キャポックちゃん さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
寓話的な秀作(第8話までは)
【総合評価☆☆☆☆】
遠い未来の地球。アンドロイドと機械生命体が、支配者としての地位を賭して争いを繰り広げている。ただし、科学技術の裏付けがあるハードSFではない。きわめて寓話性が強く、その点を理解しないと、リアリティのないキャラ設定に不満を募らせてしまうだろう。
ストーリーの上では、侵略者であるエイリアンの作った機械生命体と、人類脱出後に地球に残されたアンドロイドが戦っているという設定だが、それにしては、絵柄が奇妙である。機械生命体は、まるで中身が空っぽのブリキ製ポンコツロボットのよう。動作はぎこちなく、話す内容も幼稚だ。侵略の手兵としては、役立たずとしか思えない。一方、アンドロイドは異様なほど人間そっくりで、きわめて高度な技術に裏打ちされているにもかかわらず、戦闘能力は低い。ヨルハ部隊の隊員は、どう見ても、場違いのゴシックファッションに身を包んだ美少女と美少年そのものである。
これは、寓話の描き方である。リアルな戦闘シーンを期待すると、肩すかしを食らわされるだろう。
機械生命体は、外見が単なる機械なのに、ネットを介して集合すると個体にはない知性を形成する。対するアンドロイドは、人間に似た心性を持つが(あるいは、持つからこそ)、協力体制に欠け内部対立が絶えない。集合的知性として文明を勃興させつつある機械生命体と、内面は人間並みに豊かなのに社会活動が停滞しているアンドロイドという対立軸が、物語の根幹となる。
ただし、コミュニケーション能力に関しては、ネットを使って一瞬のうちに同期できる機械生命体が、音声会話と単線的通信に頼るアンドロイドを圧倒するように見えながら、通信ハブを破壊されると一気に優位性が逆転する。このように、両者の対立・闘争は、現実のさまざまな状況を象徴して入り組んでおり、作品世界内部で完結していない。
SFの中には、(H.G.ウェルズ『モロー博士の島』のように)寓話的な作品が少なくない。随所に科学的なジャルゴンを振りまくことで擬似リアリズムを装いながら、実は、強い象徴性を持つイメージを通じてさまざまな連想を生み出し、表面的なストーリーよりも遙かに多くの内実を語りかけてくる。鑑賞者は、リアリティの欠如に憤慨せずに、言外に示される事件の深層を読み解かなければならない。
本アニメで私が好きなのは第7~8話の展開で、二人のヨルハ隊員による探索行を通じて、背後にある事情が少しずつ明らかになってくる。あえて謎を残していくミステリアスな語り口は、単なるバトルものを超えた深みがあり、惹き付けられた。特に、二人が海に足を踏み入れつつ、姿を見せない人類に思いを馳せるシーンでは、口に出せない悲哀がひしひしと胸に迫る。
残念ながら、この後、コロナ禍による制作トラブルのせいか4ヶ月の中断がはさまれ、放送再開後の第9~12話では、アニメーターのテンションがかなり下がった気がする。特に、第10~11話は大味なバトルシーンが中心となり、プロモーションのために表面的な派手さが要求された第1話と同じく、内容が薄い。第12話終了後に第2期制作が発表されたが、果たして第1期途中までの水準を取り戻せるかどうか。
OPとEDの曲は、ともに私好みである。最近は、本編の内容とは無関係に人気アーティストの楽曲を採用するアニメが多い中で、この2曲は作品の雰囲気にしっくり馴染んでいる。ちなみに、ED曲のタイトルである「アンチノミー」とは「二律背反」のことで、人間は理性で解決できない根本的難問に悩まされるというカント哲学の要となる概念である。