Witch さんの感想・評価
4.5
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「スパイ作品=アクション」だけじゃない!!しっかりとしたミステリーで魅せる良作
【レビューNo.97】(初回登録:2023/12/03)
小説原作で2016年作品。全12話。
交流あるレビュアーさんの棚で本作を見つけ、そういえばいい作品だったなと。
昭和初期の日本に実在したスパイ養成機関、陸軍中野学校をヒントに、柳広司
作の戦時下のスパイを題材にしたミステリー小説で、第30回吉川英治文学新人
賞他を受賞など原作の評価は高いようですね。
(ストーリー)
昭和12年秋、陸軍中枢部の多数の反対意見を押しのけて、結城中佐の提案でス
パイ養成学校「D機関」が設立された。訓練生たちは互いの素性を知らないまま、
精神と肉体の極限を要求される訓練を受け、優秀なスパイへと成長していく。
そして結城中佐の指揮の元、世界各国で暗躍し始める。
(評 価)
・日本陸軍でも異質な存在が際立つ第1話
・第1話の主役は、陸軍から監視役としてD機関に出向してきた佐久間中尉。
バリバリの軍隊教育(思想)を受けてきた、当時の代表的な日本軍人です。
そんな佐久間に、開口一番結城中佐が先制パンチを見舞います。
{netabare}「馬鹿か?貴様。背広姿で敬礼する奴があるか」(軍人だと即バレw){/netabare}
・そして佐久間が妄信する
・戦いは正々堂々と。
・名誉や愛国心のために時には死することも厭わない。
・そのような覚悟のないスパイは「卑怯」な存在。
これをD機関の学生たちは「トートロジー…見事な鰯の頭です。良く仕込ん
だものですが、新興宗教と同じですよ。」と一笑に付します。
・最後に結城中佐はスパイの矜持を説くのです。
{netabare}・彼らは各国で途方もないない長い期間、たった一人で自らを見えない存
在とし、諜報活動に勤しまなければならない。
→ 彼らに待っているのは真っ黒な孤独だ。
→ 唯一の支えは、常に変化し続ける多様な状況の中で、咄嗟に判断を
下せる能力だけだ。
・佐久間は(洗脳された)自分たちの行動原理との違いに衝撃を受け
・彼らの支えは「自分たちならこの程度のことはできなければならない」
という恐ろしいまでの自負心だけ。
→ そんな生き方ができるのは人でなしだけだ。
彼らを「怪物」だと評するのです。{/netabare}
後述の「ジョーカーゲーム」のシーンを含め、ここまでが1話Aパートになり
なります。まだ本筋のスパイ活動ではないですが、D機関がかなり異質な存在
であることを強く印象づける見応えある会話劇とその世界観に、冒頭から引
き込まれる感じですね。
・「ジョーカーゲーム」とは
タイトルにもなっている「ジョーカーゲーム」について解説。
・D機関の学生たちが楽しんでいた、表向きはポーカーですが、
{netabare}・プレイヤーは食堂にいるものを味方につけ、盗み見たカードをサインで
知らせてもらう。
・だが誰がどちらについているかはわからない。
・サインは偽物かもしれないし、敵のサインを読み手が変えることもある。
・場合によっては敵のスパイを裏切らせ、味方につけることもできる。
いかにも、スパイ養成学校らしい遊びです。
(ただのポーカーだと丸腰で参戦した佐久間は、当然惨敗w)
・そしてこれが「国際政治」の縮図で、見せかけのルールにとらわれ、実際
に行われていたゲームの本質にすら気づいていないのが「今の日本の姿」
であると。
・これは何も国際政治に限った話ではありません。(軍内部の権力闘争等)
佐久間はD機関と合同任務を実施するために派遣されたのですが、
・この任務に隠された上層部の真の狙い
・その狙いを事前に察知し、逆に利用するよう動いていたD機関
最後にこの真相に辿りついた佐久間はこうつぶやくのです。
{netabare}「俺は最後まで入ることすら出来なかった・・・『ジョーカーゲーム』に」{/netabare}{/netabare}
なるほど、タイトルとするにふさわしい作品の本質を表していると感じます。
・スパイモノながら頭脳戦や推理モノの要素が強い
・物語としてはスパイモノらしく
・他国での諜報活動
→ ターゲットへの接触や潜入・協力者との情報交換
・国内でのスパイ活動の監視
→ 敵国スパイの監視や(裏切りによる情報漏洩など)陸軍への内偵
・陸軍本部との権力闘争
→ D機関の存在が面白くない上層部からの仕掛け
といった内容を、各国に散ったD機関のメンバーに焦点を当て、1-2話の
オムニバス形式で見せていく形になります。
・なので
・結城中佐以外のメンバーの出番が少ない。
・(他の方も書かれてますが)そもそも「スパイとして印象に残りにくい」
をコンセプトとしたキャラデザらしい。
(各話毎に主役が変わっていくが、正直誰やねん?!という感じw)
ということで、登場人物には感情移入しにくく、純粋にストーリーの面白
さや創り込みを楽しむ作品という感じですね。
・ストーリーとしては、スパイモノなのでアクションもありますが、主たる
流れは、任務の途中でアクシデントが起こり(マークしてたターゲットが
何者かに消される等)、任務を遂行しながらその真相に迫っていくという、
推理モノの要素が強い感じです。
・それに加え、陸軍本部の企みを巡る頭脳戦的な要素ですね。世界から「魔
王」と恐れられた結城中佐が格の違いを見せつける様は、昔よく放送され
ていた時代劇の「勧善懲悪」っぽい爽快感があります。
・あと主要キャラ男性ばかりなので、各話のゲストキャラで女性が登場する
のですが、{netabare}もれなく「疫病神」だというw
「女で身を滅ぼすな!」という原作者からの忠告なのでしょうか。
(またD機関の採用が男だけの理由も最後に語られます。){/netabare}
原作既読ですが、アニメの方は原作の面白さを忠実に再現してくれているとい
う印象ですね。その分地味な作品という感は否めないですがw
(視聴後は「上質のミステリー小説を堪能した」って感じなんだよな)
同じスパイモノでも、某アニメにのような美少女たちのドタバタ劇をみせてく
れる訳でもなく、結城中佐も「極上だ」とは褒めてくれません(笑)
なので、明快な面白さやエンタメ性は薄い作品ですね。
それでも昭和初期の風景から始まり、ここから大戦へと突き進んでいく当時の
空気感だったり、作画もよくや音楽も作品にマッチしていて、制作陣はかなり
頑張っているなというのを感じますし、原作がしっかりしているので、ミステ
リーとして地に足のついた作品に仕上がっていると思います。
あと個人的には唯一思い入れのできるキャラ結城中佐は、世界で暗躍していた
経験があるだけにその言葉には重みがあり、堀内賢雄さんの好演も光り、見ど
ころのひとつかなっと。
「007」「ミッション:インポッシブル」など「スパイ作品=アクション」だけ
でなく、こういう作品もあることを知ってもらえればと思います。
(追 記)
>登場人物には感情移入しにくく、純粋にストーリーの面白さや創り込みを楽
>しむ作品という感じですね。
「神様のメモ帳」でも書きましたが、ミステリー主軸の作品ってこちらにかな
り尺をとられるので、1クールアニメだと元々人物描写でキャラの魅力を引き
出すとかがかなり難しいんですよね。
(原作の創りもありますが)そういう意味では人物を必要以上に描かないとい
う本作のスタンスは、割と理に適っているのかなという印象ですね。