薄雪草 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ファンタジー好きにはうってつけ
予告編を見て原作を手にしました。
原題は「 The Imaginary 」。邦題は「ぼくが消えないうちに」。
「ぼくが」ですから、主人公は "ラジャー" という名の少年になります。
「屋根裏の」も何だかちょっと楽しそう。
どこかいわくありげな匂いがして、ワクワクと心が弾む期待で臨みました。
視聴者が目にするスクリーンは、ラジャーが見ている風景です。
それは同時に、ラジャーを "イマジナリ" として創り出した "アマンダ" という少女の、ありのままの現実と、ありのままの空想とが "二重視線に写し出される景色" でもあります。
二人の年齢は、なんとなく9歳くらいに思います。
彼らが目にする全ては、知能で理屈化し、抽象的思考を深め、外的な評価を欲していく発達年齢の入り口でせめぎ合っているものです。
いわゆる "10歳の壁" というものです。
作者はイギリス人のA・F・ハロルド氏。48歳です。
2016年、7~11歳向け部門でイギリス文学協会賞を受賞しています。
ただ、全体としての印象は、イギリスらしい理屈っぽさが混じっていたようにも感じました。
では、あらためて、みなさまに。
"ようこそ、イマジナリの世界へ"。
~
物語を俯瞰するためには、主人公の動機が大切になります。
でも、ラジャー本人は、アマンダが創り出したイマジナリ(想像上のキャラクター)です。
だから、主導権はアマンダが握っています。
主体的な志向性も、客観的な指向性も、私的な嗜好性も、そう。
ところが、肝心かなめのアマンダが、{netabare}序盤のうちに物語から "いなくなります" 。 {/netabare}
アマンダの動機という唯一の拠り所が喪失したままに、ラジャーの動機=物語の展開を受け止めるという作業が、視聴する側の目前に用意されるのですね。
ここがちょっと難しいところだと思います。
もしもファンタジー好きな方でしたら、案外、アジャストは楽にできて、胸にストンと落ちるのでは?と感じました。
理屈で理解しようとすると、ちょっと高めのハードルになってしまいそうです。
~
そもそも、イマジナリには "主体性がない" というのが一般的な捉えです。
万一、イマジナリが自我を強く持つようになれば、本人への幻聴だったり、強迫的な精神的圧迫だったりにつながりかねません。
でも、本作には、そうはならない絶妙な匙加減があったように感じました。
どのシーンがとか、どの台詞がとかは、うまく挙げられないのですが、何となく9歳前後の心的発達に、その源泉が見えるような気がしました。
物語を理解するコツがあるとしたら、できるだけ冒頭のうちに、アマンダの言動にシンクロするか、そうでなければアマンダの写し鏡であるラジャーの心の揺れを追いかけることになるでしょう。
もしも高校生くらいなら「映像研に手を出すな」、設定いのちの "浅草みどりの空想力" が頼りになるかもしれません。
中学生くらいなら「涼宮ハルヒの憂鬱」の "閉鎖空間" が、夢うつつ的非現実感として、作品理解の処方箋に繋がるような気がしました。
~
既に、他の方のレビューにもありますが、ラジャーに対抗する敵方?の二人の関係性がいまいち理解に苦しみました。
なにかのアイロニーなのか、あるいはメタファーなのか、考察するとしたらここなのでしょうし、深掘りするのも案外と面白いかもしれません。
近い概念にタルパマンサーというものがありますが、それとも少し違うような気もします。
もしかしたら、イギリス文学に通底する何らかのセオリーがあるのかもしれません。
原作者のハロルド氏は、大学で哲学を学ばれたそうなので、そのあたりに原型が探せるのかもしれません。
日本の作品にも、似たようなモチーフがあるように感じましたが、ちょっと思い出せませんでした。
そんなモヤモヤ感も残りましたが、EDに流れた楽曲が耳にとても心地よかったのと、詩的にも深く感じ取れて、心が洗われたように席を立つことができました。(字幕もぜひお読みくださいね)。
グラミー賞受賞のアメリカの男性デュオ、ア・グレイト・ビッグ・ワールドによる「Nothing's Impossible (ナッシングズ・インポッシブル)」という曲です。(パンフレットより引用)
とても美しい曲です。
YouTubeにアップされていますので、お時間のある時にでもお聴きになってくださいね。
おまけ
{netabare}
イマジナリが生まれたり、安住できたりする場所が "本がたくさんあるところ" というのがポイントの本作。
自由な想像・空想がイマジナリの根源だと仮定すれば・・。
また、それを信じること、信じ続けることが、ときに心の支えにつながると気づけば・・。
「信じる」とは、その字のとおり「人の言葉」そのものです。
ですから、本があるところ、言葉が溢れている場所というのは深くうなづけます。
夢、希望、願い。
それらは、最初のうちは実体のないイマジナリ。
ですが、言葉を口に出して話し続けるなら・・。
その言葉を補う別の言葉を、たくさんの本に助けられているとしたら・・。
いつかきっとイマジナリにあふれる、平和で自由な世界に向かっていくのかもしれませんね。
子どもさんはもちろん、夢を取り戻したい大人の方にもおススメします。
{/netabare}
おまけ2
{netabare}
個人的なお話で申し訳ないのですが、本作の監督さんには、2019年の作品にひどく落胆しましたので、正直なところ視聴を控えようかと思っていました。
ですが、今回は原作ありきの作品でしたし、アニメーションを楽しめればいいかなと割り切りました。
その期待には十二分に応えてくれました。
ダイナミックで、フレキシブルで、ときどきシュールな演出にぎょっとしたりして、とても面白かったです。
という訳ですので、嫌なトラウマの残っている方にも、おススメしておきたいなと思います。
いつの間にか、劇場から消えてなくなってしまう前に、ね。
{/netabare}