かがみ さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
世界を拡張する道具としてのスーパーカブ
トネ・コーケン氏のライトノベルを原作とする本作はとある地方都市に暮らす「親もない友達もいない趣味もない」女子高校生小熊が通学用に原チャリ「スーパーカブ」を手に入れたことで成長していく物語である。カブを得ることで行動範囲が広がった小熊の生活はそれまでとは比べものにならないくらい色鮮やかで豊かなものになっていく。このような「モノ(事物)」とのちょっとした出会いで世界がみるみる拡張されていく体験を詳細に描いているところが本作の特徴といえる。かつて20世紀のサブカルチャーにおいて車やバイクといった「乗り物」はもっぱら男子の身体を拡張し、その男性的ナルシシズムを記述するための道具として用いられてきた。けれども本作で小熊がカブという「乗り物」で拡張しようとしたのはその身体ではなくむしろ世界の方である。ここでは20世紀の男子たちが見落としていた「乗り物」の本来的な可能性が見直されているようにも思える。すなわち、カブという「乗り物」は身体ではなく世界を拡張し、遠くでも近くでもない「中距離の豊かさ」を深めていくための「モノ(事物)」ともなり得るということである。そして、おそらくここには2020年代という時代を席巻する相互評価のゲームから離脱するための「事物を通じたコミュニケーション」の一つの可能性を見出すことができるのではないか。