薄雪草 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
クルクル・ロードマップ
2010年度のSF大賞作の映像化。
全体的に、小難しいギミックでの説明や演出は用いず、楽しげなファンタジー色をまとっているのが特長です。
それでいて、メッセージ性はしっかりと伝わってきます。
お姉さんの立ち位置なら、 "地球生命を円環させる全権を、人類に委譲することへの期待" 。
アオヤマ君の立ち位置なら、 "委任を受けた人類が、持続可能な発展と循環に向きあう責任" 。
そんなふうに受け止めてみたいと思いました。
~
アオヤマ君が心に決めている人は、人柄もオッパイも気になるオトナのお姉さんです。
そんな彼のことがちょっぴり気になる同級生の女の子が、利発なハマモトさんです。
成熟した女性性と、蕾のような少女性の対比。
少年性に特有のセクシャリティーへの蠢動と、ジェンダーを大道普遍とする一つ心。
揺れ動くアオヤマ君が示す方向性と、落としどころは何を訴求していたのか。
それは、実にあざやかな結末、殊にさわやかな理念として記憶に残りました。
~
アオヤマ君の探究心が求めてやまないのは、目に映る不思議な物体。
町なかでにわかに発生したペンギン。
森の奥に浮かぶ怪しげな海(銀の月)。
お姉さんの・・・たわわなおっぱい。
それは、アオヤマ君の賢さには及びもしない起爆剤です。
でも、根っからの几帳面さと無敵さ、そして学び人としての矜恃で胸を昂らせています。
頼りにしているお父さんからのヒントはいささか意味深長で、理解の及ばないもどかしさでいっぱいです。
4年生の彼にはちょっと正解の難しい、生と性の営みに向き合うことで芽生える初めてのキモチなのです。
そんな摩訶不思議な事象と心象を、お姉さんとペンギンたちがエスコートします。
アオヤマ君に、時空を超越していく想像力と、現実を俯瞰する視野を掘り起こすのです。
そのロードマップは、遠いように見えて、実はとても身近なもの。
ほのかな恋心が、さやかな愛情へと育まれていく理路と道理の兆しをうかがわせます。
~
銀の月は、女性の生理現象のメタでしょうが、その実態を知る由もない小学生や研究者たちはてんてこ舞い。
どうしたって取っ掛かりが掴めないから、真相を突き止めようとする生真面目さできりきり舞いです。
セクシャリティーに、無知なままではいられない年齢を迎えた小学生たち。
ジェンダーの構築に、親愛を貫かなくてはならない岐路に立った大人たち。
異次元世界で為す術もなくしおれている彼らの姿は、そんな時勢の境い目に追いやられた男性性を隠喩しているのではないかと感じました。
~
ペンギンは、子どもたちが選ぶ大好きな生物ランキングの常連アイドル。
彼らの発生は人類よりも6000万年も古く、多くの生き方を学んでいます。
実は、2002年、日本発の考え方に "ESD" という言葉があります。
ESD = Education for Sustainable Development
意味は「持続可能な社会の創り手を育む教育」です。
2017年には幼稚園と小中学校、2018年には高等学校の指導要領に、その担い手・創り手の育成が掲げられました。
ですから今23歳以下の人たちは何らかのプログラムを学んでいるのだと思います。
ペンギンが住まう北極・南極圏の環境は、ハイウェイのような速度でその景色を変貌させています。
例えば、北極海の海面温度の上昇は、大気の巡りにも変化をもたらし、自然環境にも人間社会にも耐えがたいインパクトを与えています。
南極半島地域では、この50年で 2.74度という地球上で最速の温度の上昇を見せています。(国立極地研究所より引用)
また、南極には巨大な火山群が眠っていて、厚さ4000メートルの氷が圧となってその活動を抑えているという研究報告もあります。
二酸化炭素などを地球規模で排出し続ける現代の経済的活動に手を加えなければ、人類は早晩、痛いしっぺ返しを食らうのではないでしょうか。
女性は、周期的な痛みを体感し、対処方法を身をもって体得しています。
男性も、地球人類という大局観や当事者性を発揮し、その英知に最先端技術を創出し、ともに協働してはいただけないものでしょうか。
ペンギンともどもヨチヨチ歩きもご一興。
いつまでも青い地球から愛される常連アイドルでいたいものです。
~
お姉さんの正体は、どうやら {netabare} 地球人ではない {/netabare} ような・・・。
彼女が残したミステリアスなメッセージを、アオヤマ君がどう受け止めたのかまでは描かれませんでした。
それだけに、鑑賞したあとの甘やかな余韻は、高次元の不思議な意識へと導かれ、やがて見たことのない世界へと結実していくような気がします。
「言うは易し、行うは難し」ですが、子どもたちの未来は今日からの選択一つにかかっています。
相見互いの愛を注ぎあうクルー(糸口)は "循環=サイクル" 。
共生しあう環境を創り出すターム(条件)は "円環=サークル" 。
そのロードマップを "ペンギン・ハイウェイ" と銘打った本作。
時代性を身近に寄せ来る、さすがの SF大賞受賞作です。