蒼い✨️ さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
柔道愛から生まれた柔道漫画が原作の柔道アニメ。
【概要】
アニメーション制作:BAKKEN RECORD(タツノコプロ)
2023年1月9日 - 4月3日に放映された、全13話のTVアニメ。
原作は、『週刊少年チャンピオン』で連載されていて、
同じく秋田書店のwebサイトの『マンガクロス』に移籍した漫画作品。
著者は、村岡ユウ。
監督は、荻原健。
【あらすじ】
埼玉県の中学3年生の園田未知は親友の滝川早苗とともにふたりで、
自分たちが引退したら部員ゼロで休部になる青葉中学柔道部の部員として、
中学最後の大会に臨んでいた。
3対3の団体戦で人数不足で先鋒が不戦敗。中堅の早苗が一本負けを喫し、
チームとしての敗北が決定、人生最後の柔道の試合を一本勝ちで締めくくろうとした未知。
だが、見たことのない相手の選手がやたら強く、未知は善戦したが、
絞め技が完全に極まりギブアップを拒み失神しての一本負け。
練習はしんどいし頑張っても気持ちよく勝てないし、彼氏できないし、
これで柔道は卒業だと受験勉強に専念する彼女たち。
もとから優等生の早苗にしごかれた未知は、やたら絡んでくる南雲安奈とともに、
9ヶ月後には偏差値が高い青葉西高校に進学。
しんどい部活なんてやらずに彼氏作って高校3年間を遊び倒す予定の未知だったが、
未知を是非とも剣道部に勧誘したい安奈に誘導されて高校の武道場に着いた、
未知と早苗は、中学最後の試合で未知を絞め落とした氷浦永遠と再会。
部員ゼロで部活停止状態の青葉西高柔道部。武道場は剣道部専用になるところを、
3人いれば部活ができると主張する永遠。
未知たちと一緒に柔道をしたくて青葉西に入った永遠と、
小学校の時からずっと未知に好意を持っている安奈による、未知の奪い合い。
早苗に足を引っ掛けられて安奈がバランスを崩して未知の手を離してしまい、
永遠が未知を引っ張る柔道の組み手の形になってしまい、
条件反射で永遠に気持ちよく一本背負いを決めてしまった未知。
柔道の気持ちよさを思い出した未知に、もう一回柔道やろうと誘う早苗。
未知に剣道をさせることを全く諦めてない安奈をよそに、
未知・早苗・永遠の3人の新入生と顧問の夏目紫乃先生で、
青西柔道部の部活動が再開するのだった。
【感想】
武道の理想を高校部活動を通して描いている原作の女子柔道漫画は、
村岡ユウ先生の初のヒット作との認識でいいのかな?
高校時代にエグいイジメを受けてた男が28歳のときに、
自分をいじめてた相手がボクシングのチャンピオンになってるのを知って、
倒してカツアゲされた数万円を取り戻すためにボクシングを始めたという内容の漫画で、
いじめてた男が人気者の王者になっていて、噛みつこうとする主人公が狭量であるとして、
肯定的に描かれずにすっきりしない終わり方をしていた。
柔道部の太眉で小さくて弱くてカッコ悪いキャプテンが、
転校生のイケメン(性格もイケメンの黒帯)が片思いの娘を彼女にしようとしてるのに、
ムカついて柔道で負かそうとするけど完敗を喫してリベンジに燃える話。
などなど恵まれない男のリア充への憤りみたいな作風で、
歯が折れたり失禁したりで暑苦しくて汗臭い漫画を描いては打ち切りが多かったのですが、
それが後年になるほど、汗臭いが暑苦しくはない作風に変化していきました。
自分が描きたいものと読者に配慮した作品づくりの落とし所を見つけるのに、
時間がかかったという感じです。
同じく週刊少年チャンピオンで連載していた男子柔道漫画「ウチコミ!!」も、
暑苦しさが抜けていて見やすく、楽しみに読んでいたのですが7巻で打ち切りエンド。
チャンピオンは一部のベテラン漫画家先生以外は直ぐに連載を切るイメージですね。
そして、軽めの女子柔道4コマ萌え漫画(全1巻)の「やわらか」を挟んで始めた、
「もういっぽん!」が23年7月時点で24巻まで続いていての今までにない連載の長さ。
青葉西高校柔道部の総決算と言える、未知たちが3年生になっての高校最後の、
金鷲旗高校柔道大会が原作で現在進行中です。
中学、高校と柔道部に励んできて自身が黒帯でもある原作者のライフワークである、
何度編集部に断られても打ち切られても柔道漫画を続けてきた。
今までの創作活動が実って連載が5年間続いて、アニメ化されたのは良かったと言えるでしょうね。
それが、このアニメに対するAmazonでの批判的レビューで、
『なぜこのアニメが評価されているのか意味がわからない!作者は柔道への理解が足りない!』
みたいな意味不明なのがあって、アニメ作品にいろんな感想があって然るべきにしても、
批判者本人としてはうまいこと批判したつもりが、
作品のバックグラウンドを知ってしまうと的はずれな思い込みだと感じてしまいます。
柔道経験者である柔道好きの作者が伝えたい柔道の楽しさ、
努力していくら頑張っても必ずしも報われると限らないながらも、
敗北もまた心身ともに成長の糧になる。
ダメなスポーツ作品と違ってライバルもまた主人公たちに負けじと努力と成長を続けているので、
未知たちも散々練習して着実に実力をつけていってるのですが、しょっちゅう負けてばかりです。
原作で未知たちが3年生時点で全国の強豪に引けを取らないチームに成長しても、
県内最強チームだとは言えないのは、主人公チームの強さのみがインフレして、
周りを置いてけぼりにすることがよくある高校の体育会系の部活ものとしてはかえって斬新。
この作品での埼玉県の高校女子柔道部は強豪校揃いでして、
現実の高校野球での大阪や神奈川などの激戦区状態を勝ち抜くのが至難でして、
全国上位レベルの強さのチームがインターハイ予選で消える、決して甘くはない環境。
その点では、1年生だらけのチームが半年で地元・静岡の高校をゴボウ抜きして、次の年には、
全国常連の名門ライバル高も噛ませ犬にしてしまった河合克敏先生の「帯をギュッとね!」より、
実力のバランスとしては絶妙。「柔道の父」と呼ばれる嘉納治五郎氏の柔道の理念である、
『精力善用』『相助相譲』『自他共栄』の精神が作品のテーマで勝つことだけが全てではない。
柔道が好きで強くなりたい高校女子柔道選手たちのひたむきな姿、
ライバル関係から生まれるリスペクト精神・交流・絆が爽やかな作品として機能している。
女子っぽさのキャラ付けを作者をしようとしてますが、
この作品は本質的には少年漫画の王道を行っていまして、
私自身が原作漫画に対しては名作レベルに近い内容だと思っています。
アニメとしては、原作7巻までの展開をきちんとやっているのですが、
作画の力では原作と比較してキャラクターの表情が弱いと思いました。
(アニメの2話で未知に寝技をかけてるときの早苗の泣き顔を比較すればよく分かる)
原作の魅力として、丹念に描かれた道着のシワであるとか、道着の上からでもわかる、
リアルな太い体型の柔道女子の試合写真みたいな作画力。
アニメの作画は漫画より線を減らして動きやすくするのがどの作品でも鉄則ですので、
原作そのままの再現が難しいですね。日常シーンでは省略的な演出で作画カロリーを減らして、
その分を作画が難しい試合シーンに注力。スポーツアニメを本気で作ろうとしたら、
試合の映像を資料として徹底研究して映像で再現するためには、
本当にアニメーターの負担が大きいのですが、
やりたいことのために制作をコントロールできるのは有能な現場。
アニメの最終回の永遠vsエマ戦の他の試合を上回る頂上決戦的な映像が、本当に見応えがあった。
特に、フランスからの柔道留学生のエマ・デュランの圧倒的強者感が動きで表現されていたことから、
もっと予算と制作期間があれば、もっと細部の作り込みが多くの場面で出来て、
現状よりブラッシュアップされた名作アニメになれたのが惜しいかなと思いました。
本当に素晴らしい原作ですので、アニメを面白いと思った方は、
「マンガクロス」で検索して原作漫画も読んでください。お願いします。
ちなみに、私が好きなキャラは姫野先輩の妹の姫野梢(姫コ)でして、
作中比では美少女ではあるのですが、
体格に恵まれずに実力者でも天才でもない彼女がコンプレックスを感じながら、
未知たちに引っ張られるように諦めずに練習して成長していく姿に読み応えがあるのですが、
アニメで下級生の姫コとツカちゃんの試合をするには3期まで進まないと厳しくて、
続きもアニメ化して欲しいのですが、それが難しそうで残念に思いました。
あと、続きやらないと神童・南雲安奈が剣道部から柔道部に転部しただけで終わってしまいますしね。
(ちなみに安奈は転部後ものちに剣道に戻るのを前提に家では父親と剣道の稽古を続けています)
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。