7でもない さんの感想・評価
3.0
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
Lv1向けゾーン はじまりの島
「アニメライザのアトリエ」は、RPGの始まりの街やニュービーアイランド
{netabare} 「ニュービーアイランド」という言葉は、オンラインゲームやBBSなどの文脈でよく使われ、ゲーム内のスタート地点や練習場所を指す言葉です。これは、新しいプレイヤーがゲームのシステム、操作、基本的なゲームの流れに慣れるために始める場所で、より難しいエリアに挑む前に、新しいプレーヤーが学び、基本的なゲームプレイを試すことができる低難易度な環境で、また初心者同志が交友できる場として設計されています。。 「ニュービー」という言葉自体は、特定の活動やコミュニティに新しく参加した人指すためによく使われます。 {/netabare}
のような穏やかなクーケン島で繰り広げられる物語だ。主人公ライザと彼女の仲間たちが、外の冒険に憧れつつも前に進めないでいる中で、行商人のルベルトさんとクラウディア親子や錬金術師のアンペルさんと出会う事で冒険の歯車は回り出し、彼女たちの世界は広がって、成長していく様子を描いている。クーケン島は狭く退屈な反面、互いに顔見知りの温かいコミュニティが広がっており、沖縄のような、日本国のような、そして往年の日本アニメーションのような雰囲気が漂っている。
このアニメの特徴は、主人公たちがレベル1からスタートし、物語の終わりでもまだ所詮レベル15程度くらいの雰囲気な所や、最近の1クールで最期まで駆け抜ける作品ではなく4クール以上のゆったりしたペースの名作劇場とかみたいな所だ。厳しい逆境や派手な展開はあまりなく、代わりに住人、親、幼馴染との衝突などが多く、人間関係やファンタジーの要素が丹念に描かれている。
長所
このアニメの魅力の一つは、主人公たちが島民とぶつかりながらも交流を通じて成長し、彼らからの信頼を少しずつ築いていく過程だ。
最初はクラウディアとライザたちの4人だけで島の外で冒険するなんて論外だと叱咤するパパで行商人のルベルトさん。しかし、クラウディアとライザたちは自己を鍛え、厳しく躾け、律することで、冒険にふさわしい存在であることをルベルトさんに認めさせる。その際のルベルトさんの対話が魅力的だ。「君たちは島の住民としては珍しく、外の世界に興味を持つ若者たちだ。個人的には親近感を感じていたが、それでも今の君たちの実力では娘を連れ出させ冒険させるわけにはいかない」と語る。く~いいね。感情や規則だからだけじゃなくちゃんと理屈で説明できる大人になりたい。ここでルベルトさんは、パパとしての側面、島の外での経験を持つ行商人としての一面、さらには試練を与える役割としての要素を見事に表現し、ライザが試練を乗り越えた後は大人としてそして理解者として4人を暖かく見守る。
また、村の権力者モリッツもまた初めは横暴で気まぐれな富豪として登場し、主人公たちに対して嫌な大人のような印象を与えるが、主人公たちの活躍を認め、評価し、態度を軟化させ最後は彼らを後押しする応援者になる様子も心強く感じた。
物語が進むにつれ島民の過去の秘密が掘り起こされ、住人同士、ライザたちの家族同士が意外な形でつながっていく過程が楽しませてくれる。
だけどこの作品の最大の魅力は、錬金術師のアンペルさんと傭兵のリラさんだ。彼らは時には厳しく突き放し、時には優しく、まるでチュートリアルクエストのような課題を提供してくる。彼らは悪の四天王のような雰囲気を漂わせ、中ボスのようなしゃべり方で接してくるけど、実際には長い事主人公たちを近距離から見守り、導いてくれる素晴らしい師匠のような存在だ。彼らは適切な距離を保ちつつ、適度なサポートを提供し、主人公たちの才能を開花させる手助けをしてくれる。そんな漆黒のボス風の味方として、彼らの存在は非常に心強く、視聴者にとっても心地よいものとなっている。
このように、このアニメは最近のこの手のファンタジー・ヤングアダルト層作品としては珍しく普通の大人や老人が登場し、彼らは多面的なキャラクターとして描かれ、物語を彩る。また島には嫌なキャラも度々でてくるが、ライザたちが成長する事で彼との関係性も変わっていくのも面白い。ここもある意味往年の日本アニメーションの名作劇場のようだ。
ストーリーから背景の話に変わるが、この作品は3DCGのゲームを元にしているため、特に序盤において背景や風景の描写に非常に力が入れられている。村や家のディテールや解像度は高く、まるで見て描いたかのような解像度があり、ファンタジーの雰囲気を豊かに感じることができる。麦畑に生えている麦や稲も一本一本丁寧に描かれている。農作アニメかのように。
主人公ライザが自宅の2階のベッドから窓からの星空と島を眺めるシーンは、非常にロマンティシズムに溢れ、夜中に窓の枠に座って風の谷を眺めるナウシカを思い出させてくれて非常に印象的だ。こうした瞬間が、作品全体に独自の雰囲気と深みを与え、ファンタジーの魔法的な世界を感じさせてくれる。この雰囲気や独特の要素が、この作品をファンタジーとして立ち上げている要因の一つだと言えよう。
短所
一方この作品のいくつかの欠点について指摘したい。
まず、このアニメで、ひいてはアトリエシリーズで注目されている要素が錬金術だ。なのにその表現方法は悪い意味で気になった。例えば、試験管のまま材料を釜投げ入れ、バンクシーンの後に手の中に完成品が出現する描写は、あまりにも都合の良すぎて、子供っぽい印象を受けた。錬金術は神秘的で奥深い要素であり、その魅力をもっと引き立てるために、より詳細な描写や工程を示すことができるはずでなんだけどな。バンクシーンもまた、ニチアサの魔法少女やアイドル少女風の抽象的な演出で、まるでコウノトリが虹色の畑にキャベツのように生えている子供を引き抜いて、親の所に運ぶみたいな、説明しづらい難しい概念を原始宗教的なメルヘンでごまかされてるような違和感と失望感を覚えてしまった。
またライザも戦闘中はほぼボンバーマンと化している所も残念だ。これらは錬金術の神秘性を大幅に省略してしまっているように思う。もっと詳細な描写やバラエティ、そして中間の工程を通じて、錬金術の魅力を一層際立たせることができるだろう。
正直な所、偽アトリエシリーズの新米錬金術師の店舗経営、そう、あの伝説のヘルフレイムグリズリーがでてくる新米錬金術師の店舗経営、のしょぼさ、なんでもあり加減を見た後だったので、本家の凄みを見れるかなと思っていたけど期待外れだったようだ。がっくり。
逆に使えなく弱気で文句ばっかり言ってたメガネっ子のタオがクライマックスで魔法の文字を読む事でパーティに貢献した事は個人的に好きな部分だ。イニシエの灰色の魔法使いもいったよね。手から花火を打ち上げるのが魔法遣いの主な仕事ではない、と。
同様に、アニメのタイトルに登場する「ライザのアトリエ」の建設シーンやルベルトさんの水漏れの部屋の工事シーンでも、工程の描写が圧倒的に不足してるしか言えない。漫画やアニメでは往々にめんどくさいシーンは描写を簡略化する事が多いけれど、数秒のアニメーションも、音楽と共にパンする一枚絵数枚どころか、一枚絵一枚すらなかったのは残念だ。
視聴者にレント(赤毛の戦士)が資材を運び、タオが工具を精密に扱ったり、もしくは資材をひっくり返したり、ライザが偉そうにしてるシーンをより詳細に示すことで、建設やリフォームのプロセスにより深く没入できるはずなのだが。現在の描写では、まるでゲームでAボタンを連打すれば完成するソシャゲのような印象を受けた。このようなシーンでも、細部の描写や工程を視聴者に示すことで、より現実感のある体験が提供できると思う。
キャラクターたちが農作業やお使いをしている場面でも、常に鎧や派手な衣装を身に着けたままで、完全に武装した状態にいる点について、一考の余地がある。冒険の際には鎧を身に着けるのは理解できるけど、寝起きや散歩中などの日常の場面では、より気軽な普段着を選ぶべきだ。同じように仮に寒い時には、上に外套を羽織ることでキャラクターがその世界により一層溶け込む印象が生まれるし、アニメーターにとってもJRPGやソシャゲのような詳細な衣装のディテールを毎回描く必要もなくなるはず。
総括として、このアニメはファンタジーの要素と人間関係の変化・成長を描いており、師匠の存在や島民たちとの交流が穏やかに表現されている。ただし、錬金術や作業の描写において、より詳細なディテールやリアリズムを取り入れることで、物語全体の魅力を一層引き立てると主張したい。
最後に、誰かが本作をスライスオブライフアニメと評していて、なぜファンタジーアニメで日常系と呼ぶのか不思議だったけど、よくよく考えてみると確かに日常系要素が濃いアニメと言える。
また1クール前後でゲームの終わりまで描く事は可能だったかもしれないけど、でもただでさえふとももに溺れかけてアップアップしてる作画と作品の傾向からゆったりと進行したことが作品にとってよりましな選択であったと信じたい。
2023/07