蒼い✨️ さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
二度目の人生を異世界で。
【概要】
アニメーション制作:スタジオバインド
2021年1月11日 - 3月22日に放映された全11話のTVアニメ。
原作は、「小説家になろう」に連載されていたweb小説を改訂し、
KADOKAWAのMFブックスから刊行された、理不尽な孫の手によるライトノベル。
原作イラストは、シロタカが担当し、
『コミックフラッパー』にて、漫画家・フジカワユカによるコミカライズ版が連載中。
監督は、岡本学。
【あらすじ】
20年近く引きこもっていて働かない、
不潔で不健康で自堕落なオタク生活を満喫していた34歳の男がいた。
家族らからの社会復帰の呼びかけに目を背け耳を塞ぎ続け、とうとう身内からも諦められて、
当の本人は幼い姪っ子にすら欲情している客観的に見てクズそのものであり、
その自分のどうしようもないクズさを男は自嘲していた。
親の葬式にも顔を出さず、一人で18禁行為(原作小説では姪ブリッジ)をしていたの男の痴態に、
積年の我慢もあってキレた兄姉弟らによって愛用のパソコンを破壊されて暴行を受けて、
着の身着のまま(汚れが染み付いた汚いジャージ)で家を追い出されて住所不定無職になった男は、
今までの人生を思い出しながら裸足で、雨の日の曇った暗い空の下の街を彷徨っていた。
高校生の男女3人の痴話喧嘩を目撃した男は、
3人に居眠り運転のトラックが突っ込んでくるのを咄嗟に助けに行って、
スピードが出たトラックにコンクリートの壁に突き飛ばされたうえに追い打ちで挟まれて、
その100キロ近い身体は潰れたトマトのように轢き殺されてしまった。
死の間際に、人生をやり直したいと願った男は、
地球とは異なる構造の異世界である六面世界のひとつ「人の世界」
中世ヨーロッパに似ている中央大陸のアスラ王国のブエナ村の住人で、
元冒険者で若くて容姿に優れたパウロとゼニスという夫婦の赤ん坊の、
ルーデウス・グレイラットに転生。
前世での享年34歳までの知識と記憶を受け継いだまま、
剣と魔法のファンタジー世界での0歳児に生まれ変わった男は、
前世と同じ生き方をしないように、幼子のときから今後のことを考えて自分を鍛え、
具体的には家にあった魔導書で独学で魔力を成長させ、
それと同時に愛情を注いてくれる今の両親を前世では親不孝だった反省で大切にしようとする。
前世の34年間では人間不信と人生への諦めで自分を変えることが出来なかった男は、
この異世界でのゼロからのやり直し人生で、
ロキシー、シルフィエット、エリスら美少女を始め様々な出会いを経て、
更には様々な困難を積み重ねることになる。
これは無職のクズニートのまま死んでいった男が
二度目の人生で前世のトラウマを乗り越えて心身ともに成長をして英雄になる物語である。
【感想】
原作書籍は読んでなくてweb版を少し読んでて、漫画版は23年10月時点で94話まで読了です。
酷いイジメに遭って卑屈で臆病な人間になってしまった男が、立ち直る努力を放棄して、
傷ついて折れたままの心を引き摺って自分の世界に逃げているうちに歪んでしまい、
20年間を浪費した挙げ句に酷い死に方をして、二度目の人生で人間としての尊厳を取り戻す話。
転生してルーデウスとなってルックスと才能が改善してすら治らない前世男の変態性。
その前世男(ルーデウスの心の声)を杉田智和さんが演じることで、
前世男の卑しいサガを引きずったままであることを強調されている、
苦悩と煩悩に塗れたルーデウス少年の物語が描かれています。
ルーデウス少年は非凡な才能に溢れた英雄の卵ですが、待ち受けている運命は過酷であり、
数々の苦難を乗り越えて人間的な成長を果たし、
前世では手に入れられなかった様々なものを手に入れる。
その主人公(ルーデウス)の内面の心の痛みと気持ち悪さの両方を受け入れて楽しめるかどうか?
で作品に対する印象は大きく変わると思います。共感までは必要は無いと思いますが。
現実社会では人生にはリセットボタンは無く覆水盆に返らずの人生の上に幸せを築くものですが、
やり直しの機会を与えられた前世男の第二の人生も決して順風満帆でもなく、
悲しい経験や敗北などを経て、それらの現実を受け入れて諦めること無く生き抜いていく、
その強さを手に入れるにも信じられる人たちとの出会いと繋がりが重要であり、
それはただ口を開けて待っていても得られるものではなくて、自分で動かなければ手に入らない。
前世では殻に閉じこもってしまい、
人生を変える機会を全て捨ててしまった前世男の後悔の描写が丁寧であり、
ルーデウスとして心を再生する物語は見応えがあるかな?というところですね。
1クール目終了の11話までアニメを視聴して思ったことが、単純に作画が良いだけではなくて、
細部までのスタッフのこだわりが尋常ではない。優れたアニメとはなにかと考えてみると、
職人芸でジオラマを構築するようにアニメの世界の設定を作り上げる手抜かりのなさ。
それは日本とは異なる文化に基づいた王国の美術設定であったり、
魔神語などの架空言語の徹底であったりする。
原作を徹底的に好きになってオールラウンドに本気でクオリティを突き詰めていけば、
良いものができるという思想で作られているアニメ。
それはこの作品に関わった声優の仕事の領分にも大きな影響を与えていて、
日本語でも英語でもフランス語でもドイツ語でもない架空の言語が作られて、
それが会話に聞こえるようにお芝居をしている主役のルーデウスを演じた内山夕実さんの、
アニメージュプラスでの記事の苦労話を読んだりすると、本気で仕事をしようとすると、
手癖では出来ないかなり大変なものであると、この事を知ると声優に敬意を表してしまいますね。
ゼントラーディ語であるとか、そういった試みは昔のアニメでもありますので、
別にこの作品だけの専売特許ではありませんけどね。
こういったこだわりの一つ一つで、
声優を含めた数多くのパートを担う人材の仕事がきちんと積み重なって良いものになる。
緊迫感のある戦闘シーンなど印象的な映像を作るのは仕事の質の影響が大きいですね。
原作がそうだからとしか言いようがないですが、そのクオリティで
食事・性欲・排泄など赤裸々にキャラクターが描かれているのが生々しく、
なかなかにエッチでかなり男性向けで人を選ぶ内容でもありますね。
個人的には女性キャラがとても可愛く、暴力ヒロインであるエリスが加隈亜衣さんの好演があって、
とても印象に残りましたね。
また、一つ一つのエピソードをキャラクターや展開を省略すること無く丁寧に描写されていたり、
台詞が説明的過ぎる朗読劇にならずに会話の間があって、芝居する余地がしっかりあったり、
自分が今まで見たなろう原作アニメでは最もスタッフがいい仕事をしていると思いました。
それが第8話の「ターニングポイント」で、
これまでのエピソードで積み重ねてきた幸福の喪失に繋がるのですから、
考えて構成や演出を積み重ねて効果的に見せるとはこのことで、
展開に感情移入しやすくなっていますね。
他のアニメ作品にも言及していることですが、
アニメは監督の名前を売りにするとか本当にどうでも良くて、
鬼滅にしても、ぼっちにしても、無職転生にしても、
監督の名前に縋らずにアニメの内容が評価されてる作品らが真っ当にあるのを見ていると、
逆にクリエイターをアイドル扱いして誰が作ったとかを前に出しすぎてる別の会社の戦略は、
果たして正しいことなのだろうか?と、一部のアニメ会社のやり口と対比してみたくなりますね。
日本のTVアニメの始祖は1963年の「鉄腕アトムであり」、
アニメの作り方はこの60年間で時代によって常に変わり続けているのですが、
今の時代だから生まれた本気のアニメということで個人的には高評価の作品ですね。
こういった2020年前後の力作も数十年後にはレトロに感じられたりするのでしょうけど、
時代時代の作風の変化の最前線の作品のひとつひとつを楽しめれば良いですね。
ともあれ、もともと面白いと個人的には感じる作品ですので、アニメの続きも楽しみに思えました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。