レトスぺマン さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 3.0
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
所々に毒を感じるのがこの作品の良さだね
長文かつネタバレ多めであるため本文はネタバレタグで隠します。
{netabare}
本作はWOWOWアニメでもトップクラスの有名作品であり、また、00年代前半のオタク界隈における流行が直に見えるものでもある。それはI'veサウンドやラブコメといったところからギャルゲーをイメージしたものと捉えることができるかもしれない。しかし、本作が当時のラブコメアニメと比較して売り上げの面で大きく引き離しているのは、それだけ本作に魅力を感じる面が多いからではないか。
つまり、従来のラブコメアニメと比較して何が違うのか、あるいはストーリーにおいてそれとの差が何かを調べることで本作の価値を少しだけでも知ることができるのではないかと思える。このレビューではそれについて考えてみたい。
まず、ラブコメアニメが何のために作られているのかということを考えたときに、やはり「魅力的だと思える女性との疑似恋愛をするための目的」が最優先事項となるだろう。つまり、このレビューを書いている私のように女性からモテないだとか、恋愛経験が少ない人向けに作られている節が大きいわけだ。
しかし、物語としての疑似恋愛が行われる際にもう一つ別の形での展開がある。それは上記とは逆の「恋愛経験が豊富な人向けに作られる」物語のことである。これはアニメよりも成熟した大人や一般層に向けたドラマや漫画などで扱われることが多い。
まず、【ある程度成熟した大人や一般層への指向】と本作がどのように関係するか着目してみよう。
第一に、オタク向けの恋愛アニメは、男1人に対して沢山の女性が群がるだとか、ある特定のカップルだけがクローズアップされ、極めて閉じた物語が展開されやすい傾向が強い。しかし一般向けとして売り出されている有名な恋愛ドラマなどでは、それらとは逆でキャラクターの男女比がだいたい同じくらいであり、そこで様々なカップルが生まれていく様子を伺うことができる。本作ではどうなのか見ていくと、もちろん桂×宇宙人であるみずほ先生のカップルがメインではあるが、山田先生×小石、漂介×楓、叔父さん夫妻、果てまてはマスコットキャラクター的な存在でもあるまりえ×みるるというところにまでもその様子が見て取れる。
そしてここが本作の醍醐味と呼べる部分なのだが、それら複数のカップルを別個として扱うのではなく、連鎖反応のようなものを起こしていくことでドラマを生み出していく流れを扱っているわけだ。それは、カップル同士で展開される理想的な一面を別のカップルが取り入れて、順調に進展する様もそうなのだが、肉体関係を持ってしまったことによる失敗や、とある理由から偽装恋愛をすることになるという結構毒のある昼ドラ的物語も展開されるのである。
しかし、恋愛というものはやはり一長一短なものであり、綺麗な要素と苦難災難の両方があるからこそ映える部分があるわけだ。
それは過ちをおかしたとしても、その過ちをしっかり正すことでその先の展望が見えてくるものであって、それを見た別のカップルが感化されて成長していくという物語を見たときに、視聴者自身が「あ~そういえば昔こんなこともあったなぁ」といった思いに浸れたり、理想の恋愛関係像が改めて見つけられることにもつながる。
それは視聴者自身にとっての過去の思い出を想起させることと同義であるからこそ、心に素晴らしい潤いを齎すものへと変化していくわけだ。
また本作は本来の【オタク向けアニメ】としての親切さもしっかり残している。ここに関してはそれぞれのカップルに対して感情移入するものではなく、「第三者的な目線」と「ある種のサービス」的な部分があるということである。
まず、男キャラの跨は本作に出てくるキャラクターの中では最も中立的で性格もまともではあるが、誰とも結びつかなかった点は自分のようなモテない男からすれば最も近い存在に思えたところでもあった。次に女性キャラの苺だが、主人公と同じ「停滞」と呼ばれる病気を抱えていることで、序盤はかなりの危うさを感じるものだった。しかし、友人である小石や楓を優しく後押しし、かつ不器用ながらも本作における人間関係を正しい方向へと必死に導くキャラクターである面が強調されると、個人的には鰻登りで好感度が上がったキャラクターでもあったわけで、この2キャラに関しては誰とも結びつかないからこその「共感」を提供してくれる役割があった。
そしてみずほ先生の姉と妹である、はつほ&まほペアも年上好きやロリ好きの要望にそのままそっくり応えるキャラクターということもあり、ギスギスした展開における清涼剤の役割があったように思える。
つまり本作最大の特徴とは、【オタク向けアニメ】と【ある程度成熟した大人や一般層への指向】という両面からのアプローチが行われていることであり、それこそが従来のラブコメアニメとの明確な差であることがわかる。そして、こういった物語にさらなるエッセンスを添えているのが本作のキーとなる「停滞」病だ。本作での「停滞」とは、ストレスにより一時的な昏睡状態に陥ってしまう病気のことである。
これについて、現実的に見れば精神的に意識を失うほどの病気というものはごく少数なのだが、心の奥底にあるトラウマが刺激されたときにそのショックから【小さく死んでしまうこと】は人間の本能のようなもので、それを病状として大きく見せているというところなのだと思う。
桂に関して言えば、停滞の病気に陥ってしまった要因は自身の姉が精神病により自殺してしまったことだったが、桂自身とみずほ先生の力によってそれを乗り越えることに成功するわけだ。しかし、宇宙人の規定によりみずほ先生は地球を去らなければならなくなり、自身の姉を失った上に、最愛の人さえも失いそうになるという展開をドカン!と持ってくることでそれはさらなるドラマを生み出す。
そしてその先にあるハッピーエンドで二人の愛情が本物であったことがわかる流れは実に舌を巻く展開であったが、この「停滞」病の存在こそが二人を強く結びつけるものであったわけだ。むしろ恋愛のフェーズの上に存在するなにかしらの「生き方」のようなものすら示しているような気がして、そういった物語を2002年という早い時期に展開したことは改めて評価されてもいいと思うし、実写で展開されやすい恋愛ドラマをアニメで再現した作品の嚆矢だからこそ惹かれる人も多かったのだと思える。
宇宙人とのやり取りなど、全部が全部現実的な要素で組まれていないため、少々粗のようなものを感じることもあるかもしれないが、オタク向け+ドラマで展開されやすい流れを含んだアニメの初期作を見たいという方には改めておすすめしたい作品である。
{/netabare}