キャポックちゃん さんの感想・評価
4.2
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
重層的な人物造形が魅力
不老不死の仙薬を持ち帰れば無罪放免との約定の下、生きて戻った人のいない神仙境に、最悪の罪を犯した死罪人と、監視役となる打ち首執行人のペア10組が送り込まれる。彼らを待っていたのは、生き物とは思えない異形のモンスターと、美しい人間の姿をした不死の天仙たちだった…
冒頭から斬首シーンや死体の山が描かれ、いかにも刺激の強い作品だが、変に扇情的(感覚的な情欲を煽る)なのではなく、人間の業の深さを感じさせ意外なほどエモーショナル(情動的、心を強く揺さぶる)である。激しいバトルをメインとするアニメの場合、登場人物を類型化して誰と誰がどんな闘いをしているかをわかりやすくするケースが多いのに対して、本アニメは、キャラ設定が複雑で一筋縄でいかない。そこがまた、アニメの見巧者には魅力的である。
中でも主役の二人、サギリとガビマルは、人生経験を重ねるにつれて少しずつ変化する重層的な人物造形が施されていて、興味深い(他の登場人物では、ユズリハとシオンに興味を覚えたが、主役の二人に比べるとやや類型的だ)。
サギリは、処刑を担当する職能集団に生まれ、その技を極限まで磨いたものの、女性であるが故に冷遇される。幼少時から間近に存在する「死」に関心を抱きながら、斬首に専念する生き方に疑念を覚えたせいか、登場してしばらくは、内省的なあまり無感情に見える。そんな彼女が、神仙境でのさまざまな体験を経て、心の奥底に秘めていた情念を表出するようになる過程が、感動的だ。
サギリの技量は高度であっても打ち首に特化されたもので、実戦的でない。首を前に差し出していないと最高の剣技が発揮できない(第6話)し、寸止めはできても不意打ちに弱い(第3話)。剣戟に破れて組み伏されながら、相手がとどめを刺せないでいると、無防備に身を起こして「それは弱さじゃない、強さの種よ」と諭し始める(第3話)。彼女が、いかに刑場での作法を重視する生き方をしてきたかがわかる(他者の内面を忖度せず周囲への配慮に欠ける点は、他の執行人も同様である)。
そのようにして形成された人格の故に、第1話のサギリはまるで無表情だったが、第2話の終盤で最初の感情解放が起きる。「気が重いんだよ、これから背負うものを考えたら」と言いながら圧倒的な強さで殺しまくるガビマルの姿を見て、自分に足りないのが「殺しを恐れぬ強さ」ではなく「殺した命を背負う覚悟」だったと気づき、涙を流したのである。
その後の彼女は、段階的に感情を表に出すようになっていく。{netabare}第3話の冒頭では、神仙境の草花が幻想的だと素直に(と言うか呑気に)驚く。ガビマルが彼女の体調を気遣ったり(第5話)妻の美しさを語ったり(第7話)すると、見ていてちょっと滑稽なほど面食らう。まるで、はじめて心を開いた少女のようだ。{/netabare}
こうしたサギリの変化は、的確な作画によって描出されている。かなり力量のあるアニメーターが担当したのだろう、身体描写を通じての内面表現が見事だが、中でも目の描き方がうまい。一人語りの際のアップでは、モナリザのように左右の視線がわずかに異なる方向を向いており、表情に深みが生まれる。
声優(花守ゆみり)もすばらしい。当初は低めの声であまり抑揚を付けなかったが、しだいに微妙な表情を持たせ始める。最近の声優は、ひとたびキャラ固有の声色を決めると最後まで変えない傾向にあるが、サギリのように成長するキャラの場合は、細かく調節するのが適切である。
サギリがどんな風に描かれているかをじっくりと眺めると、日本アニメの最良の部分を味わうことができる。
もう一人の主役であるガビマルは、サギリほどわかりやすくない。強圧的支配によって彼本来の性格が大きくゆがめられた上、超人的な身体能力によってあまりに多くの人を殺めてきたため、さまざまなパーソナリティが入り交じった、単純な理解を拒む人間になった。視聴者にとっても、他の登場人物にとっても。
サギリの感情解放は、主にガビマルに対する共感を通じて実現される。それだけに、最終回で{netabare}ユズリハがガビマルに関してある疑問を呈したとき、サギリは異様なくらい動揺する。彼女の混乱した姿を目の当たりにしたとき、私はどうしようもなく胸が苦しくて堪らなかった。{/netabare}第2期の制作が決まっているが、見るのが怖い。