「吸血姫 美夕(TVシリーズ)(TVアニメ動画)」

総合得点
67.4
感想・評価
67
棚に入れた
419
ランキング
2474
★★★★☆ 3.7 (67)
物語
3.7
作画
3.6
声優
3.7
音楽
3.7
キャラ
3.8

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ネタバレ

レトスぺマン さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

個人的90年代深夜アニメ最高傑作

長文のため本文はネタバレで隠します。

{netabare}
私が本作品を初めて見たのは2001年の頃で、今から20年以上も前の事である。

このアニメは1997年~98年にかけて放送された深夜アニメ黎明期の作品で、はぐれ神魔と呼ばれる妖怪とヴァンパイアである美夕(+その仲間)のバトルを描いた作品である。
しかし、何の罪もない人がはぐれ神魔に翻弄され、ほぼ毎回バッドエンドを迎える世界観のもと繰り広げられる物語ははとても見ごたえがあり、ドラマ性は群を抜いていた。
このアニメは、今まで私が見てきたアニメ作品でも最高グループ中2番手ぐらいにランクインする程の魅力を感じる。

監督は魔法騎士レイアースの平野俊貴氏、シリーズ構成は現在小説家として活躍されている早見裕司氏である。

まず驚かされたのは、作品全体の雰囲気だったと思う。
明らかに趣が違うOP、妖艶なキャラクター、独特の恐怖感、どこか悲しげなED。
そういったものに強く惹かれたのだ。
ただ、当時はストーリーが良くわからず、なんとなく「暗い話」というのがわかる程度で2・3話見て、視聴を終わらせてしまった。

しかし、頭の片隅にはシーンの一つ一つが残り、いつか全話視聴してみたい願望はあったのだが、数年前にいよいよ全話視聴する機会が得られ、今年に入ってからの再視聴も踏まえ感想をここに書き留める。

まず第一に申し上げたいのは、上記に挙げた作品全体の雰囲気にまたしても振り回されてしまったという事。
もう一つは、ストーリーが完全に把握できたことによって、キャラクターに対してとてつもない同情心が芽生えてしまったことだ。
この2点を感じ取れた時点で、本作品に対する評価は相当高いものとなったと思う。
ここで大切な事は、そう思えるように至った過程を自分なりに解釈することで、本作品に対する理解がより深まるのではないかとも思えた事だ。

まず、作品全体の雰囲気の正体についてだ。
ここに着目したのは、本作品のOPやEDからして明らかに一般的なアニメとは趣が違う事に加えて、それは要素の一部にしか過ぎず、本来のベースたるものがあるからこそ、そのような演出を意図的に行っているのではないか、と思ったからだ。

そのベースとなっているものは本作品のWikipediaに書かれている通り、「日本、海外の特撮作品からの引用がある」ことも勿論そうだが、幼い頃に見聞きした記憶のある伝承、文学やアニメ作品もそれに含まれる事に気づく。

例えば、作品全体を通してもゲゲゲの鬼太郎をモチーフにしたであろうものもあるし、赤い靴、人魚姫、妖怪大戦争、魔界転生からの引用かな?と思われる話もある。

ここでのポイントは、こういった作品のストーリーを1〜10まで説明して、と言われて説明できる人はなかなかいないのではないか。
つまり、「作品自体は知っていて見た記憶はあるんだけど、忘れてしまっている」というある種の眠りに近い状態から想起させることで、「あ、そういえばあの時の作品はこういうものだったな。」と記憶の蘇りが発生する。

そして、想起させる方法を刺激的なものにしたり、そこからアレンジを加えることによって心に残る質の高い作品が出来上がる算段だ。

本作品の評価を見ると「幼い頃に感じた記憶が呼び覚まされる気分にさせられる」といった意見も散見されるが、これは実に的を射ていて、子供の頃に見て恐怖を感じた作品というのはトラウマに近い状態となり、大人になってからもなかなか消えない心理特性がある。
先述したOP、EDの音楽やナレーションもこれに対して効果的に作用しているといえるだろう。

そして、一話一話余すことなく、この手法を取り入れていると気づいたときに自分はとんでもない作品に出合ってしまったと思うのと同時に、本作品が格式の高い素晴らしい作品であるとも感じたのだ。

もう一つはキャラクターに対するとてつもない同情心である。
本作品の世界観としては、現代に出没するはぐれ神魔を退治する美夕とその仲間、そして一話毎に出てくるゲストキャラクターとの交流が描かれる。
しかし、相当なまでに理不尽であり、ある種の禍々しささえ感じられるものだ。

その理由としては、ゲストキャラクターの多くが「感情的には汚いところもあるけど、悪い人ではない」ことではないだろうか?
つまり、ネガティブよりではあっても、人間の負の感情としては結構リアルなわけだ。
そういった人々がはぐれ神魔の餌食となり、バッドエンドを迎えるさまは見ていて非常に心苦しく、主人公美夕も、はぐれ神魔の餌食となった人を救おうとするが、大概は失敗に終わるため、やるせなさや徒労感に襲われることもしばしばあった。

しかし、そんなストーリーでもなぜ最後まで見続ける事ができたのかといえば、上記で挙げた、他作品からの引用の要素をうまく使って、暗いストーリーにそれらを投影させる雰囲気を味わうところがベースとなり、そこから救いのないストーリーの中にも、少なくとも美夕側にいるキャラクターの過去について掘り下げがしっかりとされていた事。
またバッドエンドを迎える回でも、その中に救いともとれる要素を持つ話も少ないながらあり、それに加えて、ストーリー自体の伏線回収劇も良かったのだと思う。
前者についていえば、美夕とラヴァの固い絆を伺わせるシーンは勿論、冷羽&松風のコンビも、最初はいけ好かない感じではあったが、ゲストキャラクターの影響を受けつつ、内情がどんどん明らかになっていく様は面白味があって良い。

この作品、こういう視聴者をキャラクターに感情移入させるための絶妙すぎる匙加減が本当に素晴らしいと思う!

後者も、特に第17話「うつぼ舟」は暗いストーリーの中にも複雑な事情が絡みあい、はぐれ神魔の中にも完全なる悪ではない存在がいることが示唆されるなど、声優さんの演技も相まってとてつもないドラマがあり、正直、液晶テレビの偏光フィルター、配向板をすべてぶっ壊してでもこの世界のキャラクターに延々と同情していたいと思えるようなストーリー運びだったと思う。

そして、本作品のラストは確かに衝撃的なものではあったが、そこに至るまでの伏線が地道に積み重ねられていて、それが判明したときの驚きは正直アニメ作品としての良い方向での可能性のようなものが垣間見えたわけだ。

最後に本作品に対して、一つ個人的に思ったことがある。
それは、キャラクターに対する愛情表現といえる「萌え」と「妖艶」の大きな違いを認識させられたことだと思う。

確かに本作品は90年代の美少女を意識して描かれているキャラクターが多く、人によっては「萌え」的作品として認識できる場合もあるかもしれない。
しかし、キャラクターに対する愛情は持てはしたものの、その想いも通常のそれとは違っていたわけだ。

ちなみに、「萌え」と「妖艶」を国語辞典で調べると
【萌え:キャラクターに対する最大級の愛情表現のようなもの】
【妖艶:あやしいほどになまめかしく美しいこと。ミステリアス】
と出てくるが、つまり自分は後者の意味の雰囲気を本作品から多く感じたという事である。

では、「萌え」と「妖艶」の何が違うのかといえば、確かにどちらも女性キャラに対する好感という意味として捉えれば同じだが、そのキャラクターから放たれる愛情をベースに「寡黙・苦悩・煩悶・憎悪・色情」の要素が増えれば増えるほど「妖艶」に近くなっていくのだと思う。

例えば、悩みを抱えた女性を見るとグッと引き付けられる展開というのはよくドラマでも題材とされるものだし、それを逆手にとって、男性を破滅に追い込んだりする女性像はこの「妖艶」部分のネガティブさの象徴であると言えるわけだ。

もちろん現実でもそれに似たような事件も多々起こり、ワイドショーなんかを賑わす結果になるわけだが、本作品の改めてすごいところは、まさかアニメでこういう事を表現できてしまう事実に対しての驚きなんだと思う。

つまり、苦悩を抱えた女性を見たときに「ああ、自分がなんとかしてあげたい」「救ってやりたい」思いから近づくことに成功するのだが、最後には裏切りや死、別離で終わるという人間の持つ精神の一つである破滅願望を刺激させるようなものが本作品の禍々しさや理不尽といったものに表れていると。

それを現実でやってしまうと大変なことになるから、アニメの作中で疑似的に味わえるのが本作品の魅力であるのかもしれない。

いずれにしても本作品は誰が誰でも勧められるような作品ではないのだが、ストーリーやキャラクターへの同情心以外にも、考察の観点からも満足させてくれる事がわかって本当に90年代の歴史に残る素晴らしいアニメ作品だなと思った次第である。
{/netabare}

投稿 : 2023/07/01
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