nyaro さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
エヴァからの脱却とサイバーパンクの消化を成し遂げた名作。
本作が2006年。1999年の映画「マトリックス」の設定をそのまま使ったような感じですが、しかし「換骨奪胎」つまりその着想を借りながらも意味性を付与した素晴らしい作品になっています。
人間の実存の問題といえばいいのでしょうか。タイトルにある通り「ペイン・痛み」の問題が描かれました。
「生きることの痛み」は戦い、別れそして出産です。一番最後のシーンを考察しようという向きもありますが、あれは{netabare}「ペイン」を象徴した出産の痛みであると同時に喜び=光を象徴していたものとして捉えると理解しました。
灯台が朽ちているのは相当時間が経過したということ。つまり、人口は少ないけど人間の世界に戻り「出産」ができるようになった。世代が変わって主人公とヒロインの子孫なんじゃないかと思っています。もっと言えば、あそこに出てきた女性は特定の誰かではなく人間は出産することによって移り変わる存在だという意味でしょう。{/netabare}それは「時間が経過する」ということでもあります。
2006年という年はバブル崩壊後失われた10年とか言われた停滞の時代でした。もちろん今も変わりませんが、当時の気分として「停滞」つまり「ループ」している感覚を象徴していたと思います。
アニメ史的には、1995年の「エヴァ」の世界系から脱することができた、物語世界の整合性と意味性がちゃんと語られた正統派SFでもあります。「ラーゼフォン」「ファフナー」「ブレインパワード」「アクエリオン」のようなエヴァの呪いから脱することができなかったロボットアニメの流れを断ち切り、「攻殻機動隊」「マトリックス」の力を借りてやっと「脱エヴァ」が出来た記念すべき作品だと思います。
「SAO」「SSSSグリッドマン」「ハローワールド」「楽園追放」「ブラックロックシューター(新)」などの優れた後継作への影響も強くみられます。本作によって、表現として「難解」であることが価値であり必須だったサイバーパンクものを分かりやすくロボットものとして表現したことが本作のイノベーションなのではないかと思っています。
黒猫を効果的につかっているところなど、深いSFマインドがあったと思います。
本作のSFとしての気になるところは量子テレポートとかいろいろあるんですけど、そこは本作のリアリティラインの設定として受け入れた方がいいと思います。
一番説明が欲しいのが「なぜロボットか?」の説明が不足していました。サンライズだからロボットという風に見えなくはないです。せっかく「人間」「世界」「痛み」がテーマならその意味性をロボットに上手く乗っければ最高だったのに、と思います。それ以外の部分は荒唐無稽感はないです。
アイデンティティの問題はあります。本作でいう幻体つまりゴースト、魂ですね。あとになって、「イェル」の件があるので難しいですね。人格のデータコピーの問題など扱っていたのに、ここの深掘りが弱かったかなあ。ただ、読み取れるものが多々あったので、視聴者に委ねたといえばそれでいいかもしれません。
「色即是空、空即是色」という仏教用語をAIと絡め、かつ「痛み」という人間の業であり本質をテーマにしたのは本当に素晴らしかったと思います。
ストーリ-そのものですが、全体がしっかりとしたSF設定の上に組み立てられているので、伏線とカタルシスがあるし、その前提としてヒューマンドラマがあるのがとてもいいです。
アニメの技術的な面では、人物の作画水準に不満があるかなあ。もう少し丁寧な作画なら最高だったのにと思います。まあ、それはストーリーが面白いので惜しいという水準ですけど。
ということで、本作は「サイバーパンクは難解でなければいけない」を消化してSFアニメとして完成系の一つの形を見せた記念碑的な意味がある作品だと思っています。また、AI問題と停滞という、当時の再先端の時代の雰囲気を持っていました。
そして「痛み」「進化」「生きる、死ぬ、産む」のような人間の有り方をテーマに取り込んだ、重層的な優れた作品だった問思います。
日本のSFロボットアニメの中では最高峰の作品でしょう。本作で完結でいいのにと思うのですが…怖いので映画は見ていませんし、後継がまた作られるそうで…まあ、それだけ懐の深い作品なのかもしれません。
キャラについては…若干ステレオタイプ感あり。特に主人公の性格造形がラノベ的な猪突猛進正義感で、そこは人を選ぶかもしれません。
EDの曲は切ないなかなかいい曲です。音楽性も悪くなかったと思います。