かがみ さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
日常系の純文学
「日常系」と呼ばれる作品群は多くの場合は4コマ漫画形式を取り、そこでは主に10代女子のまったりとした何気ない日常が延々と描かれる。ここで描き出されるのはいわば作品世界の「空気」そのものであり、このことからしばし「日常系」は「空気系」とも呼ばれたりもする。ある意味で日常系とは近代的な価値規範である「大きな物語」が失効した後の「終わりなき日常」を積極的に引き受けようとした想像力でもあったといえる。そして大きくいえばゼロ年代における日常系作品が「ひだまりスケッチ」「らき☆すた」「けいおん!」に代表されるように理想的な「つながり」を描き出してきたとすれば、2010年代における日常系作品の多くでは、例えば「お仕事(ご注文はうさぎですか?/NEW GAME!/こみっくがーるず/おちこぼれフルーツタルト)」「留学や留年(きんいろモザイク/スロウスタート)」「アウトドア(アニマエール!/恋する小惑星)」「家族や地域社会(まちカドまぞく/スローループ/RPG不動産)」といった形で何らかの「つながりの外部」というべき回路の導入が試行錯誤されてきた。こうした日常系の傾向変化の中において本作は2010年代的な「つながりの外部」を開くことなく、あくまでゼロ年代的な「つながり」にこだわり続けた作品であった。「ノーイベントグッドライフ」という12話のタイトルが象徴するように本作では文化祭にも出なければ、キャンプにも行かないし、もちろんまぞくにもならず、ただただ情報処理部の面々による自己目的的なコミュニケーションがひたすら反復されていく。そして、このような--例えば2話冒頭の「なんつってつっちゃった」のような--非意味的なコミュニケーションがエクリチュールの誤配を孕みつつオートポイエーシス的に増殖することで彼女たちの「つながり」はその内部においてより複雑性を高めていくのである。こうした意味で本作は「終わらない日常」に対するラディカルな回答であると同時に「つながり」という名の社会システムの生成過程を極めて高い純度で描き出したいわば「日常系の純文学」といえるかもしれない作品である。