てとてと さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
00年代前半のSFジュブナイルの傑作
人類が来たるべき宇宙の脅威に立ち向かう中で、少女たちの学園ドラマも描かれるSFアニメ。
機動戦艦ナデシコの佐藤竜雄監督の代表作の一つ。
※作品データベース様より転載
【良い点】
壮大な構想で描かれるハードSFと、主人公の片瀬志麻ら少年少女たちの等身大の青春劇、マクロとミクロ、どちらの軸も素晴らしい。
超新星爆発で一度壊滅し、そこから189年の歳月を経て、人類が一丸となって、次に迫る危機に立ち向かう。
地味な作風の割に終始面白かった。
細かいSF設定は難しいが物語の構図はとてもシンプル。「ファウンデーション」などの用語も会話の流れで自然に伝わる。
189年は地球や宇宙の尺度だと一瞬、しかし人間にとっては、最初の惨劇を体験した者は誰もいない、
しかし意識下には強烈に残っている時間感覚。
人類史から見ても決して長くはない、しかし、状況の切迫度により、「僅か189年で」人類はかくも変容したのだ…
SFとしては、その状況下で人類社会がどう変容し、どんな意識を持ち、どう行動するのか?などが緻密に描かれている。
if(もし)○○な状況なら、人類は…、これぞSFの極致、本作はSFとして極上だった。
作中の大人・上層部は達観している、189年も人類一丸となって準備し、認識を共有してきた、その事実が理屈抜きに描かれていた。
また、「戦争」に対する人類の認識も示唆に富んでいた。
上層部の老人たち含めて今生きている人類は誰も戦争を知らない。
しかし、主導権争いや疑心暗鬼による人類同士の火種は不気味に燻り続けている。
10話というかなり早い段階で最初の山場であるグレートミッションを達成、普通ならここでクライマックスでもおかしくはない。
だがここからが本番なのが本作の凄いところ。
ひとまずの危機を回避した後におとずれるのは、人類同士の不協和音。
それと並行して、主人公の片瀬志麻たちの青春ドラマも不協和音が混じり加速していく。
ここでも、マクロとミクロの視点を交差させて一つのSF世界観を描いていく巧みさに惹き込まれる。
15話で志麻たちは意外と戦う事に躊躇を見せない、これは戦争という概念自体を持たぬ無垢さ故であろうか。
15話「天使だって弓を持っていますよ。それが武器になるかは使い手次第です」
20話「人間は外敵がいないと纏まれないのか?もっと精神的に成熟せねば」テーマが分かりやすい。
同監督の「学園戦記ムリョウ」で挑んだテーマを、別の角度から描いて見せた感じ。
本作は、人類の真の成熟を模索していくドラマでもあった。
これに対する答えを、志麻たち少年少女の成長という形で示してくれたのが見事だった。
大人が軒並みカッコイイ。
故・藤原啓治氏が演じた熱血漢の白銀教官は本作のもう一人の主人公だと思う。
レイラ教官「教えなくても出来るなら教師はいらない」など、理想的な大人らしい在り方。
上層部含めカッコイイ示唆に富んだ台詞多く、人類が一丸となるこの時代に生きる大人の責務と次代に繋ぐ想いが端々に感じられた。
青春劇としては、才能と劣等感がテーマになった展開が多い感じ。
序盤は劣等生だった志麻の才能開花、努力型の初佳(あやか)の闇とやよいの確執などハラハラさせる。
上辺ではない、少女たちの本音の想いぶつけ合う丁寧なドラマ、容易に解決させない、けれど最後は綺麗に纏めている。
後半はギスギスしがちながら、本音でぶつかりあった末に本当の友達になっていくので爽やか。
OP主題歌がカッコイイ。OPだけでこれは名作か、と高揚感。
キャラデザはユルめだが可愛い、リヴァイアスっぽいプログラム組む描写やマシンのギミックなどのSF感も申し分ない。
【悪い点】
しーぽんたちの青春ドラマとしては、丁寧ではあるけれど、地味。
子供たちは等身大の良さはあるけれど、アニメキャラクターとしては地味。
爽やかに収まるとはいえ、ギスギスする期間が長いため見ていて楽しくはない。
才能と劣等感のドラマは見応えはあった一方で、それ以外の軸が弱いというか、光太とのラブコメも微妙だった。
女の子中心で、男の子は光太含めてあまり存在感が無い。光太の掘り下げが足りてなかった気も。
また、親友のアリサやリンナちゃんとの交流も意外と深くはなかった感も。
サブキャラはそこそこ個性的だけど、群像劇としてはやや物足りなかった。
最大の山場が10話で終了、次のジェネシス・ミッションの盛り上がりはやや地味だった。
最終話の締めはこれで良いのかもしれないが、カタルシスが分かりづらい。
人類存亡を賭けた重大ミッションを主人公の双肩に掛ける展開に、もう少し説得力がほしかった。
ギスギス青春ドラマを重視して、そこがやや疎かになった感が。
【総合評価】9~8点
「学園戦記ムリョウ」と並び、佐藤竜雄監督の傑作SFアニメ。
自分はどちらかというと、本作は青春劇よりもSF方面が好きだった。
不朽の名作なのは間違いないけれど、評価は最高寄りの「とても良い」
【余談】
しーぽんのプログラム組む描写は「無限のリヴァイアス」、コズミックフラクチャーは「蒼穹のファフナー」ぽい。
前後のSFアニメと通じる要素があるので、併せて視聴すればそれぞれ更に面白い。