「君は放課後インソムニア(TVアニメ動画)」

総合得点
72.1
感想・評価
199
棚に入れた
621
ランキング
1204
★★★★☆ 3.6 (199)
物語
3.6
作画
3.7
声優
3.6
音楽
3.6
キャラ
3.6

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薄雪草 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

ピントが合っていく。君の心に。

もしも私の青春に未練があるとしたら・・・、一度だって屋上の天文台に入らなかった高校時代です。
あと、はじめての恋が、はかなく夢と散ったことは、おまけです。

今は長く母校を離れていますが、たまに帰省したときに銀色のドームに目をやると、あの頃のレトロが懐かしく、センチに胸がキュンとなります。

天文部員とは仲良しでお喋りもたくさんしたし、文化祭の展示会も楽しみだったけれど、インソムニアの人がいたりする?なんて思いもしませんでした。

だって、彼らは天体には好奇心の塊だったし、博識ぶりと言ったらいっぱしのアストロノーマー気取りでしたから。
あ、アストロノーマーっていうのは "天文学者" って聞かされていました。

年がら地学や物理の教科書にかじりつき("シュタ員ズ" って自称する子もいたっけ。)、図書室の隅っこではアインシュタインたちに首ったけ。
でっかい望遠鏡をのぞいてはニマニマしてる人たちだったので、まぁ、インソムニアではなかったんだと思います。

でも、彼らのキラキラな憧れにすっかり感化されてしまった私でしたので、社会に出てからマイ望遠鏡を奮発したっけ。
小さなのぞき穴から土星のリングが見えたときは、思わず言葉を失いました。
月、火星、金星、木星も感動したけれど、土星がイチバンよかったかな、なんて。





さて、本作のイサキとガンタなんですが、こともあろうに、私のメンタリティーな禁足地に、寝るためだけに出入りする "素行不良者" というのが第一印象でした。

でも、本作のテーマを、不眠症でつながった恋バナと受け止めるなら、どうにか許容できる範囲です。
ただ、彼らの交流を生ぬるい気持ちで観測していたのは、二人には内緒です。

途中、イサキから病気の告白があったのは、う~ン・・・と困惑しましたが、最終話で気持ちを通じ合わすに至ったことには安堵できました。

たぶん、インソムニアっていうだけで、校内では異分子かもしれないのに、単心室症(Wikiより引用)となれば、7000人に一人(人口比1.7%)の先天性疾患です。

今の気持ちも、将来のことも、たやすく他人には言えないイサキのこころ根。
「幽霊が出る」なんて嘘をばらまいてでも、自分だけの居場所(寝城?)を確保したいのはすごく理解できるし、それが天文台だったというだけなんですね。

ちなみに、思春期の睡眠障害のパーセンテージはもっと高くて(ネットに各種調査データあり)、みんな苦労して学校に行ってるんだなぁと感心したり、ちょっぴり実感もあったり。

そんなイサキの結界に、足を踏み込んだ闖入者がガンタだったんですね。
イサキをすごいなぁと思うのは、しっかり寝顔を見られたのに、インソムニアという共通項だけで意気投合できてしまう度量。

彼女のスケール変更は、独りぼっちから好配へという友連れ感なのか、単独犯から共犯という馴れあい感なのかは良くは分からないけれど、何かしら共鳴しあう芽吹きどきをガンタに期待したのかもしれません。

二人ともして控えめな振る舞いだったので、深くは読み取れなかったのですが、昼になく夜になく重ねていくエピソードは、その絆を深めていったのは確かなことのように感じました。

二人をバックアップする能登の風景は殊のほか印象的で美しく、一度ならず、二度、三度と出かけてみたくなる想いになりました。
行くとしたら、晴天を狙って、休暇を長めに取る腹づもりでなきゃいけないでしょうけれど。





近頃、本屋さんに行くと、病気をネタに感動に泣かせる作品が多く刊行されているような感じです。
難しいのは、内容や設定が "当事者性を帯びている" ことなんですね。
その意味では、ハッピーエンドか、ビターエンドか、落としどころが本当に難しい時代になってきました。

最近、ニュースなどで "合理的配慮" というコトバを聞いたり、文字を目に留めたりします。
原作者や制作陣は、取材を通じてそうした実態にいくらかは触れるでしょうから、それを踏まえたうえでのフィクションの表現でしょう。

作品を視聴する側も、それぞれ現時点の知見や思いで受け止めるわけで、感想も評価もその時点での捉えになるはずです。
だからこそ、クリエイターの意図を受け止めること、つまり消費する側の咀嚼力と理解力が大事になってきます。

お金をかけて創り、公共の電波に乗せ、視聴者に訴えかけてくる "合理的配慮" と "そのメッセージ" とは何なのか。
常にブラッシュアップする気持ちと、未来志向に感応し体得する立ち位置にいないともったいない。

これからの時代の方向は、それだけ人間の見方や捉え方に深化を見せようとしているのだろうと、私は嬉しい気持ちです。

作品へのピントは、モニターの向こうにいる遠い当事者と、自分のなかの当事者性に近しくフォーカスするテクニックが必要になる。

イサキとガンタの優しい笑顔に、そんなふうに思える私でした。

投稿 : 2023/07/13
閲覧 : 190
サンキュー:

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