青龍 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「虚構と現実、その境界の曖昧さ」という今監督のモチーフが誕生した作品
【本作の紹介】
『パプリカ』、『千年女優』、『妄想代理人』などで有名な今敏監督による初のアニメ映画(1997年)。
竹内義和の小説『パーフェクト・ブルー 完全変態』を原案とするが、竹内から「主人公がB級アイドルであること」「彼女の熱狂的なファン(ストーカー)が登場すること」「ホラー映画であること」という3点さえ守れば、好きなように話を作り替えても構わないという許可を得ていたため、内容は大幅に異なる(参考:wikipedia)。その他様々な事情が重なって、今監督に共通する「虚構と現実、その境界の曖昧さ」というモチーフが誕生し、それが世に出るきっかけとなった作品とされる。
あらすじは、B級アイドルグループに所属する霧越未麻は、突如グループ脱退を宣言し、その演技の才能を買われて女優へ転身する。しかし、歌を歌うことが好きで田舎から出てきてアイドルになった未麻は、女優への転身を頭では理解しつつも、完全に受け容れられなかった。そんな折、アイドル時代の自分になりすました何者かが、ウェブ上で、辞めたはずのアイドルの未麻として日記を更新し続けていた。そして、女優として活動していく中で、アイドルとしての未麻のイメージを傷つけたと思われる者たちが次々と殺されていくというお話。
テーマは、単純にいえば、主人公には、「アイドルとしての理想の自分」と「女優としての現実の自分」があって、ストーカーに精神的に追い詰められることで、その境界が曖昧になること。なので、本作は、サイコホラーに分類されるが、殺人の犯人探しのサスペンス要素もある。
もう少し掘り下げるなら、理想の自分と現実の自分のギャップに悩んで自分らしさを見つめ直したり、また、人格の同一性は記憶の連続性に支えられているが、精神的に追い詰められることで妄想と現実が混濁して記憶が曖昧になり、その記憶の連続性に嘘はないのかと疑い始める。
特に後者のテーマは、私がここでレビューを書くようになって、アンドロイドが出てくるようなSF作品で結構書いてきた内容と重なる部分が多い。
だから、本作は、電脳世界を描いたSFアニメとの相性がよく(今監督の『パプリカ』もそこに行き着く)、アニメ以外にも、いろいろな作品に影響を与えているのもわかる。
また、1997年と古い作品であるが、パソコンのモニターがブラウン管だったり、スマホじゃなくて携帯だったりするくらいで、テーマの内容自体に古臭さは感じないので、古いからと敬遠されてる方は心配ご無用。
テーマがテーマだけにわかりにくい作品が多い今監督ではありますが、本作と次に作られた『千年女優』は比較的わかりやすいと思うので、興味を持った方は、とっかかりとして観てみてはいかがでしょうか。
【感想】
本作は、アイドルオタクをステレオタイプに描いているので、型にはまった表現だという批判はできそう。もっとも、私は、単に監督がアイドルオタクに共感できなかったからだと感じました。アイドルオタクに対する表現に全く愛が感じられないので(笑)。実際、上にあげた原作者からの縛りでアイドルを題材にしたにすぎず、監督自身は、アイドルに興味があったようではないようです。
また、本作は、難解なテーマではあるものの、いったんカラクリが分かってしまえば話の筋自体(※細かいところは除く)はシンプルに理解できるので、無闇に謎めいた抽象表現が多いわけでもないと思います。
ただ、内容については、上にあげた点を含めて今観ても賛否ありそうだし、実際当時も賛否があったらしい。特にラストに関する解釈は分かれそう。
今監督自身、ラストについては、「すべてが嘘だったからではなく、人生とは苦難を乗り越えれば完全に成長できるという単純なものではなく、何度も同じことを繰り返して成長するものであり、正面から捉えてしまって確定してしまうことを避けるという意図」(引用:wikioedia)と言っているらしい。
監督のコメントや批判をみたとき、私は、次の『千年女優』で上手く昇華されているように感じました。私は今監督の作品の中で『千年女優』が一番好きです。