青龍 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
寓話的異世界ファンタジーのさきがけ
【本作の紹介】
人間、歳を取ると「最近の若者は…」と説教臭くなるものですが、得てしてそういう「ありがたいお話」は、子どもたちの耳には届かない。
「寓話」が、そこまで見越して作られたのかは定かではありませんが(笑)、面白い話、続きが気になる話なら、教訓めいた内容を含んでいたとしても子どもたちは興味をもって最後まで聞いてくれる。
寓話は人類の偉大な発明の一つでしょう(多分)。
本作は、主に主人公のキノが喋るバイクのエルメスと旅をしながら、我々の常識とは異なる制度や価値観を持つ都市国家を巡って経験した、人生の教訓めいたことをほのめかす「寓話的要素」を持った短編を集めたオムニバス形式の作品。
最近だと、『魔女の旅々』が近いでしょうか。もっとも、本作は、ファンタジーといっても時代設定の幅が広く、喋るバイクなどが出てくるので、人類の文明がある程度進歩した後、個々の都市国家ごとに個別に衰退した社会とみるのが適切でしょうか。
というような内容なので、具体的な内容に触れた方がイメージが伝わりやすいですし、短編集なので1話くらいバラしても比較的問題が少ないと思われるので、ネタバレ有りの3話の感想を下に書きます。
ネタバレ有りでもいいという方は視聴判断の参考にしてください。
【「迷惑な国」のネタバレ有りの感想】
{netabare}タイトルになっている「迷惑な国」とは、ビーム兵器など周辺の国を圧倒できるほどのオーバーテクノロジー持った巨大な都市国家がキャタピラーで大陸を「移動する国」のこと。
そんな圧倒的軍事力を持った巨大な建造物が領土を通過すれば、滅ぼされるのではないかという恐怖もあるでしょうし、当然大きな跡もできる。
だから、「移動する国」は、「領土を持つ国」にとって、「迷惑な国」でしかない。
もっとも、我々の常識的価値観からすれば、国家の三要素とは、「領土、国民、主権」をいうので、「移動する国」は、領土を持たず、国ではない。
したがって、「移動する国」は、我々の常識的価値観の外側にある。
こっからは思考実験。
その非常識な「移動する国」は、自分たちが世界中を旅したいという極めて平和的な目的から移動しているだけで、ビーム兵器など他国を侵略する能力はあっても、それを行使する気はなく、通過したいだけ。
だから、「移動する国」にとって、「領土を持つ国」の中で素直に自分たちを通してくれない国が、「迷惑な国」ということになる。
個人的に面白い設定だなあと。
確かに、通過される方には、巨大都市が通過した跡は残るし、何のメリットもないので迷惑でしかない(ただ、圧倒的な軍事力の差があるので、「領土を持つ国」が「移動する国」の通過を拒否できないというのがまた面白い。)。
だけど、「移動する国」は、領土を占領しようってわけではないので、「領土を持つ国」が通過に協力して被害を抑えることはできる。
そうであるにもかかわらず、「領土を持つ国」が、「移動する国」と話し合うこともせず、一方的に邪魔しておきながら、生じた損害を全て賠償しろというのも何か違う感じがする。
「移動する国」が、「話の通じるゴジラ」だと思えば、必ずしも防衛軍を派遣して討伐しようとするだけが解決策じゃないなあと(笑)。
土地の所有は、古来より、遊牧、農耕、鉱山開発、工場の建設などにおいて、富の源泉でした。しかし、これからメタバースなど仮想空間における人の活動が盛んになると、物理的な土地の価値は相対的に低下するので、必死に土地を守ること自体が時代遅れになるかもなどと妄想しました(もっとも、領土をめぐる紛争はなくなってませんが…)
もう少し話を広げられそうですが、寓話からどういった教訓を得るかは、その人次第なところがあるので、今日は、この辺にしておきます(笑)。{/netabare}