「君たちはどう生きるか(アニメ映画)」

総合得点
69.0
感想・評価
62
棚に入れた
305
ランキング
1933
★★★★☆ 3.6 (62)
物語
3.3
作画
4.3
声優
3.4
音楽
3.8
キャラ
3.4

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ネタバレ

ヲリノコトリ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7
物語 : 3.0 作画 : 5.0 声優 : 3.5 音楽 : 4.5 キャラ : 2.5 状態:観終わった

「君たちはどう生きるかという本があるから読んで涙を流せ!」と宮崎おじいちゃんは言った

{netabare}
戦争時中、母ヒサコを火災で失った聡明な少年、マヒト。軍需工場の経営者である父親のショウイチはヒサコの妹、ナツコと再婚することになり、マヒトは不思議な塔の立つ母方の実家へ疎開することになった。


かなり面白かったです。
ストーリー全体の考察は後で書きますが、この映画で特に良かったのは「作画のこだわり」と「音」でした。次点で「ちりばめられた単品のアイデア」も良かったです。
タイトルからメッセージ性の強い作品かと思っていましたが、頭で考えながら見てもそこまで意味はなく、見ている画面と聞こえる音に集中して、次に起きる出来事に身を任せるのが楽しむコツだと思います。

※ちなみに個人的に最近、岡田俊夫のYouTubeにハマっていたので、岡田俊夫の語る宮崎駿像をイメージして考察してしまっているところがあります。



作画のこだわりはさすがでした。
庭に落ちる火の粉とか、重量に合わせて沈みこむ車とか、写実的なサギの仕草。からの、男の顔を飲み込んでサギに戻る描写。大きな魚の腹を捌いてグニュグニュと飛び出る内臓。
張り付く紙とか積み木とか爆発とか派手なもの以外にも、枚挙にいとまがありません。

さらに環境音が良かったです。DVDになったときにあの風の音とか調理場の低いボーっていう音とか入ってるんでしょうか。私の家のスピーカーはあの音を鳴らしてくれるんでしょうか。映画を久しぶりにみたので感動しすぎだったかもしれませんが、心地いい音でした。



さて、評価が割れてるとのことでしたが、低評価をつけている人は「シーンの意味やつながりを分かりやすく教えてほしい人」か「1つの強力なメッセージ性に収束するストーリーを期待していた人」かなぁと思います。

つまりこの作品はわかりやすい道筋がなく、1つの強力なメッセージに収束しません。つまり、ぶっちゃけストーリーが分かりにくいです。

「攻殻機動隊Ghost in the Shell」みたいなカッコいい不親切さです。ポニョもこの感じでした。ナウシカとかラピュタでやってた親切さを「もういいや」ってしたんだ思います。好きに描くから好きに見てねと(笑)


実は「千と千尋の神隠し」もこのくらい不親切なストーリーでしたが、千尋の場合はバカな子供のまま事故的に物語に巻き込まれて、流されるまま物語が進んでいくので、主人公と視聴者が同じ気持ちで「次になにが起きるんだ!?」と思えていてストーリーがすんなり入りました。
対して今回の主人公マヒトは聡明で、初めてみる不思議な現象に対してほとんどの視聴者より先に順応していて、状況を把握しながら自分の次の行動を決めているので、視聴者が置いていかれる可能性が高いです。

まあ、そういう作品なのでしゃーない。
ビール飲みながら金曜ロードショーで見てたら、私も確実にワケわからなくなってました。
途中でトイレ行ったら100パー置いていかれます(笑)


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さて、思い出しながらストーリーの細かい考察に移ろうと思います。
まず最初に、この映画で宮崎駿監督が伝えたかったことを一言で表すと…

…という風に考察すると、良くないです。この作品は。

この作品は宮崎駿の描きたい無数のアイデアやアニメーションの集合体であり、ストーリーはそれを接着するためのごはんつぶでしかありません。

世界のつながり~とか、義母と息子の~とか、人が生まれるということは~とか、真の悪者などいない~とかいろいろメッセージはありますが、それらは星のようにちりばめられているだけで、全体をまとめて名前をつけることができません。だから製作陣はこの作品にタイトルをつけたり宣伝することを諦めたのかもしれません(深読み)。


ただ私が個人的に、宮崎駿監督から受け取ったメッセージは、「君たちはどう生きるか、という本があるから読め!そして涙を流せ!」ということです。

あの本はあのシーンで「登場しただけ」であり、内容も語られず、ホントに「シーンを無理やり挿入した」ことがバレバレです。あの本は別に「ぐりとぐら」でもいいはずです。
逆に言えばそれだけあのシーンは重要で、少年が涙を流すことが明らかに美徳的に描かれ、なにか心の変化があって少年は義母を助けにいくことを決めています。

よって宮崎駿監督は視聴者に、この本を読んで感動してほしいのではないでしょうか。おそらくこの映画で解決されない疑問はすべて、この本を読めば描いてあるのだと思います。「ひとつに収束する強力なメッセージ性」も、おそらく。

私も……まあ、うん。気が向いたら読むよ宮崎おじいちゃん。そのうち。たぶん。


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さて、本当に一つ一つの考察に移ります。


とりあえず閃いて気持ち良かったのがひとつあるのでそれを書きます。

「我ヲ學ブ者ハ死ス」の墓に入り、キリコに助けられるシーン。キリコの武器はなんであんなものなのかわかりましたか?
短い鞭みたいなもので、先に火がついてました。
別にキリコが持つものは日本刀でも弓でも良かったですよね?
火の残像のアニメーションが描きたかったんだろうというのがひとつですが、キリコがあれを持っているのはなぜか。
もったいぶる意味もないので思い付いたことを書きますと、あれはタバコですよね。棒状で、先に火がついてて、煙の輪っかを作ってますから。

ではなぜあそこでタバコのメタファーを持っているのかって?
キリコがタバコ吸うからですよ。それだけです(笑)あとまあどっかの民族がタバコを魔除けにでも使うんじゃないですかね?しらんけど。

あそこの墓の主は結局謎のままでしたね。もしかしたら君たちはどう生きるかという本(以下、君どう生きる本)に出てくる存在かな?



次に「義母と、聡明だが反抗的な息子らへんの話」をまとめます。
とにかく最初はマヒトがいかに聡明な少年かが示されています。火の粉を見て瞬時に状況を把握し、回りに合わせて行動し、服を着替える冷静さ。

しかし、義母と会うシーンになると毅然と振る舞いながらも絶対に口をきかず、大人から見れば義母を受け入れられていないことはバレバレです。

対して義母の方は「頑張って」います。
後のシーンを踏まえてこの義母に対して「結局は義理の息子を愛せない義母」というレッテルを貼る人が一定数いそうですが、この義母にそのレッテルを貼ってしまったら、世の中のほぼすべての義母がそうなってしまうのでやめた方がいいです。
彼女はすべての義母が当然感じることを感じ、当然すべき行動をしています。
彼女以上を望む人はあまりに無垢過ぎます。

紙のシーンで「大嫌い」と言った言葉を、「つい本音が出た」ととるか「この場から逃がすために強い言葉を使った」ととるか分かれそうですが、私は後者だと思います。
本当に心の底から嫌いなら、紙に絡まって死ぬのをただ見ているべきです。

大嫌いではない。しかし、好ましい存在ではない。しかし好ましくない存在であろうと、蔑ろにしてはならないとわかっている。自分のお腹の息子と対等ではない。対等ではないが、対等に扱うべきであることを分かっている。「悪意」はあるが、現実の行動には一切反映させるつもりはない。自分にはこの子を息子として扱う義務がある。

実は夏子のこの考えが前提で、大伯父と少年の交渉が発生します。
夏子という義母の存在がなければ、マヒトではなくヒミに自分の跡を継がせてしまえばいいからです。有り体に言ってしまえば「夏子がいて現実世界は気まずくてマヒトの居場所はないから、こちらの世界の王になって暮らしてくれ」という交渉です。マヒトにとって「役割と居場所」という明確なメリットを提示した交渉なのです。

しかしマヒトは、7人の小人(婆)の1人の説得で夏子の見舞いに行ったり、君どう生きる本を読んだりしてだんだんと夏子を受け入れることにしたようです。

嫌いだけどそれを言ったらいけない人 → お父さんが好きだから守らないといけない人 → 新しいおかあさんと認識すべき人

とランクアップします。紙のシーンで「夏子おかあさん」と呼んだときには涙が出そうになりました。

でも「母を求める息子」に感動したのではありません。
あの場面で、「夏子おかあさんと呼ぶことによって、義理の親子関係の修復を図るべきだ」と判断した子供の聡明さと健気さに感動したのです。

つまりあのときの「大嫌い」も、「おかあさん」もどちらも本音ではないと私は思います。本音ではないのに言ったから美しいのです。

そして最終的に、マヒトは「義理の息子の自分が行方不明になり、夏子と生まれた子供だけが戻ってくる状況」が父親と夏子の間で火種になる可能性も考慮していたと思います。

マヒトの言った「自分は悪意があるから世界を任せられない」なんていうのは、理由にならないと思うからです。それっぽい理由を言っただけだとおもいます。そもそも大伯父は別に悪意のない清廉潔白な人物ではありません。
悪意の積み木を足してもあの世界はそのようになるだけでしょう。

マヒトは「義理の母とは気まずいが、お互い表面的には仲良くできるし、良い人だということもしっている。家族の調和を考えたときに、気まずくても自分が家族の一員として存在した方がいい」という判断のもと、現実世界に帰ったのだと思います。

そしてラストシーン。マヒトは1人で準備をし、下から呼ばれて出ると、しっかりと義母のそばで大切にされている義理の弟がいる。
扱いはちがう。ちがうが、大切にされていないわけではない。この距離感以上を求めるべきではないし、マヒト自身も望んでいるわけではない。
ハッピーエンドではない。バッドエンドでもない。ただ、現実があるだけ。という終わり方でした。



マヒトの悪意について

自分の頭を石で打つことの唐突さと、でも瞬時に理解できる感じが非常に面白いシーン。

普通男の子は「なんか殴られたけど、俺もやり返して一泡ふかせてやったぜ」というストーリーを持って家に帰るか、もしくは何もなかったことにするのが普通ですが、「相討ちではおおごとにならない。状況を一変させる怪我を負うべきだ」という判断。
さらに、大きな怪我を負いつつその理由を語らないという一連の行動で、自分のメンツを保ちつつ周囲の大人のほうから事の真相に気付くようにしています。

あのシーンはマヒトの聡明さと子供っぽさと悪意をきれいに一撃で表現する良いシーンでした。

・意味もなく気まずい学校にいかなくてすむ
・居住地を変えられる可能性がある
・父と義母の関係悪化の糸口にできる
・おおごとにして今後の攻撃を抑制する
などの狙いがあったと思います。


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ここからは残っている疑問をメモ書きします。思い付いたらまた書くかも。
{netabare}
○サギと動物たちについて

・石の世界について

・インコの交渉とはなに?

・鳩じゃね?

・ヒミはなぜ跡継ぎになれなかった?
マヒトがすでに来ている=生まれるのが確定している=ヒミは外に出ないといけない。
で、マヒトの息子は来ていない。
{/netabare}
{/netabare}

投稿 : 2023/08/19
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サンキュー:

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