なばてあ さんの感想・評価
4.8
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
バロンデッセの靭性とブオンフレスコの屈託
原作は未読。
作画が良い。3分くらい眺めるだけで、CloverWorksだとわかるくらいに特徴的な作画。日常芝居にかぎれば、いま一番魅力的な制作会社ではないだろうか。ちょっとした繋ぎのカット、1秒にも満たない動きであっても、ハッとさせるような瞬間が差し込まれる。
彩色をリッチにした止め絵かのような画面を動かしているのもすごいと思うけど、そっちはまあ、それなりの効果にとどまっている。CloverWorksは彩色よりも動きだと思う。その点で、バリバリトレンドっぽい立ち位置でありながら、古典的なアニメの価値を守っていてすごくかっこいい。
ストーリーは眼を見張るものがある。ほんとうに空っぽ。スッカスカもいいところ。だけど、それがすばらしい。文学的な価値は皆無だけれど、それはアニメの仕事じゃないとばかりに、割り切ったテクストの彫琢は息を呑むような精度である。そしてその精度が、この作品を凡百の「日常系」に埋もれさせなかった。
ストーリーで作った広大なすき間を、すべてフェティシズムで埋めたのがすごい。エロティシズムではなくフェティシズム。アイドル界隈でいうところの「坂道的価値」のみをつかって、12話まるごと充填しきったのがすごい。その思い切り。窃視という行為を確信犯的にフレームアウトすることで、批評性を潔く切り捨てることによって、アニメ史にしっかりと傷跡を残す作品になったと見る。
同時期に同制作会社が手掛けた 『{netabare}その着せ替え人形は恋をする{/netabare}』よりも数段上の仕上がりになっている。あちらは脚本に決定的な瑕疵があったが、それがなくとも、ハンパに文学的価値を絡め手から差し込もうとしていたあちらよりも、あっさりそれを放棄したその思い切りがハマりにハマったこちらの作戦勝ちだと思う。
12話1クールという尺で展開するなら、このくらいの構成がちょうどだと思う。それにしてもあたらしい。坂道的感性がアニメにストレートに持ち込まれた記念碑的作品で、その斬新さでもって、2022年を代表する作品のひとつになったのではないか。告白するなら6話が終わるまで、自分がいったい何を見ているのかまったくわからなかった。それくらい、新しい。
衝撃:★★★★★
独創:★★★☆
洗練:★★
機微:★★☆
余韻:★★