レトスぺマン さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
もうちょっと評価されてもいいのではないかな?その2
長文のため本文はネタバレで隠します。
{netabare}
※このレビューは前作「ダイバージェンス・イヴ」に記した内容の続きになります※
さて、1期目である「ダイバージェンス・イヴ」からの続きが本作「みさきクロニクル」である。
前作では人類と宇宙生物「グール」とのバトルが描かれた上で、主人公みさきを中心とする
・「陰惨とした世界観の状況を変えていくこと」
・「自分自身に隠された超大な能力に気付かされる」
の2つを軸に多くの謎を散りばめて終了する形となった。
そして本作ではその謎の解明、つまり伏線回収を行うことになるのだが、これが話として初見ではなかなか読み取りづらい。
特に物語の前半~中盤にかけては戦国や昭和を舞台とした【クロニクル=年代記】となり、1期の流れからは一旦断絶する。
しかし、その後のみさきの過去や後半の伏線回収を中心とした謎の解明の部分は、これまで頑張って頑張って考察をし続けた視聴者へのご褒美のようなもので、陰惨な物語をハッピーエンド寄りの形で終止符を打ったわけだ。
ネタばれをしてしまうと、宇宙生物の「グール」とは人類と接触し、その人間の遺伝子を変えて宇宙、そして世界の破壊を望むものであるが、みさき自身がそのグールの遺伝子を父親から受け継いでいる存在であり、世界を幸せな方向に全て改変できる能力を持つ女の子であったということである。
そして前半~中盤にかけての年代記は、全てみさきの意識の中で発生している事象である。
つまり、みさき自身が世界を1から構築している最中であり、それを示すためにはみさきの意識だけではなく、全時代的な事柄が必要となってくる。
だから、視聴者へその事をインプットさせるために映し出される時代も作中から見ればかなり昔である戦国や昭和なのだろう。
そしてもう一つわかるのは本作の題名である「ダイバージェンス・イヴ」がみさき自身を示しているということであり、様々に分岐した世界観を構築する母(=イヴ)としての意味合いが判明するのである。
みさきの幸せな方向へと持っていこうとすることを邪魔してくる存在が本作最大の敵役ルブランであるが、彼もまたグールの遺伝子を受け継ぐ存在であったことから、敵といえども陰惨な世界観に翻弄されてしまった一人と言えるのかもしれない。
このように本作は、視聴者の能動的な姿勢が求められるハードSFであったが、この物語の本質というのはもしかしたら単純なことなのかもしれないとも思えてくる。
特にSF物では、機械や技術が進化した世界観で、それが人間の心理にどのような影響を及ぼすのかということが描かれることも多いが、それも現代へのメタファーや警鐘として捉えることができる場合もあり、本作でもそれを行っている可能性が高い。
そこでこの物語が
・「陰惨とした世界観の状況を変えていくこと」
・「自分自身に隠された超大な能力に気付かされる」
の2つの軸で構成されていることに戻ると、ここでの「陰惨とした世界観」とは本作が放送された経済状況の良くない2003年当時の世界を表し、「超大な能力」とは【陰惨ではないと思っていた世界=過去の時代の幻影】を示しているのではないか。
つまり、グールとのバトルやみさきの世界観の再構築といった描写は、嫌なことがたくさんある時代でもそれを全面的に拒否するのではなくまずは一度自分の中で受け止める必要があると。
それをしてからではないと、人として前に進むことができないといった意味合いにも捉えられる。
そして、私がこの物語でとても現実的だなと思えたことがある。
例えば人間が何かしらの「超大で特別な能力」を与えられたとするならば、最近流行の【なろう系】のように不自由なくそれを湯水の如く好き勝手に使うことを想像してしまいがちだ。
しかし、人間の基本的なスペックは一定であるという概念が示す通り、現実には何かしらの能力が上がればどこかの能力が下がり副作用で苦しむことになるのである。
この作品はこういった能力を手に入れてしまった人物(=みさき)の苦悩を苛烈に描いていることもあり、もちろんこれは見ていてつらいものでもあるが、
陰惨な世界観と同じく現実を映し出す鏡のような部分は絶対にあるのだと思えた所でもあったわけだ。
だから、私が「もう少し評価されても良いのではないか」と特に思うのはこの部分であり、確かに90年代美少女系キャラクターのエロ可愛さに隠れがちではあるものの、あくまでもそれは陰惨な要素を軽減させるためのものであって、現実的な物事に割と近い真面目な物語が展開されたと思えたことには正直舌を巻き、評価自体が低くてもそれを2003年という早い段階で放送したことだけで十分価値があるような気がするわけだ。
(しかも主人公が女の子の作品で!)
そんな本作ではあるが、今後本作が改めて評価されることは残念ながら厳しいとは思う。
それは、自分の中での能動的な姿勢がないとストーリーも追いかけづらく、極めつけには時系列のシャッフルやストーリーが断絶しているようにも感じる点は視聴者を敬遠させてしまう最大の要因でもある。
またビジュアルや3D自体も私は全然好きなのだが、現在の高度な技術で製作されたアニメからすれば、不細工に見えたり演出量が足りないと感じる面もあるかもしれない。
そして、現在は効率性が求められる時代であるから、じっくり腰を据えてストーリーを読み解いていく作品は有名作ではない限り面倒なものとして敬遠されがちな流れも以前より多く出来上がってしまっている。
しかし、その面倒さと向き合うことによって個人的にはいい結果が得られ、なによりも「面倒なことにチャレンジしよう」と視聴者を思わせてくれるからこそ、それを乗り越えれば作品に対する愛情もより深まるわけだ。
確かに全体評価は芳しくないのだけれども、私としてはこのまま埋もれてしまうのはとてももったいないと感じてしまうのであった。
でも刺さる人には刺さると思うよ!
{/netabare}