異なる価値観の両立。
創作活動にも視聴者にも、色々な考えがあって全否定せずに学ぶ部分があって良いじゃないか?

その後の今の京都アニメーションの商業作品は依然、クオリティ重視のままですが、
そのなかから、「Free!」「ツルネ」などで、
これまでとは異なる演出表現を模索し続けているのを観るにつけ、
部分的には木上氏の願いは京アニの中では生き続けているのではないか?と思いました。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2024/01/05
閲覧 : 91
サンキュー:

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