レトスぺマン さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
消費者が主役となる作品が少ないからこそ、このアニメには価値がある
長文のため本文はネタバレで隠します。
{netabare}
エンターテイメントの製作や仕事現場を舞台とし、そこでの人間模様の描いた作品は数多く存在すれど、反対に消費者が主役となっている作品はまだまだ少ない印象がある。
しかし、その少ない中でも本作「推しが武道館いってくれたら死ぬ」はシナリオも程よくまとめられてよかったのだが、アイドル趣味に向き合うキャラクターの心理を写し出していることもあり、そこに惹かれるものは確かにあったのである。
つまり、消費者を題材とする作品はその登場人物に共感できる要素が多ければ多いほどその個人の評価は高いものとなっていくが、それは本作も同様だ。(だからこそ、好き嫌いがはっきり分かれる作品とも言えるが…)
本作は岡山のマイナーアイドルを応援する「えりぴよ」とアイドルである「舞菜」のやり取りを中心にアイドル趣味を持つ仲間との交流を描いている作品である。
ただし、「えりぴよ」にしてもアイドル仲間にしても自分のお気に入りのアイドルに対する思いは常軌を逸脱していて、自分の給料をすべて握手券やCDにつぎこんでしまう描写には引くのと同時にかなり辟易したが、最後まで視聴すると、そうした不器用さを含んだ登場人物の実直さに共感できたことが本作品を好評価にしたいと思えた一番の要因である。
「えりぴよ」の「舞菜」に対するコミュニケーションの取り方に関しては、それはそれでインパクトがありすぎて驚愕したが、「舞菜」の方でも影ではしっかりと受け止めていることから、コメディの中にも「純愛」要素があるのは先述の常軌を逸脱している描写の清涼剤として機能していたと思う。
それを12話を使って少しずつなりでも進展していく様を見せていくのだが、この「少しずつの進展」こそが、アイドルとファンの程よい距離を示しているようにも思えて、物語にも入り込みやすく感じた部分でもある。
本作が伝えたいことは、「熱中するぐらい好きなものに出会えた人生というのは、他人がどう思おうが素晴らしい」という一言にまとめることができると思う。
繰り返しになるが、常軌を逸脱した描写には本当に辟易させられるが、それでも普通より下の評価にはならないといったところだ。
ちなみに、本作の「えりぴよ」のキャラクターを見ていて思うのは、近年のキャラクターとしてはだいぶ【非処女性が高い】部類に入るのかな、と感じたことも結構な印象として残った。
(※ここで勘違いしないでほしいのは「えりぴよ」自身がアイドルにハマる前に彼氏と何人付き合ったとか、そういうことを言ってるのではありません。あくまでもえりぴよの持つ「キャラクター性」の話です。※)
どういうことかといえば、今でこそアニメで主役となるキャラクターというのは【おしとやかさ】【清廉潔白】【しっかり者】といった性格を持つものが多いが、一昔前だとそうではない女性キャラクターが主役を張るアニメは結構あったわけだ。(特にOVAにおいて)
その女性キャラクターの傾向がどのようなものだったのか思いつく限りで記述するのならば、
【一筋縄ではないそれなりの気の強い性格】
【与えられた仕事をとんでもない方法(時には気合)で解決することが多い】
【でも金銭感覚は崩壊しており、ブランド物が大好きで給料のほとんどをつぎ込みあちこちから借金をしている】
【歴代彼氏は頼りがいのないダメ男】
といった具合だ。
では【歴代彼氏〜】の部分を【男性と対等・あるいは男性に対し、上の立ち位置から接する女性】に、【ブランド物】を【アイドル】にそれぞれ置き換えると、「えりぴよ」のキャラクターに結構近くなるような気もしたわけだ。
つまり「えりぴよ」のキャラクターというのは一昔前によくいた強い女性キャラクターからの引用があり、その懐かしさに出会えたことから見やすく感じたというのもある。
また、【とある特定の人物にお金をつぎ込んでしまうキャラクター】が主役となる物語は悲劇的な展開で進み、最終的に破滅を迎えるパターンが基本的な王道と言われている。
しかし、本作品では見事なまでにその逆をやったというところで、ある種邪道な作りともいえるが、危険要素をコメディとハッピーな描写に変換しまくった流れは、本作の作者の実力の裏返しとも思えた部分でもあった。
{/netabare}