キャポックちゃん さんの感想・評価
1.6
物語 : 1.5
作画 : 1.0
声優 : 2.0
音楽 : 2.0
キャラ : 1.5
状態:今観てる
手抜きアニメと言わざるを得ない
【総合評価☆】
作画の質があまりに低く、唖然とさせられる手抜きアニメ。
原作はWEBの投稿小説。古代中国(らしき国)で人さらいによって後宮に売り飛ばされた薬師の娘・猫猫(マオマオ)が、知識を買われて毒見役に抜擢され、さまざまな事件に巻き込まれる(設定がマリア・スナイダーの『毒見師イレーナ』と似ているが、『薬屋』の投稿は『毒見師』の邦訳が出る前なので、影響があったかどうかは不明)。若手作家の著作にしばしば見られるように、シチュエーションの説明は細かいのに心理描写が薄い。アニメ化する際、この欠点を補うべく視覚表現によってキャラの内面を描き込んでいれば、優れた作品になったかもしれない。しかし、本アニメの場合は、原作よりもさらにキャラが薄っぺらに見える。
アニメで心理を表現するには、体幹を中心とした姿勢の描写が重要である。絵がうまくなると、背筋の丸め方や腰の位置によって、心の内をさらけ出せる。逆に、作画の雑なアニメでは、登場人物が棒立ちのまま、顔の表情だけを変える。せいぜい首を傾げたり手を上げ下げするくらい。
では、『薬屋』の作画はどうか? 検証するため、第6話「園遊会」を見てみよう(本アニメは、10月第4週に3話分を一挙放送して始まったが、内容からして、『【推しの子】』のように初回でインパクトを与えるためではなく、単に制作が遅れただけと思える。そのせいか、話数の若いエピソードほど作画がつたない)。
○ストーリーの上で重要なシーンでも、登場人物が棒立ち姿で描かれる。侍女たちが言い争いをする場面では、姿勢ではなく表情と手の動きだけで諍いを表現しようとする。着席した高官たちは、全員が背筋を伸ばして微動だにしない(何と皇帝までも)。動画枚数の問題ではなく、原画の段階で動きが描けていない。
○時間と予算が足りなかったらしく、動画を省略してコピーで済ませるシーンが多い。群舞では全員が同じ動きをし、移動の際に(ギャグとして)数人まとめて横滑りすることもある。
○感情が激する状況になると、漫画チックなデフォルメによってギャグとして軽く流す。第6話では、猫猫の身振りに侍女が驚いて逃げ出すシーンで、表情や動作に極端な戯画化が行われる。こうした戯画化は全編で繰り返されており、激しい感情が具体的に描かれることはほとんどない。
○ストーリーテリングに必要な場合でも、ショットの積み重ねを省略する。猫猫が料理に毒が含まれることを指摘した際、大臣が毒の有無を確認をする過程で画がなく、台詞だけで説明するので、唐突でわかりにくい。
○キャラの特性を表すのに、エフェクトを多用する。宦官の壬氏は、原作で「天女のように美しい」と記されているが、アニメ絵では美貌が表現しづらいので、周囲のリアクションを工夫する必要がある。しかし、本作では、頭回りに星を散らすという素朴なCGでお茶を濁すだけ。女官のリアクションも、顔を赤らめ身をくねらす定型的なものばかり。
○中華風の建物が並ぶ背景は、有りものを組み合わせたらしく、全体にのっぺりした平面的な絵である。色調の調整も不十分で、きれいではあるものの奥行きが感じられず、人間関係がギスギスした後宮のおどろおどろしい雰囲気が表現されていない。
以上に列挙した表現の仕方は、小学生以下をターゲットとするキッズアニメならば常套手段である。視聴者の読解力が乏しい場合は、容認できるだろう。だが、寵愛を取り戻すための閨房テクニックを耳打ちされ妃が赤面するような、かなりアブないシーンのあるこのアニメを小学生向けに作ったのだとしたら、少々不穏である。
小学生向けでないとしたら、なぜこんな作画になったのか。ここからは推測の域を出ないが、私は、プロデューサーに責任があると考える。
多くの識者が指摘するように、昨今のアニメ業界は度を超した濫作状態にあり、アニメーターのリソースが決定的に不足している。にもかかわらず、人気アニメが莫大な収益を上げるのを見て「アニメを作りさえすれば儲かる」と錯覚したプロデューサーが次々と作品を発注しており、結果的に、充分なリソースのない制作会社が無理して手がけるケースが多い。
『薬屋のひとりごと』は、小説とコミックスの累計が2000万部を超えた人気作なので、プロデューサーは版権を押さえようと躍起になったろう。さらに、OP楽曲のために大物アーティストとブッキングし(ただし、完成した曲はアニメにそぐわないと感じる)、有名声優を起用することにも成功した。これで何とかなると思ったのかもしれないが、アニメの場合、作品の質を担保する上で最も重要なのは、制作会社(および監督とシリーズ構成)の選定である。現在、有名制作会社(某京アニとか某ufotableとか)は手一杯でなかなかつかまらない。本アニメの制作を担当したのは、ほとんど実績のない「TOHO animation STUDIO」と、一時的に結成されたチームが制作を請け負うという特殊な体制の「OLM」だが、有能なアニメーターを揃えた制作会社の手が空くまで延期するという選択肢もあったのではないか。
監督・シリーズ構成という重要な役職をかけ持ちした長沼範裕(これ以前の単独監督作は『魔法使いの嫁』のみ)が、アニメ公式ホームページに「様々なご縁があり、この度『薬屋のひとりごと』アニメーション監督をさせていただく事になりました」と妙に低姿勢のコメントを記しているが、制作の裏事情が垣間見える。