101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
多様性の面倒臭さと可能性を描き切ったピクサーの力作
【物語 4.5点】
多様性を描いた本作。
監督のピーター・ソーン氏は韓国系。
韓国人と結婚して欲しいとの家族の要望に反して、
イタリア系女性と結婚したという過去を持つ。
本作でも監督自身の人生が反映されており、
それだけならマイノリティ経験者等以外は共感できない視野の狭い作品となります。
が、本作の非凡な所は、マイノリティが多エレメント(民族)都市であるエレメント・シティの中で、エ0レメント間に溝ができていく歴史と過程を、客観的に描写できている所。
水、土、風の順で移住してきたこの街は、先住したエレメントたちが暮らしやすいよう、社会インフラが特化。
都市構造は極めて複雑で、多大なコストがかかるのに、
何で多様なエレメントが共存する必要があるのだろう?と目まいがする程。
そこに最後発でやってきた火のエレメントが割って入るのは中々難しい。
必然、押しやられるように他のエレメントが捨てた街区に住み着き、火の街は半ばスラム化。
先住エレメントたちが取り仕切る行政の目も行き届かない。
マイノリティの側も、マジョリティの側も無自覚のうちに壁を作ってしまう。
特段、差別主義者や分離主義者じゃなくとも、火のエレメントは火だけでまとまって互いにあまり関わらない方が良いよねとなる。
個々人の意識ではどうにもできない歴史、社会構造から来る分断が見事に表現されています。
私はしばしば、一部の無思慮なリベラルが、多様性は今や時代の空気なんだから保守は従えとマウント取っている光景を見て不快な気持ちになりますが、
多エレメント都市の現状と課題について、思慮を重ね忌憚なく表現された本作は、
多様性の押しつけ感がなく傾聴する気になれます。
その上で展開される火のエレメント・エンバーと水のエレメント・ウェイド、禁断の恋物語。
火のエンバーは、家業の雑貨店で接客する中で、しばしば癇癪(かんしゃく)の爆発を起こすため、
深呼吸して怒りをやり過ごすアンガーマネジメントを試みる。
ですが水のウェイドはそれを聞き、癇癪は自分の心の叫びを伝えようとしているんだとアドバイス。
それを聞いた火のエンバーが自身の心の声と向き合うことで、
{netabare} 爆発的な火力を生かしたガラス職人(水エレメントの建造物はガラス製で需要大){/netabare} という思わぬ道が開けていく。
自分のことこそ自分では分からない。
自分の才能は時に視点の異なる他者との出会いにより発見される。
異なるエレメント間で放たれる可能性の“化学反応”
多大なコストを払ってまで多様性を実現するエレメント・シティの面目躍如。
マイノリティじゃなくても、面倒な他者との交流に尻込みしがちな多くの人間の背中を押す、
普遍的なメッセージ性が本作の真価。
シナリオ転換を{netabare} 水エレメントの主要交通手段である運河からの水漏れ{/netabare} ばかりに頼ったのはやや単調に感じたものの、
幅広い層にオススメできる好エピソードだと思います。
【作画 5.0点】
製作・ディズニー&ピクサーによるCGアニメーション
豪華。
目がくらむ程、手間がかかりそうな映像を実感すること自体が、
多様性都市の課題と可能性を示唆する。
水、土、風、火のエレメントにより構築されたキャラクターは、
ゆらめく炎や、光を乱反射する水泡など、常時、莫大なエフェクト量を消費。
例えるなら異世界ファンタジーアニメの大火力魔法レベルの演出を、
常時全カットで施し続けている状態。
並のスタジオなら忌避する高カロリー映像を巨大戦力で実現して押し切った感じ。
土から出た葉は火に触れると燃えてしまうため、火は{netabare} 植物園{/netabare} などの特定施設から“火気厳禁”と締め出される差別を受ける。
水エレメントの潤いを保つため公共交通機関に整備された溢れ出る程の大量の水は、火エレメントにとっては公害でしかない。
エレメント共存の困難性を、終始、魔法みたいな映像美で楽しみながら直感的に理解できてしまうのは見事としか言い様がありません。
属性魔法みたいな分かりやすさに油断した虚を付いたカットが本作の見せ場。
{netabare} 火のエンバーと水のウェイドが初めて触れ合い抱き合うシーン。
水で消される火が結ばれる訳がないと作中エレメントたちも鑑賞者も決め付けていたが、
実は誰も試していなかっただけ。{/netabare}
目から鱗の“化学反応”が心に残りました。
【キャラ 4.0点】
多種族間にまつわる諸々を属性エレメントでデフォルメし記号化したキャラ造形。
従来こうした志向のキャラ作りにおいてはアニマル化が有効かつ良作多数でしたが、
本作のエレメント間交流による“化学反応”は関係性表現という点でアニマルキャラにもない新境地を開拓。
火のエンバーの両親。
本作は父親のバーニーがエレメント・シティに火のコミュニティーを確立する一代記でもある。
人は何にでもなれる!縛られなくたっていい自由だ!と一方的に主張するだけでなく、
火の伝統を娘エンバーに継承したいとの親心もちゃんと汲んでいる点も本作の懐の深い所。
バーニーもまた移住の際、{netabare} 地元の白い目に曝されながら旅立っている。
その寂しさを知った上で見るラストのエンバーと互いに地に伏して認め合う儀礼。
心が温かくなりました。{/netabare}
一方の母親・シンダーは地域によくいる仲人おばさん。
匂いで恋心を感知する恐るべき異能?で恋愛好奇心の火を煽る燃料に。
あとは何度、花を火に燃やされてもアタックし続ける土エレメントの少年クロッドの恋が実ることをお祈り致しております。
【声優 4.0点】
※日本語吹替版を鑑賞。
吹替声優には火のエンバー役・川口 春奈さん、水のウェイド役・玉森 裕太さん(Kis-My-Ft2)をオーディション選出。
すぐにカッカして爆発するエンバーに、ちょっとしたことで号泣するウェイドと、
感情表現も激しい役どころ。
メイン2人からは声優初挑戦とは思えない程のボイス表現を引き出せていたと思います。
この吹替スタッフ陣には、俳優タレントの才能をどうやって発揮させれば棒読みを防げるのか秘訣を是非教えて頂きたいですね。
オーディションの段階から俳優タレントの名前や顔じゃなくてボイス素材を重視していることは、
土の堅物お役人エレメント・ファーン役の伊達 みきおさん(サンドウィッチマン)の意外性でも伺えますし。
また川口 春奈さんが吹替収録後はいつもクタクタだったと証言されている点から、
ディレクションには妥協しない収録風景は想像できます。
【音楽 4.0点】
劇伴担当はトーマス・ニューマン氏。
民族音楽からエレクトロポップまで幅広くアレンジし、エレメントのるつぼを好表現。
同氏も共同制作で参加したED主題歌・ラウブ「Steal The Show」も、
軽快な民族音楽風の打楽器など、上記のアレンジを取り込んで、
エンバーとウェイドの関係を歌った良作ラブソング。
日本版エンドソングとして起用されたのが2009年のヒット曲・Superfly「やさしい気持ちで」
“あなたがいて わたしになる 幸せにはきっと ひとりきりじゃたどり着けない”
別に本作主題歌を狙ったわけじゃないのに、ジャストミートする歌詞。
何気にそこが一番驚いた“化学反応”