お茶 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
白紙も模様のうちなれば、心にてふさぐべし
背中に飛べない灰色の羽を持つ「灰羽」と呼ばれる少女達、円形の壁に囲まれたグリの街、灰羽の暮らすオールドホーム、そこでの仲間たちとの日々が描かれた作品。
光と影のコントラストが印象的で、どこか神秘的で、それでいて底の知れない深淵な雰囲気が漂う作品。色々考えさせられる。観ていて苦しいときもあったり、どこか救われた自分がいました。
■非日常を日常へ
世界観や扱っているテーマは、非常にセンシティブかつ珍しい作風。
にもかかわらず、ごく自然に、違和感を伴わず、世界観を魅せている。
その要因として徹底した日常を描いている。
この特殊な世界観を魅せるために、多くの作品は劇的な演出方法をとるが、本作はそのようなことはしない。淡々とした日常を描き続けることによって、次第にシンクロしていく構図がうかがえる。空から落ちてくる少女が、繭になり、目覚め、羽が生えるなどの非日常な出来事を、本作ではよくあること、自然の摂理、というようなリアクションにとどめている。
また、あの世的な世界で生まれるという始まりによって、この世界を理解させることに成功している。そもそもの始まりや世界観が特別で、1話1話、特別な何かを起こす必要がなくなり、淡々と日常を描いても飽きさせない構図になっている
そのようなスタンスで描くことによって、非日常であるはずの奇異な世界観が、日常へと視聴者に変化させている。また、雰囲気作りにしても、絵本や童話、神話などをモチーフに、どこか馴染み深い表現方法をとっている。
■深遠なテーマと謎の見せ方
「灰羽って何なんだろう。壁もこの町も灰羽のためにあるんだって皆言う。でも灰羽は突然生まれて、突然消えてしまう」
グリの街、灰羽、壁、巣立ち、罪憑きなど、{netabare} 本作ではあえて明示的な表現はしない。~ {/netabare}
考察系作品の評価の分かれ目は、謎要素をいかに深淵なものに仕立て、ほどよく面影を残すか否かにかかっていると思う。本作はほどよい面影を残しつつ、どこか無常のような、直感的に腑に落ちるように演出されている。
「白紙も模様のうちなれば、心にてふさぐべし」という言葉あり、余白に美しさを見出す美意識がある。すべてを明かさないほうが深淵に見える。
またツァイガルニク効果により、やり残したこと、途中のことのほうが記憶に残るとも言える。
特殊な世界観を日常的に映し、
テーマをより深淵なものへ仕立て、ほどよい余白を残した名作だと感じます。