Witch さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
高校生らしい「小さいながらもそれが世界の全て」が上手く切り取られている
【レビューNo.80】(初回登録:2023/9/3)
オリジナルアニメ映画で2021年作品。40分程度。
交流ある蒼い星さんがレビューをアップされたのを見て、そういや視聴したい
思いつつもずっと放置してたなと。
出来れば夏が終わるまでに視聴したいなと思い立ったので、夏休みの宿題感覚
で視聴&レビューに挑戦しようかと。
(ストーリー)
高校生の杉崎友也、春川あおい、小林涼の3人は、インターネットを通じて知り
合い、ある場所で花火をすると現れると噂される若い女性の幽霊(サマーゴー
スト)に会いに行こうと思い立つ。
目的の場所で花火を始めると、噂通り佐藤絢音の幽霊が現れる。
そして彼女はいった。「私が見えるのは『死に触れようとしている人だけ』」
そう、3人はそれぞれに悩みを抱えており「死」について考えていたのだった。
(評 価)
・イラストレーターらしい「絵になる」作画
・本作はイラストレーターのloundrawさんの初監督作品になります。
公式サイトより
「思っていた以上に器用に生きられなくて、でも、孤独を楽しめるほど強く
もなくて。期待に応えようとするほどに、自分が自分でなくなっていく。
そんな自分を、どうにかつなぎ止めたくて描いた落書き。
映画『サマーゴースト』は、そんな一枚のイラストから生まれた物語です。」
ということで、「Summer Ghost」の絵を投稿したことが制作の切っ掛けに
なっているようです。
本作以外にもアニメCM作品等の世界観や綺麗な作画などが評価され、世間
では「ポスト新海誠」の呼び声も高いそうですね。
・で、本作ですが作画の綺麗さもありますが、場面が切り替わるカットの頭
やここぞというシーンの作画が、まるで「完成されたイラスト」を見せら
れたような少し不思議な感覚を覚えます。
独自の色使い(塗り)や構図等文字通り「絵になる」という表現がピタリ
とハマるような。
この辺りはやはり優れたイラストレーターさんなのかなっと。
・高校生らしい「小さいながらもそれが世界の全て」が上手く切り取られている
・絢音の言葉「私が見えるのは『死に触れようとしている人だけ』」にあるよ
うに、この作品でテーマとなっているのは「死生観」です。
3人のそれぞれの悩みですが
{netabare}●友也
受験を控え、先生や親から優等生でいることを強いられている今の生活に
息苦しさを感じている。どこか生きてる実感が持てない。
●あおい
スクールカーストによるいじめ。自分にはどこにも居場所がないと感じて
いる。
●涼
病による余命宣告。未来が閉ざされたことに諦観の念を抱いている。{/netabare}
それゆえに死について考えたりするわけですが、個人的にはその前段の
「高校生らしい小さな世界」
を上手く切り取っているなと感じました。
{netabare}・大人になってから分かることですが、「高校生が知っている世界」って実は
視野が狭く意外とちっぽけだったなと感じることはないでしょうか。
例えばあおいのいじめの問題ですが、大人なら逃げてもいいとか、学校以外
の居場所だってあると分かりますが、今の彼女には「(他の世界を知らない
から)学校だけが世界の全て」な訳です。
だからいじめに耐えながらもそこにしがみつくか、「死」という形でこの世
界を終わらせるかの2択になるわけで。
友也の問題も本当はいくつもの選択肢があるはずですが、今の彼には「学校
と家庭」しか知らない「小さな世界が彼の全て」ですから、息苦しさを感じ
ずにはいられない。
涼に至っては、「これから世界が広がる可能性」を知ることもなく終わって
しまうという・・・
・(当時の自分を振り返ると分かると思いますが)そういう高校生らしい
「(まだ知らないがゆえに)小さいながらもそれが世界の全て」
を上手く切り取っており、その世界観の上で巧みにそれぞれの「死生観」を
展開してるなという印象ですね。
・そしてそんな「閉塞感のある小さい世界」からの解放を感じさせてくれるの
は、この作品の見どころ「幽体離脱」なのかなっと。
これをセットで魅せる辺りにも非凡なセンスを感じますね。{/netabare}
40分という短編映画ということもあり、セリフやキャラの掘り下げ等も最小限に
留めていますが、
・冒頭の3人の「久しぶりだね」からの花火シーンから始まり
・「花火×サマーゴースト」というひと夏の物語として
・それぞれの抱える悩み(「閉塞感のある小さい世界」)→「死生観」へと繋ぎ
・その「閉塞感のある小さい世界」からの解放 →それぞれが進む道を描き
・冒頭のシーンの伏線回収で物語を締める
テーマ性もしっかりしており、これを「完成されたイラスト」めいた作画で魅せ
るという、かなりレベルの高い作品だと思います。
物語のテンポはいいですし。
ただ個人的にはテーマがちょっと合わなかったかなあっと。
それにドラマやエンタメ性にちと欠ける感もありますし。
その辺りは脚本を務めた 安達寛高=乙一が後日発表した「花火と幽霊」をモチ
ーフにした姉妹作「一ノ瀬ユウナが浮いている」を先に読んじゃった影響が大き
いのかも。個人的には断然こっちなんで、それでバイアスがかかってるところも
多々あると思います。
しかし客観的にみれば上述のようによくできた作品だったかなっと。
最後に重い腰を上げるきっかけを頂いた蒼い星さんに、アザ━━(*゚∀゚*)ゞ━━ス!!、
(おまけ)
乙一について等少しあれこれw
{netabare}・本作を視聴して頭に浮かんだのは、彼のデビュー作「夏と花火と私の死体」。
タイトルからして本作を連想させてくれる。内容はホラー作品ですがw
ただ「誤って殺してしまった死体を隠蔽」というのは、佐藤絢音の境遇その
もので、この辺りは乙一の引き出しなのかなっと(黒乙一)。
・冒頭のシーンの伏線回収はどちらのアイデアだろうか?この辺は(白乙一)
っぽいかな。でもこのシーン矛盾があるような・・・
{netabare}→ サマーゴーストが見える条件「死に触れようとしている人だけ」
サマーゴーストとなった涼に逢うためには2人は・・・って話で、前向き
に生きるようになった2人は涼には逢えないのでは?!
まあ野暮なツッコミですがw{/netabare}
・姉妹作「一ノ瀬ユウナが浮いている」は切ない「ピュアラブストーリー」。
ネトフリとかでアニメ化してくれないかなと思いつつも、どうも実写化向きな
気がするな。{/netabare}