Dave さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
文学的な、響けユーフォニアム
1.「動」と「静」
劇場版「誓いのフィナーレ」(久美子2年生編)の裏側で、ひっそりと、しかし着実に変化していった2人の少女の物語。作中作である「リズと青い鳥」の物語になぞらえた少女たちの心の成長と関係の変化を、女性監督ならではの繊細で私的なタッチで美しく描いています。響けユーフォニアムが感動や躍動の「動」的な作品であるのに対し、こちらのスピンオフは見落としてしまいそうになる思春期の心の機微や言葉にできない内的な葛藤を、極力セリフではなく【情景】と【音楽】で静かに語りかけてくる「静」的な作品という印象を受けました。
2,作画
響けユーフォニアムと声優は同じながら作画のタッチがかなり異なるので、最初の5~10分くらいは少し抵抗を感じました。まるでいつもとは違った眼鏡をかけたような、そんな感覚です。声も舞台も同じなのに、アニメらしいはっきりとした輪郭ではなくどことなく輪郭のぼやけたようなキャラデザで、これまで響けユーフォニアムに思い入れが強ければ強いほど脳に混乱をきたしますが、間もなく物語に引き込まれて気にならなくなりました。
背景はとことん美しいです。ただ美しいだけではなく、まるで絵画のように情景がセリフの代わりに語りかけてきます。そうですよね、京都アニメーションの作品ですからね。ほんのわずかなカットにもちゃんと意味を込めていて、ああこれが世界のアニメをけん引するスタジオの作品だなと妙に納得しました。
3.音楽
響けユーフォニアムも演奏が素晴らしいのですが、セリフや動きの少ない本作では、より聴覚が鋭敏になります。BGMとしての吹奏楽、主人公たちが奏でるハーモニー、他の団員たちの合奏、どれも胸に染みます。オーボエの音、本当に美しいですね。
4.ストーリー
そして最後にストーリーですが、さすが女性作家&女性監督による作品だなと。女の子から女性に成長する、最後のステージ。アイデンティティは、誰かと同じであることではない。いつも一緒にいた友達と、いつまでもは一緒にいられない現実。独占したいけど、相手には相手の人生があって、可能性があって。そしてそれを認めて変化を受け入れなければ、自分もあいても羽ばたけない。すこし悲しいけど、より広い世界へ踏み出すには、失うことも受け入れなければならない。飛び立つしか、ない。
この作品を見た後で、もう一度劇場版「誓いのフィナーレ」が見たくなりました。あの合奏には、いろんな色の糸が紡がれているんですね。
P.S. 私の大好きな作品「宇宙よりも遠い場所」のめぐみちゃんとキマリの関係を思い出しました。こちらもあちらも、真剣な少女たちに幸あれ。