てとてと さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
原作補完して原作文学よりも内容が良いアニメ映画
太宰治の小説が原作の、107分のアニメ映画。
※作品データベース様より転載
【良い点】
原作の不自然な強引さや御都合展開を悉く改善した完成度の高いシナリオ。
原作の予備知識があっても無くても、違和感なく自然に引き込まれる良質な内容。
原作を脚色した障害展開で終始ハラハラドキドキさせて目が離せない。
友情もさることながら、真のテーマであろう無心の信頼の尊さを理屈を超えて見せてくれる。
セリヌンティウス(本作では愛称セリネ)とディオニシウス王の交流シーンが多く、そのやりとりを通してもテーマが分かり易い。
原作と違いメロスの動機が別に邪智暴虐の王を除かねばならぬ、わけではない、この改変もテーマを信頼に絞る面では良かったと思う。
メロス以外のキャラも丁寧に掘り下げ、オリキャラも含めて魅力的に描かれている。
セリネの恋人のライサが非常にいい女だったり、悪役の王妃も王を本心から案じるが故の刺客派遣だったり、各々の立場や心情が描かれていて人物描写が一面的ではない。
刺客の指揮官も、王妃が幼い頃から彼女を見守ってきた腹心で王妃への忠誠があるなど、(モブ以外は)捨てキャラがいない。
王も猜疑心の塊だけど公正な人物だったり、モブ刺客を除けば邪悪なキャラがいないので清々しい。
シラクサの老人やメロスの村の村長も人格者で存在感を出している。
主にセリネの生い立ちや心情を原作から大幅に補完。
原作だと御都合主義感が拭えないところ、アニメ版はセリネが自ら人質を買って出た背景が掘り下げられていてドラマ的に説得力がある。
作画が素晴らしい。古代ギリシャの風景や風俗の描写、メロス他登場人物の躍動感、激流の水の描き方、戦闘シーンの緊迫感などなど。
風俗ではメロスの妹の結婚式の描写が興味深い。
小説に対するアニメーションの醍醐味、絵があり動く事を最大限に活かせている。
声優陣も豪華、山寺宏一氏のメロスは流石。
【悪い点】
王様が改心するシーンが削られている。
大方のシナリオは原作より良いが、ここだけは改悪。
テーマ的にも、物語の王道的にも、ここで王が改心してハッピーエンドの方がより後味良かった。
原作のハイライトであろう、メロスとセリネが互いに「一瞬疑っちゃった、許せ」と殴り合うシーンを冒頭に持ってくる構成自体は良いが、ラストシーンが地味で消化不良気味に感じる。
この名場面の盛り上がりは流石に原作に遠く及ばない。
【総合評価】9~8点
文学小説のアニメ版の中でもかなりの良作。
名作に対し不謹慎を承知で、ぶっちゃけ原作よりも良いと思う。
小説とアニメ、異なる表現媒体に優劣は無い。本作品は正にアニメーションにしか出来ない世界を見せてくれた。
評価は最高には惜しい「とても良い」
王様が救われてないのだけが残念だった。
余談
「とある科学の超電磁砲T」5話にて婚后さんが「邪智暴虐ですわー!」と激怒していたのを見て、走れメロス難民救済…
走れメロス以外で邪智暴虐って言う事あるんだなぁ。
この回の婚后さんと敵のやりとり、多分、走れメロスのテーマを意識してそう。