ビックカメラ厳選 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
10話まで観た
結成時にリーダー不在、活動開始時に目的の一致を持たないバンドの話。登場人物たちは迷走すべくして迷走する。進むべき道が定まらず、意思決定に責任を持てる者が居なければ事は捗らず結果には結びきようがない。理に適った設定だと思えた。
メンバーはそれぞれ未熟故に、絶えず衝突を繰り返す。メンバーには虚栄心、嫉妬、他者依存、傲慢、承認欲求、自己欺瞞など心理面での課題があり、彼らは対人関係において不都合を招く要因を抱えている。
主役は繊細すぎる故に良くも悪くも他者から影響を受けやすく、世渡りも上手くない。グループ内に共通の目的がないのでそれぞれ役割が定まらず、バンドを結成したものの一向に物事が進まない。要するに、それぞれバンド活動以外で解決すべき問題や消化すべきタスクを抱えているため、実質まともにバンド活動をやれるような状態ではないんだなこれが。
この状態のままだとバンドには自然消滅する未来が待っている。それだと話が終わってしまうため、現状打破の助け舟として作中にオッドアイ(要 楽奈)が登場する。彼女は誰よりも早く主役の才能を認め、進んで事態に介入し強引に事態を進展させる役割を担う。こうした便利なキャラクターが殆ど登場しないところが、過去作との違いとして顕著だと思える。{netabare}ちなみにオッドアイの所有するギターにはレリック加工が施されている。これには猛練習の痕跡を暗示する意味合いがあるようにも思えるが、実際には腕にヤスリを巻き付けて弾きまくるなどしない限り、ギターを弾いていて表面があれほど大規模に削れることは無い。{/netabare}
オッドアイ加入後もなお、登場人物たちは共通の目的を見出すまでに至っていない。そのため、作中では大して物事が進展しない。そもそも目に見える形で処理できるタスクが用意されていないので、成果として目に見える形で変化が生じないのは当然ではある。リーダーが不在であり進むべき方向がわからないことから、依然として登場人物たちは場当たり的に動くしかない。その上、事件が起きるなど外的要因によって事態が大きく変化することもない。あくまで本作はバンドメンバーの心的同行に焦点を当て続けている。
では作中では何の変化も生じていないのかというと、そんなことはない。絶えず人間関係における摩擦や衝突が頻発し、登場人物の心理面における変化・変遷が逐一描かれる。とはいえ、一話ごとに一人ずつ問題を解決していく構成ではなく、複数の話数(あるいは全話)を通してそれぞれの変化が時間をかけて同時進行で描かれていく。これはなかなかにテクニカルな仕事だとは思った(娯楽として人々に好まれるかは別として)。
本作の特徴として、頻繁に波乱が生じるわりに登場人物たちは成功体験を得る機会に恵まれない。どちらかというと挫折の連続で、辛辣な目に遭っても報いを得られない。それどころか状況は次第にこじれ、悪化の一途を辿る。そのため、観ていて辛いキツイ、つまらない、いい加減にしろとの感想を抱く人が出てくるのも不思議ではないと思えた。ただ個人的には、こうした状況を描くからこそ伝わるメッセージもあるように思う。
時として困難を前に諦めることは賢明な判断とも言える。限界を迎えダメージを負い再起不能になっては元も子もない。ある人の賢明な判断は、それを見る人に知恵ある者の悟りを知らせる教訓にもなる。その一方で、ある人は困難を前に決して諦めず、粘り強く取り組む姿勢を見せる。その姿勢あるいは生き様は、人を励まし勇気を与え、人を元気づける手立てにもなる(受け取る人次第ではあるが)。筆者は本作の中に後者の要素が含まれているように思えた。心の灯を絶やすな、心の声に忠実であれといった、熱い、暑苦しいメッセージが込められているように感じられたからだ。
ちなみに筆者は本作を1~10話まで一気に観た。そのためなのか全然退屈しなかったし、普通に面白かった。特に10話が良かった。これをやりたかったがためにフラストレーション溜めまくってきたんだろうなと。不覚にもちっとウルっと来ちまったよ。ただ、一週間おきに毎週観ている人にとっては、いつまで我慢すればいいの?って感覚になるような気もする。視聴のスタイルによってかなり印象変わるんじゃねえかなと。もちろん連続で観ても苦痛を感じる人も居て当然だとは思う。
主役は内省的で繊細過ぎるが故に生活場面で様々な困難を抱えがちだ。しかしその性質は環境次第では恵まれた素質として活かせる場合がある。周囲とズレている感性は要らぬ労苦を強いられる要因となりうる半面、他に埋もれない強烈な個性を有していることから他者との交流手段として有用に働く場合もある。
本作の主役には他者へ伝えたい思いがあった。長きに亘り心の内に滞留していた微熱のような感覚が、情熱的な詩となって表出する機会を待っていた。これは要するに才能であって、誰にでも備わっている資質ではない。ではバンド内の他のメンバーがそのことに気が付き、主役の才能を認め、その思いが伝わるようにそれぞれが役割を全うし始めたらどうなるか。多少の波風には動じることのない連帯が生じるだろう。そこには目的の一致があり、バンドの進むべき道に光を灯すフロントマンがいる。それを以てバンドの礎は盤石なものとなり、ようやく物事が動き出す準備が整うに至る。異なる個性が目的の一致のもと自発的に異なる働きをすることで、組織のパフォーマンスは高まり結果に結びつく運動体として機能し始める。といった具合に、バンドだけでなく様々な組織に適応可能な原則が本作の中に描かれているような気がした。
10話では主役の熱意が詩となってメンバーの頑な心を砕き、それぞれが内に秘めた熱意の向かう先を見出し始めたかのような展開が用意されていた。バンドリという作品には青春と音楽、絆の物語といった側面がある。過去作においてボーカルは星に喩えられた。本作の内容は過去作と比較してかなり毛色が異なってはいるものの、主柱となるコンセプトはしっかりと継承されていると思えた。
本作は、人間関係の軋轢を前面に映し出し、人の欠点をあげつらい露悪的な人間性を描き出すことだけを目的としていない。人に備わる良心を否定しない視点から登場人物それぞれの心の内に目を配り、最終的には観る人が希望を見いだせる内容になっている。筆者が本作を好きな理由はこの点にある。そうでなければ個人的にはバンドリ関連の作品を観る意味が無い。
昨今、作り手は作品を発表する毎に、批判の体を成していない単なる罵倒をリアクションとして受け止め易い世の中ではある。そんな中で毎度、譲れないところを貫き通してくれることは個人的には嬉しい。ちなみに、ここまでやっといて本作が最終的に誰も救われないバッドエンドとかになったら、普通に泣くよ俺はたぶん。ツーッて悲しみの涙が頬を伝っちまうからマジで。それだけは勘弁してください頼むから。お願いですから。
そういったわけで、10話でようやくバンド活動をまともに行う上で支障となる諸問題が一部片付いた形となった。実質的にはここからスタートなはずなのだが、その過程を丹念に描きすぎたが故か、既にやり切った感が出ている。ただ11話以降どうやって話を収束させるか気になっているので、筆者は最後まで本作を観ることになるだろう。
ところで、作中のサブキャラと所有楽器がしっかり3Dモデリングされていたのが興味深かった。それらのキャラクターは今後、同コンテンツに新たに追加されるバンドのメンバーなのかもしれない。もし次があるとしたら、どういった毛色の作品になるのだろうか。その点についても興味がある。