Witch さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
1クールアニメで「ピュアラブストーリー」を貫いたのは好感が持てる
【レビューNo.73】(初回登録:2023/7/15)
コミック原作で2023年作品。全13話
元々タイトル切りしていたのですが、交流あるかんぱりさんのレビューを拝読
して「思っていたのと違い、意外といいかも?!」と、視聴し始めたら・・・
かんぱりさん、アザ━━━(*゚∀゚*)ゞ━━━ス!!
(ストーリー)
不眠症に悩まされる「中見丸太」は文化祭の準備中に、校舎の上にある天体観
測室にて同じく不眠症で隠れて睡眠を取る「曲伊咲」と出会う。
同じ悩みを抱える2人は意気投合、密かに天体観測室で睡眠と取ることに。
そのことが学校側に知られたが、養護教諭「倉敷兎子」の計らいで、廃部とな
っていた天文部活動を再開させることで、天体観測室が公認で活用できる運び
となる。こうして中見と伊咲の天文部と安眠を得る活動が始まるのだった。
(評 価)
・このジャンルでは希少?! →1クールアニメでの「ピュアラブストーリー」
ジャンルってどう線引きするのか結構不明確ですが、この辺りの作品は何
となく「ラブコメ」で大括りされている感がありますかね。
アニメ映画だと「ピュアラブストーリー」ってまだ作られてる感じですが、
尺的にも難しいのかな、十数話を純愛だけで見みせていくというのは。
その辺りの事情からか通常の1クールアニメだと、どうしてもコメディ要素
をそれなりに加えた作品ばかりなんですよね。
その点本作は、丁寧な描写ながらも間延びを感じさせないストーリー構成
や演出等、ほぼ「ピュアラブストーリー」で最後まで飽きないように作ら
れているのは純粋に凄いなっと。
・構成の美しさに心惹かれる第1話
肝心な導入部、第1話が本当によく出来ています。 →以下特大ネタバレ
{netabare}・天体観測室の横倒しになっているロッカーに入って眠る伊咲とのファー
ストコンタクト。ここの魅せ方が非常に上手く、そこで目を奪われます。
・そしてここで眠っていた理由の説明を頑なに拒む伊咲。「お前は変だ」
という中見に、伊咲が泣きながら感情をぶつけます。
・不眠で苦しんでいること
・心配させたくない、誰にも言えず一人て悩みを抱えていること
次にここで感情が揺さぶられます。
・そして自分も不眠症だと打ち合明ける中見。ここで少しずつ心を開いて
いく伊咲に共感を覚えます。
・そしていつの間にか2人で眠り、目覚めると近すぎる距離に赤面したり、
最後に中見にダイヤルキーの番号を教えることで(伊咲が完全に中見に
心を開いたことに)微笑ましさを覚えます。
・次の日「つまらないね、眠れなくて落ち込むのも、今どうにもならない
ことで落ち込むのも」という伊咲は「夜のお楽しみ会」の発足を宣言し
ます。
→ その日の夜中に家を抜け出してきて、夜の街を散策しながら海を目
指す2人。「こんな景色が見られるなら眠れないのも悪くないね」
そして海辺で夜明けを迎えます。
・最後に「aiko/OP曲:いつ逢えたら」が入ってきて
「じゃあ、また今日!」で明るく締めるという・・・{/netabare}
1人では苦しくても、2人なら乗り越えられるかも、そんな2人を応援しつ
つも、青春している2人に羨ましさすら覚えるのです。
これで本作に心惹かれてしまいますね。
・不思議な2人の関係性の描写も美しい
・そして目を引くのは2人の関係性ですね。
{netabare}・始まりは同じ不眠症を抱える「同病相憐れむ」関係であり、天体観測
室を無断使用している「共犯者」
(元々クラスメイトもあるが、ロクに会話したことはない)
そして追加で「夜のお楽しみ会・会員」という謎属性?!
・天文部再開により、「共犯」→「部活仲間」
・以降互いに少しずつ惹かれていく、友達以上恋人未満的な?!
2人の関係を言葉に表すのは難しいです。当の中見も
「曲といると眠れなくて退屈な夜も楽しくなる・・・
これってどんな関係だろう?」
と戸惑いを感じているようですしw
しかし、ゆっくりながらもきちんと「ラブストーリー」も進めていく。
そういう丁寧な描写も見事でした。{/netabare}
・主人公は中見ながらも、キャラ的には明るく現状をプラス思考で捉えてい
こうとする伊咲を(主)とし、冷静な判断力を持つ中見がしっかり伊咲を
支えるという(従)の関係でキャラ描写をしている点も、「不眠症」で苦
しんでいることを、視聴者に必要以上に重さを感じさせない上手い演出だ
と感じました。
・またこの作品は2人でいるシーンが多いのですが、それを甘いイチャついた
関係で見せるのではなく、体温や心臓音や声(スマホを使ったラジオ放送)
といった「人の温もり」に安心を覚え眠れるという描写がなんとも美しい。
2人の時間に嫌味がなく、むしろ愛おしさを覚えてしまうのです。
・心に刺さる中見の叙情的なモノローグと彼の成長描写が◎
・眠れぬ夜に天体観測とやはり夜の星空のシーンが多くなるので、その辺り
の作画には力が入っています。でもそれ以上に心に刺さったのは、中見の
叙情的なモノローグですね。
{netabare}「そして空が明るくなって、カーテンから光が透けて、朝がきて・・・
今日もまた絶望する。」
「自分を取りまく世界の回転はあまりにも速すぎて、その遠心力で振り落
とされないように、必死で寄り添っていた」
「まだ夢の続きをみているような・・・でもTシャツに染みた曲の涙が、
ゆっくり冷えていくのを感じる」{/netabare}
など、原作者の言葉選びのセンスも感じてほしいですね。
・それに個人的に一番心に響いたのは「中見の人間的な成長」ですね。
始めは不眠症で不機嫌な描写が多かった中見が、目的意識を持って部活に
夢中で打ち込んでいきます。
{netabare}・よりよい天体写真を撮るために、いろいろ試行錯誤したりOGを訪ねたり。
・部のイベントを成功させるために、伊咲の友達の協力を取り付けるため
に頭を下げにいったり、リーダーシップを発揮し奔走したり。
今までは
「世界が変わるのを待っていた」
中見でしたが、
「世界は自分で変えていく」
ために彼は動き出します。
また(少し思慮が足りない)伊咲を、時には後ろから支え、時には前に出
てリードしていく・・・
伊咲を始めいろいろな人と交わりながら、そこで彼は成長していきます。
そして「自分だけが不幸」だと思っていた彼は気づくのです。
「…でも実際はさ…みんなオモテには出さないだけで」
「それぞれに悩み抱えてるんだよな…」{/netabare}
地味顔なのに(笑)回を追うごとに、どんどん魅力的なキャラに育ってい
く様は、本当に見応えがあったなと。
不眠症や伊咲の他の病気のこともあり、その取扱い等で「作品の捉え方」が人
により分かれそうな感じではあります。
個人的には(「病気は舞台装置」と割り切って観ていて)
・2人の関係性の変化、心の機微を丁寧に描いた「ピュアラブストーリー」。
・伊咲との出会いをきっかけに、中見が「受動的」→「能動的」になり、自分
の世界を変えていく「成長物語」。
・そしてそんな2人を応援するように関わっていく友達たちとの「友情物語」。
「高校生らしい青春」をしっかり描いていた良作だったと思います。
主人公を(伊咲ではなく)中見にして、中見目線から物語を描いている理由が
よくわかる作品だったかなっと。
まあそれだけに「陰キャで地味な主人公で何が面白いねん」って感じる方も一
定数いそうですがw
{netabare}個人的にはその冴えない中見が魅力的なキャラへ成長し、最後に伊咲にしっかり
自分の想いも伝えたので、いい主人公だったと共感できるかな(^^♪{/netabare}
(追 記)
アニメ化は今期でしたが、映像としては「マカロニえんぴつ/遠心」のPVで一足
早くコラボしていたようです(2019年)。
「漫画の画像×音楽」が楽しめるので、興味のある方は是非YOUTUBEで検索して
みてください。