「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない(アニメ映画)」

総合得点
88.1
感想・評価
569
棚に入れた
2971
ランキング
132
★★★★★ 4.1 (569)
物語
4.2
作画
4.1
声優
4.2
音楽
3.9
キャラ
4.2

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ネタバレ

なばてあ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

パターン認識のズグラッフィート

原作は未読。

『バニーガール先輩』は元ネタの匂わせがキツすぎて酷評にちかい感想文をあげてしまった。それをふまえつつ『ゆめみる少女』について、感想をまとめてみたい。とはいえ、ここにきて意外なことに、匂わせる元ネタがさらに増えたのがビックリした。わたし以外ももちろん指摘しているだろう。そう、言わずと知れた『{netabare}Angel Beats!{/netabare}』である。

『バニーガール先輩』のあからさまさに度肝を抜かれたわたしではあったのに、ここにきてさらに抜かれる度肝が残っていたことに感動すら覚える。もちろん「パクリ」とか「オマージュ」とか「影響」とか「パロディ」とか、そんなことはどうでもよくて、作品単体で見たときの「感動」を大事にしたいと主張する人びとがたくさんいるのはすごくわかる。でも、コトはそんなナイーブでシンプルなわけにはいかない。

余談だけど、「コトがそんなナイーブでシンプルなわけにはいかない」ことこそが、「青ブタ」シリーズのテーマだよね、物語的に。まあこれは余談。

「パクリ」問題だけれど、やっぱり「パターン認識」はオートマティックに走るということがいちばんのネック。気になってしまうと、作品に対して無意識のうちに距離をとってしまって、以降、冷めた目でしか見られなくなる状況に陥る。商業アニメであるなら、見るヒトの満足度は一定レベル担保するのが必要だろう。その意味で、少なくないボリュームの視聴者を冷めさせるのは、作者の怠慢といっていい。

・・・・・・と、こんなふうに『バニーガール先輩』と似たような感想に落ち着くと思っていたのだ。ただ、本作を三回通しで見て、すこし考え方がかわってきたので、以下、まじめに(いや、いままでもおおまじめではあったけれど)。

まず、本作のストーリーの密度は、尋常じゃないくらい高い。相変わらず要素はすべて借りもののパクリでしかない。オリジナリティは欠片もない。それにもかかわらず、『バニーガール先輩』とくらべてあきらかに本作のプロットの組み合わせと全体のストーリー展開は、完成度が抜群に高い。この完成度には、SF的世界観や設定は含まれない。そっちはガバ。ではなく、プロットとストーリーのこと。

「組み合わせ」というキーワードが頭をよぎるのはもう、パターン認識のアウトプットなので逃れようもない。「{netabare}涼宮ハルヒ{/netabare}」シリーズや「{netabare}物語{/netabare}」シリーズから抽出した要素やストーリー内ユニットを大量に持ち込み、それを再構成して「組み合わせ」て、ひとつのエンターテインメント作品に昇華する。

言い方をかえると、ゼロから登場人物に演技させるのではなく、過去作の要素を組み合わせたタイトロープのうえで、登場人物たちに曲芸をしいるということである。まさに曲芸。息を呑む。目を見張る。「上手いなあ」と思う。それは『バニーガール先輩』のときにもそう思ったけど、本作の「上手いなあ」は、ほんとうのほんとうに「上手いなあ」、である。よくぞここまで、アクロバチックな行為を突き詰めたものだと拍手せざるをえない。

オリジナルとコピーの関係で、後者より前者のほうが出来がいいとはかぎらない、のは言うまでも無い。ただ、本作にかぎれば、あきらかにオリジナルのほうが出来がいい。物語として豊かである。つまり{netabare}「阿良々木暦と戦場ヶ原ひたぎ、阿良々木暦と羽川翼」の関係と「梓川咲太と桜島麻衣、梓川咲太と牧之原翔子」の関係を比べたときに、どちらのほうが「文学的含蓄≒心理的屈託と綾」が豊かに表わされているかといえば、もう比べようもないほどに、後者より前者のほうなのは歴然。これ以上ないほどに、歴然としている{/netabare}。

「両者はそれぞれちがって、どちらもよい」的なミツヲ的結論に落ち着けられない。何度も繰り返すが、このケースに限っていえば、パターン認識が、人間にそれを許さない。それくらいいろいろ似すぎている。だからこそ、優劣がはっきりと浮き彫りになる。けれども、それにもかかわらず、コピーであってもそれなりの価値はきちんとあると、素直に(「素直」とは?)認められたわたしだった。曲芸のすさまじさを目の当たりにして、作者に「がんばりました」って言ってあげたくなった。

過去作由来のさまざまな要素とプロットが、要領よくスマートに配列されているのが本作であり、その配列がスマートすぎるがゆえに、「記号的」な物語と感じるのはかわらない。ぜんぶが認識上で割り切れて、余剰がなさすぎる。「残りのもの」がまったく残らない。いちいちすべてがすんなり理解できる。それが物足りないというのはありつつも、あからさまにパクりを匂わせるというスタイル自体は承認しづらいけれど、でも、あからさまにパクりを匂わせることを徹底的に突き詰めてパロディとして昇華しきったことで、別様の説得力が備わったのが本作だと思う。

本作の原作シリーズにおけるポジションは、「{netabare}涼宮ハルヒ{/netabare}」シリーズにおける『{netabare}涼宮ハルヒの消失{/netabare}』的なそれなのだろう。

余談の余談だけれど、劇中、わたしが一番感動したのは{netabare}古賀萌絵{/netabare}との邂逅だった。もちろん、彼女の立ち位置は「{netabare}物語{/netabare}」シリーズにおける{netabare}八九寺真宵{/netabare}である。そして前者より後者のほうが、やっぱり魅力的である。にもかかわらず、{netabare}古賀萌絵{/netabare}との邂逅シーンは、すなおに涙がこぼれた。この瞬間は、わたしのパターン認識が遅れていたと思う。どうしてここにその「速度」が発生したのかは、自分でもうすこし考えてみたい。

衝撃:★
独創:☆
洗練:★★☆
機微:★★★★
余韻:★☆

投稿 : 2023/09/04
閲覧 : 132
サンキュー:

5

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