レトスぺマン さんの感想・評価
3.1
物語 : 2.5
作画 : 2.5
声優 : 4.5
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
ハードボイルドアニメをヒットさせる事はとても難しい
長文のため本文はネタバレで隠します。
{netabare}
レビューを行う前に、梅津泰臣監督の【強み】とは何なのか考えてみよう。
梅津監督は近年に至るまで様々なアニメのOPやEDの演出・作画を手掛けているアニメーターとして有名であり、
逆に、原作・脚本担当としては影が薄くなってしまっている印象がある。
その要因として、そもそものシナリオが雑であるという理由を挙げる評論者は割と多い。
しかしながら、果たして本当にシナリオが雑なのか?と疑問を投げかけると案外そうでないとも感じる。
梅津監督作品の特徴とは、「A KITE」や本作品の前日譚である「MEZZO FORTE」のような殺し合い、派手なガンアクション、物理法則を無視したキャラ動作が挙げられ、一言にまとめれば「シュールでワルいアニメ」であるということだ。
シュールの部分でいえば、本作第1話で戦闘に巻き込まれた小学生あさみを主人公海空来が空中へ投げ飛ばし、あさみよりも早くビルの1階へロープで降りて、上手い事キャッチする描写や、落下中に爆破の威力でビルの中に逃げ込むといったものがある。
そして、ワルい部分は年も立場もバラバラなワルい男女3人組が集って同じ釜の飯を食い、更なる巨悪を成敗するという、【カッコいい勧悪懲悪】的な部分だ。
この2つから考えられるのは、どうしても現実離れした描写となり、評論者としての峻厳な目線で視聴するとシナリオが雑に見え、物語に入り込めなくなってきてしまうことである。
しかし、アニメの良さとは製作者側の思想をキャラクターや画面で語らせたりすることもそうなのだが、現実では起こりえない空想の出来事を青天井でガンガン詰め込んでいく作りも魅力の一つではないだろうか。
そこにあるのは「空想の世界への一時的な解放」なのか、それとも単なる「ワルいことへの憧れ」なのかははっきりしていない。
ただし、少なくとも、それらを意識してシナリオよりやりすぎなアクションをいかにして衝撃的に楽しく魅せれるか、といった部分に注力して制作されているところこそが梅津監督の強みであり真面目さでもあるのだと思う。
そして、「シュールでワルい」部分を基準にしてラインを引き、そのラインを越えて限界まで衝撃を詰め込んでいれば好評価、残念ながら下回った場合はそこそこ〜悪いのレベルに留まってしまうのだと思える。
本作品は危険代行業DSAのワルい3人組が危険な依頼を受け、遂行していく物語であるのと同時に、そこからさらなる巨悪の成敗や、3人組を狙う暗殺者とのバトルを描くものである。
バトルシーンは1話2話の時点ではかなりのスピード感があり、シナリオの展開の速さも相まって「これはかなりの良作になるのではないか?」という期待を感じさせるものだった。
しかし、3話以降アクションよりも危険代行業としての内容がクローズアップされるようになると、途端に作画が低調となり、序盤で見せてくれた派手なアクションやスピード感がほぼ無くなってしまった。
特に3話のカラオケ演出は、どう見ても時間稼ぎをしているような気がしてならず、全く別のアニメを視聴しているような雰囲気になってしまったと感じる。
おそらく、TVアニメ作品ならではの多忙さと表現規制が影響してこのような演出方法になってしまったのだと思うが、個人的にはなんとかできないものか、と思えてしまった。
ただし、シナリオ自体が悪いわけではなく、1話完結のストーリーとしては手堅くまとまっていたものであり、その中でも話の終わりごろに突如として表れるどんでん返しや、4・5話における同時並行ストーリーはなんとなく実写映画にありそうな雰囲気でもある。
そういった要素を空想的なアニメの中に盛り込むとどうなるのか、というところを試してみたい気持ちはかなり伝わってくるものであったし、それに対して作画や演出が足りていない部分が評価が落ちた要因なのだと思う。
本作品のキャラクターは危険代行業というだけあって、かなり奇抜であり個人的にはかなり目を惹くものがあった。
なぜ目を惹かれたのかといえば、通常ハードボイルド的な作品には硬派なキャラを用意して暗く進んでいくのが常だが、本作品はキャラによる適当さが目立っていたからだ。
しかし、作品全体の攻撃性を和らげる意味では良い作用を及ぼしていたと思う。
特に黒川のキャラクターは強烈で、ギャグを言い続ける軸がブレることは最後まで一切なく、思わずマネしたくなるような、セリフの数々はとても印象に残るものである。
むしろこのギャグが、作画の低調さやスピード感がないことをうまくカバーしていたと思うぐらいで、毎話の楽しみになっていた感じだ。
しかし、個性的なキャラクターを置いてもその立ち位置がどうも微妙であったように感じる。
例えば、3人組のやそれ以外のキャラクターにしても面白くはあるのだが、過去に何があったのかという経緯の部分は一応は示されるものの、どこか不明瞭でハードボイルド物につきもののドラマさが足りなくなってしまっていた。
また、あさみにしても確かに可愛く、彼女の成長物語も売りであることはわかるのだが、3人組に深く関わらない部分もあり、一部の話を除いて登場することに意味があるのか?と見受けられる場面もある。
それは、全体のバランスを保つことが難しいためか、削ぐべきところを削がず、付け足すべきところ付け足さなかったとも言えそうだ。
本作品をTVアニメとして放送したのには、「A KITE」「MEZZO FORTE」が成功したことにより、その面白さをもっと一般層に広めたいという監督の考えがあってのことだと思う。
しかし、一般層に広めるということは、テレビで放送できるレベルにまで攻撃表現を抑えたり、キャラクターも気軽に一般受けできるように変更していく必要がある。
そのバランスの取り方をどうしていくかということについて考えると、かなり難しいような気もして、できれば本作品は一般受けを狙わず、6〜7話ぐらいの激しい表現を用いたOVAとして発表したほうが、ファンは限られるけれども、安定した人気が出たのではないかと思えるわけだ。
なので、あえて深読みをするのならば、ハードボイルド的なアニメ作品を一般向けに売り出してヒットさせることの難しさを本作品では実感することになった、というところだろうか。
ただし、個性的なキャラクター面白く、一話完結で見やすい部分は評価できるし、最終話で続編がありそうな場面を見ると、アニメ制作の難しさの中に夢を見せてくれるような気もして、本作品は「ワルいアニメ」ではあるのだけれども、だからといって「悪いアニメ」ではないんじゃないかと私は思う。
{/netabare}