フリ-クス さんの感想・評価
4.0
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
キャプテンE.D.
世の中、たいていのことには『良い点』と『悪い点』が混在いたします。
禍福は糾える縄の如し、とはよく言ったもの。
EDのもつ最大の良点は『腹上死する危険性がなくなる』ところかと。
死というものは万人に等しく訪れますが、
その価値は、ほんとそれぞれ。
欧米では『友のための死が最も尊い』とか言われます。
腹上死というのはたぶん、
その対極に位置する存在ではあるまいかと。
もちろん『性欲はオレの友だ』と言い張ることもできるにはできます。
キャプツバ的に『リビドーはトモダチだよ』と爽やかに言うこともできます。
ほんとできるっちゃできるんですが、
それはあくまでも『言論の自由』というケンポ-上の話であり、
うんうんそうだね、と言ってくれるヒトは、
早くその話題を終わらせたいから相づち打ってることをお忘れなく。
実際の話、そういう大往生をしてしまうと、
残されたご遺族の心境もけっこうフクザツでありましょうし、
弔辞の書き方にも困ってしまいます。
さらに、お葬式の雰囲気も微妙なものになってしまいかねませんので、
オトコがなるべく避けたい往生の仕方の一つと言えるでしょう。
その心配がゼロになる、というのですから、
EDというのもなかなか捨てたものではないのかも知れません。
(自分がなるのはゼッタイごめんですが)
さて、本作『無職転生Ⅱ』第一ク-ルは、
エリスに去られて自己憐憫をこじらせたルーデウスがEDになり、
魔法大学でシルフィと再会してそれを克服するまでを描いたおハナシです。
完全に前作『無職転生』の続きなので、
まだ見ておられない方はまるっとおいてけぼりですね。
今ク-ルはこれまでの血わき肉踊る異世界冒険譚とは趣を異にし、
どちらかと言うとせせこましい、
ぶっちゃけ半日常系みたいな話がちくちく紡がれていきます。
とは言っても、話のすすめ方がザツ、ということはありません。
0話まるっと使ってシルフィが魔法大学に入った経緯を説明してから、
1~4話がいわゆる『泥沼編』。
大切な放送期間まるまる一か月をかけて、
ルディ(ルーデウス)の見事な自己憐憫っぷりからのED発覚、
そして魔法大学入学までを描きます。
これを『しっかりと経緯や心情を描いている』と評価するか、
あるいは『展開が遅くてまだるっこしい』と考えるかは人それぞれ。
きちんと物語を描きたいカントクの意図はわかりますが、
昨今はやりの『なぜもへったくれもない』展開になじんだ方々は、
早よシルフィだせやゴラァ、と思うかも知れません。
まあ実際、
そんなに面白い・引き込まれるエピソードでもないし、
鬱モードに入ったルディがうっとうしいし、
プロットヒロインのサラがええとこなしでかわいそうなので、
半分の尺でもよかったかな、とは思うところ。
そして5話からがラノア魔法大学編。
基本的に『魔法学校』という舞台設定は、
おなかいっぱいというか、創造力のないラノベ作家が選ぶド定番であります。
あまりにも亜種が多すぎてよくわかんないほどなんですが、
本作は草分け的存在なので、
発表当時はまだ鮮度が残っていたかも知れませぬ。
ただし、ルディが魔法大学に入学した目的が
向学心のためとか祖国のためとか憧れの師匠に追いつきたいためとか、
そういう内面的かつふわっとしたものではなく、
EDの治療法を探すため
という『はっきりしていて切実』なものなので、サベツ化は充分かと。
てか、ぶっ飛んでいて好きかもです。
で、ここからはおハナシの趣がガラリと変わり、
けっこう既視感の強い、下ネタおおめの異世界学園ラブコメふうとなります。
旧キャラに加えて新キャラもけっこう出てきます。
{netabare}
ロキシーがパンツしか登場しないため、
萌えという絶対領域はシルフィがほとんど一人でカバ-いたしております。
ドワーフっ子のジュリエットもかわいいっちゃかわいいのですが、
萌えとしては、上級者向けではあるまいかと。
ケモナ-さん向けにもふたりご用意しておりますが、扱いがリョナ。
ナナホシという、
今後の物語展開でキーパ-ソンになりそうな娘も再登場しますが、
今ク-ルで何かが大きく動くわけではありません。
ヒトガミとルディの前世姿の登場も、泥沼編の一回こっきり。
ルディがこまめに肉体を鍛え、
ふつうのファンタジーヒ-ロ-っぽく、かっこよくなっていきます。
つまるところ、
小さなプロットがけっこうあるものの、何をやっても物語の主たる関心が、
シルフィがいつ身バレするのか
ルディがどんなふうにEDを克服するのか
の二点に帰結してしまうという、
わりとミもフタもない展開のク-ルだったりするわけです。{/netabare}
それじゃつまんないんですかと問われると、
決してそんなことはなく、
熱狂するような感じじゃありませんが、ふつうに楽しく見られます。
個々のキャラの心情もしっかりと繊細に描かれていますし、
『萌え』『笑い』『シリアス』『業』『バトル』
みたいなものがきちんと、しかもほどよく配合されておりまして、
ヨ-グルトがけグラノーラ、オレンジジュースつき
みたいな、バランスの良い朝食的仕上がりなのではあるまいかと。
ただし『ED』というクセの強いシードが含まれているため、
とりわけ女性の視聴者さんにおかれましては、
えっと……笑ったらいいんですか?
それとも同情した方がいいのかしら?
などと、咀嚼に困惑される場合もあろうかと存じまず。
どうぞ笑ってやってくださいまし。
そもそもルディの未熟な自己憐憫が原因ですから自業自得ですし、
同情なんかされたらそれこそいたたまれませんから。
拙的な本作のおススメ度は、
前期を視聴済みという前提でAランクです。
(てか、第二ク-ルから見はじめる人ってあんまいないよね)
前期みたく、
エンタメ性を存分に発揮しながらも『人間の業』に深くえぐり込む、
というキレッキレ感はあまりありません。
もちろん、ヒトガミやナナホシとの会話などで片鱗は見せるのですが、
通して視聴すると、
やっぱ下ネタおおめの異世界学園ラブコメみたいな印象かと。
なんでそうなるのかとと言うと、
物語全体の印象というかインパクトを、
シルフィ(茅野さん)が全部もってっちゃってるんですよね。
ひさびさの茅野さん無双でありまする。
{netabare}
とりわけラスト二話、
シルフィの身バレとED完治が同時ではなく別プロットになり、
茅野さんがそれぞれのプロットで披露したお芝居、
ゴジョ-先生もまっつぁおの領域展開が、インパクトやばいレベルです。
ふつうのアニメだったら、
身バレでソッコ-完治、愛はEDを救う、みたくなると思うんですよね。
だけど本作では、
『それはそれ、EDはED』
ということで仕切り直し。キビしいです。
え~~、やっぱあっちとそっちって違うもんなんですか?
とか女性の方から聞かれても、なったことないからわかりませぬ。
ほんとわかんないんですが、
何となくわかるような気がするかも、
というのがこっち側の大半の意見なんじゃないかしら。
でまあ結局、ふたりでクスリ飲んでキメ〇ク、という
かなり身もフタもない解決方法に至っちゃうわけでありまして、
まさにディ-プインパクト。ぜひもなし。{/netabare}
作画は、相変わらずの高水準ですね。
ただ、前期に比べると粗くなったという声もあり、
そう言われると確かに、
ロングやモブの描き方がザツだとか仕上げがちょっとアレかなあとか、
前期になかった「ん?」は感じますが、
それでも他社との比較論で言うならけっこうなお点前ではあるまいかと。
今ク-ルから監督が、
前期まで副監督を務めていた平野宏樹さんに変わっております。
また、成長したキャラを描くにあたり、
キャラデの担当者も前期とは違う方になっており、
そのへんの影響は、やっぱあるでしょうね。
役者さんは、キャラ替えもなく、全員ハイレベルです。
特にルディ役の内山夕実さん。
前期からルディの年齢が変わって肉体的に成長していますし、
おまけにEDという女性には理解がムズカシイ役どころなんですが、
うまく咀嚼して『青年ルディ』を創り上げています。
その他、今期からは新キャラで
上田麗奈さん(アリエル役)や若山詩音さん(ナナホシ役)など、
旬の実力派役者さんも参加していて百花繚乱。
プロットヒロインのサラを演じた白石晴香さんも、
けっこうアシリパ入ってたけれど頑張っておられました。
ただ、そんな中においても、
インパクトという観点においては、
すでに述べたように茅野愛衣さん(シルフィ役)が無双状態かと。
茅野さんって、
最近はご自身のyoutubeでお酒ばっか飲んでるイメ-ジなんですが、
もともと卓越した演技力をお持ちの方なんですよね。
彼女のお芝居で拙が「マジすげえ」と思わされるのは、
セリフの『硬度』と『温度』の使いわけです。
これはもう、天性のものと呼んでいいんじゃないかしら。
{netabare}
本作でも物語冒頭、アスラ王国に飛ばされてきてすぐのときは、
ガチガチに緊張した、バリカタの声ですね。
それから『無言のフィッツ』として新生活になじんでくると、
緊張がややほぐれて声の硬度が一段階さがります。
(それでも初対面の相手と話すときは硬度かために)
そして、フィッツとしてルディと会話している時には、
リラックスできるのか、
まったく同じ話し方なのに声のトーンはやわらかくおだやかに。
こうした同じ話し方での『声の硬度』の使いわけ、
『バリカタ』『かため』『ふつう』が自然にできてるんですよね。
あの『氷菓』伊原摩耶花役でも披露してましたが、
なかなかマネできない、ものすごい技術だと拙は思います。
(たぶん、鳴らす場所や緊張させる筋肉を微妙に変えてるんでしょうね)
で、それに加えて『声温度』の上げ下げができるんです、この方は。
ナナホシとの会話などでは、声温度かなり低め。
ルディとの会話でも、
感情の起伏に伴って面白いぐらい上がったり下がったりいたします。
そして、今ク-ルで最大の見せ場は、やっぱ最終話。
ド-ピングの前後で声温度爆上り。
その温度のまま究極の最終奥義、オトコ殺しの頂上セリフが炸裂します。
どうぞお召し上がりください。
これはあかん。
わりと身持ちのかたい僕ではありますが、耳元でこれは殺られる。
まさにアルテマウェポン。奥さんほんとごめんなさい。
というか、マジなハナシ茅野さんって、
『声バリカタ冷え冷えで』とか『声やわ激アツで』とか、
どんなオーダ-にも応えられるすごい役者さんだと思う次第であります。
{/netabare}
音楽は、
劇伴は前期と同じく藤澤慶昌さん。
古楽器を駆使した安定した音作りで、世界観もドンピです。
OP/EDは、
前期は大原ゆいこさんが全部やってたんですが、
今ク-ルのOPはLONGMANさんが担当。
わりといいんじゃないかしら、世界観にもハマってますし。
あと、最終話のEDは大原さんの曲を茅野さんが歌唱しております。
ただし、セリフにかぶせてBGM的に使っちゃったので、
印象としてはかなり薄めかと。
(拙は初見のとき気がつきませんでした。お恥ずかしい)
いずれにいたしましても、
見て損をするようなアニメでは決してありません。
他の『なろう系』を見るぐらいならぜひこっちを、という感じかと。
ただ、前期については、
『異世界転生もののハイエンドモデル』
と評価させていただいたのですが、
今ク-ルについては、さすがにそこまで言えませぬ。
既に述べたことだけど本作品の通奏的なテ-マは
『人間の業と再生』
みたいなモノだと拙は愚考しているわけです。
そこんところ今ク-ルは、かなり薄味になっちゃってるんですよね。
そして『テ-マ』ではなく『ギミック』の一つである、
ルディのEDが前に出すぎちゃったことで、
なにがしたいのかイマイチわかりづらいク-ルになっちゃったなあ、と。
{netabare}
もちろん、ルディがEDになったのって、
エリスの真意をはかりきれないルディの『未熟さ』と、
それがゆえの自己憐憫をこじらせちゃったのが原因であります。
前世で死んだのが34歳だから通算年齢ほぼ50歳、
ええ歳こいたおっさんがそんなんでええんか、自業自得やんかジブン、
という意味では『業のなせるワザ』と言えなくもありません。
ただ、その乗り越え方が、
なんか頑張ってジブンの弱さを克服した、みたくリッパなものではなく、
クスリでキメたらうまくいったぜキャホホイ
という、リアルではあるけれどドラマ性のかけらもないものでして、
え……あ……よかったね、としか言いようがありませぬ。
人間の未熟さとか腐った性根というものはカンタンに治んないですよ、
という背骨の部分は前期から一貫しているのですが、
だからといってこの展開で、
何かカンド-したり学んだりしろ、
なんていうのは、さすがにムリ筋に過ぎるかと。{/netabare}
とはいえ、ルディくんの冒険譚は、まだまだ道半ば。
見てくれがいっぱしの青年になったとしても、
いきなり中身までリッパになられては、お話が回せません。
第二ク-ルは来年四月からとの由、
とりあえず性的に充足したルディくんにどんな冒険が待っているのか、
おパンツ以外のロキシーの姿は拝めるのか、
ヒトガミやフィットア領転移事件の謎は明かされるのか、
いいかげん下ネタを卒業してドラマにシフトしてくれるのか、
いろいろと興味の尽きないところであります。
今ク-ルはちょっとまあアレな感じでナニな出来ばえでしたが、
それでも面白いっちゃ面白いし、
物語自体はよく練られていてすごく興味深いものなので、
次ク-ルを楽しみに待ちたいと思います。
あと、レビュータイトルがアレなので、
某所からクレームが入り、
BANされたらごめんしておくんなまし。